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第63話 手紙の返信
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私はこの世界の文字は書けないし、英語やロシア語もさっぱりだ。なのでメイドに代筆をお願いした所快く引き受けてくれた。
「手紙に書く内容はいかがなさいますか?」
「え~と……」
私はメイドにこの事は絶対に誰にも言わないでほしいという条件を付けてから、思っていたことを全てメイドに吐き出した。彼女はさらさらと羽ペンで手紙を書き終えると、封をしてくれる。
「ちなみに、私の考えについてあなたはどう思いますか?」
「そうですね……私は独身なのであまり詳しくはわかりませんが、噂話などでよければ……」
聞けば彼女の友人である虎人の女性は、帝国に住んでいた人間の男性を番として迎えたそう。だけどある日彼は私やアナスタシアさんが住んでいた世界に興味を持ったのだと言う。
「一応彼は生まれも育ちもアルグース帝国で、彼の両親がオトネ様と同じ召喚されてきた人間ではあったのですね。両親に故郷を見せたいのと親が心配だという一心で彼は両親と共にあちらへと旅立ったと聞いています」
虎人の女性には既に双子の虎人の兄弟が生まれていたというのもあり、区切り的にとらえていたというのもあったそうだ。
「その虎人の子はどうなったんですか?」
「結構頑張って引き留めたみたいですけど、相手の気持ちが硬かったみたいで……今はシングルマザーとして頑張ってます」
アルグース帝国にも託児所はあるみたいだけど、育児はやっぱり大変だそう。そして彼女は死ぬまで独身を貫くつもりであるとも聞いた。
「あの人以上の方に出会える予感がしないとおっしゃっていました」
「上書きできそうな人とは出会えないと……」
「そう言う事でございます。子をなすという役目を終えた異世界人は、元の世界に戻る事が多いんです」
そう語るメイドの表情は暗かったので、私は話をしてくれてありがとうというお礼を言った。
「いえ、お気になさらず。こちらの手紙は私がお出ししておきます。くれぐれも他言無用という事で」
「お願い」
アナスタシアさんとサファイア所長から返信が届いたのはその日の夜。予想以上の速さにびっくりしたけど、手紙を持ってきてくれたのがメイドでアルグレートやツォルグさんの耳には入っていない事を知ると、安堵の気持ちが湧いて出てきた。
「よいしょ……」
封を開けると、中には便箋が2枚入っていた。文字が読めないので手紙を書いて出してくれたあのメイドに読んでもらうと、アナスタシアさんとサファイア所長それぞれの便箋が同封されていると知る。
「まずは奥方様のものからお読みいたしますね」
――乙音が苦しい思いをしているのは理解できたわ。確かに元の世界も気になるし、グスタフ公爵の事も生まれてくる子供の事も気になるわよね。でもこの事は乙音、あなたが答えを出すべきで、幸せの形は人それぞれだと私は思うから、私からこうした方がいい! と言うのは出来ない。ごめんね。でもあなたがすっごく不安なのは伝わったわ。どうにか良い方向へ進めるように、そしてあなたの体調も安定するように祈るわ。また何かあったらいつでも連絡してきて頂戴ね。
要約するとこんな感じの文章がつづられていた。手紙に書かれているのは筆記体でもキリル文字でもないアルグース帝国の文字。もしかしたらサファイア所長か誰かが代筆してくれたものかもしれない。
「つぎに所長からのお手紙を代読いたしますね」
「お願いします」
――グスタフ公爵夫人。この度はお手紙を頂きありがとうございます。 体調の程はいかがでしょうか? くれぐれも無理はなさらないでくださいね。
私はグスタフ公爵側の立場であるので、あなたの立場とは真逆の立場にはなります。それでもよければ私の持論を参考にしていただければと思います。
私自身は番と死ぬまで寄り添いたいという気持ちです。しかしあくまでそれを決めるのは私でもグスタフ公爵でもなくあなた自身だと考えます。あなたがカギを握っているのです。どのみち契約を交わしている以上、グスタフ公爵はあなたの考えを尊重しなければならないので、あなたが決断を下さなくてはなりません。おっとここまで書いてアナスタシアとどうやら同じ考えのようである事に気が付きました。また何かありましたらいつでもご連絡下さい。あなたとグスタフ公爵が後悔しないように、話し合いを重ねていければと思います。
