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第70話 マリアとの対話
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「ごきげんよう。お会いできて光栄でございますわ」
マリアはいつもと変わらない赤いドレスを身に纏って屋敷に現れた。この赤いドレスどれくらい持っているんだろう?
いやいや、今はそんな事考えている暇はない。玄関ホールでメイド達と彼女を出迎える私は作り笑いを精一杯作るだけだ。
「この間は申し訳ありませんでした。せっかくおいでてくださったのに」
「いえ、オトネ様が謝る必要はございませんわ。こちらが急にやって来たのがよくなかったのですから」
赤い扇子をパタパタと仰がせながら余裕のある笑みを浮かべる。う、やっぱりマリアは苦手かも……。さっそく応接室に彼女を案内すると、マリアはメイドにお茶をくださるかしら? と告げた。
「かしこまりました」
私はお白湯をティーカップに入れてもらった。なんだかんだで一番お白湯が飲んでいて身体が落ち着く気がする。
「グスタフ家の紅茶はいつ飲んでも美味しゅうございますわね」
ふふっと白い歯を見せて笑いながら、マリアは紅茶の入ったティーカップを机の上に置いた。
「アルグレート様とはこれからどうなさるのか、ちゃんとお話になりましたの?」
いきなりの話題に私はえ? と小さく吐き出すしか