と、長い文章が小さな文字でみっちりと記されていた。
「手紙に書く内容はいかがなさいますか?」
「え~と……」
私はメイドにこの事は絶対に誰にも言わないでほしいという条件を付けてから、思っていたことを全てメイドに吐き出した。彼女はさらさらと羽ペンで手紙を書き終えると、封をしてくれる。
「ちなみに、私の考えについてあなたはどう思いますか?」
「そうですね……私は独身なのであまり詳しくはわかりませんが、噂話などでよければ……」
聞けば彼女の友人である虎人の女性は、帝国に住んでいた人間の男性を番として迎えたそう。だけどある日彼は私やアナスタシアさんが住んでいた世界に興味を持ったのだと言う。
「一応彼は生まれも育ちもアルグース帝国で、彼の両親がオトネ様と同じ召喚されてきた人間ではあったのですね。両親に故郷を見せたいのと親が心配だという一心で彼は両親と共にあちらへと旅立ったと聞いています」
虎人の女性には既に双子の虎人の兄弟が生まれていたというのもあり、区切り的にとらえていたというのもあったそうだ。
「その虎人の子はどうなったんですか?」
「結構頑張って引き留めたみたいですけど、相手の気持ちが硬かったみたいで……今はシングルマザーとして頑張ってます」
アルグース帝国にも託児所はあるみたいだけど、育児はやっぱり大変だそう。そして彼女は死ぬまで独身を貫くつもりであるとも聞いた。
「あの人以上の方に出会える予感がしないとおっしゃっていました」
「上書きできそうな人とは出会えないと……」
「そう言う事でございます。子をなすという役目を終えた異世界人は、元の世界に戻る事が多いんです」
そう語るメイドの表情は暗かったので、私は話をしてくれてありがとうというお礼を言った。
「いえ、お気になさらず。こちらの手紙は私がお出ししておきます。くれぐれも他言無用という事で」
「お願い」
アナスタシアさんとサファイア所長から返信が届いたのはその日の夜。予想以上の速さにびっくりしたけど、手紙を持ってきてくれたのがメイドでアルグレートやツォルグさんの耳には入っていない事を知ると、安堵の気持ちが湧いて出てきた。
「よいしょ……」
封を開けると、中には便箋が2枚入っていた。文字が読めないので手紙を書いて出してくれたあのメイドに読んでもらうと、アナスタシアさんとサファイア所長それぞれの便箋が同封されていると知る。
「まずは奥方様のものからお読みいたしますね」
――乙音が苦しい思いをしているのは理解できたわ。確かに元の世界も気になるし、グスタフ公爵の事も生まれてくる子供の事も気になるわよね。でもこの事は乙音、あなたが答えを出すべきで、幸せの形は人それぞれだと私は思うから、私からこうした方がいい! と言うのは出来ない。ごめんね。でもあなたがすっごく不安なのは伝わったわ。どうにか良い方向へ進めるように、そしてあなたの体調も安定するように祈るわ。また何かあったらいつでも連絡してきて頂戴ね。
要約するとこんな感じの文章がつづられていた。手紙に書かれているのは筆記体でもキリル文字でもないアルグース帝国の文字。もしかしたらサファイア所長か誰かが代筆してくれたものかもしれない。
「つぎに所長からのお手紙を代読いたしますね」
「お願いします」
――グスタフ公爵夫人。この度はお手紙を頂きありがとうございます。 体調の程はいかがでしょうか? くれぐれも無理はなさらないでくださいね。
私はグスタフ公爵側の立場であるので、あなたの立場とは真逆の立場にはなります。それでもよければ私の持論を参考にしていただければと思います。
私自身は番と死ぬまで寄り添いたいという気持ちです。しかしあくまでそれを決めるのは私でもグスタフ公爵でもなくあなた自身だと考えます。あなたがカギを握っているのです。どのみち契約を交わしている以上、グスタフ公爵はあなたの考えを尊重しなければならないので、あなたが決断を下さなくてはなりません。おっとここまで書いてアナスタシアとどうやら同じ考えのようである事に気が付きました。また何かありましたらいつでもご連絡下さい。あなたとグスタフ公爵が後悔しないように、話し合いを重ねていければと思います。
と、長い文章が小さな文字でみっちりと記されていた。
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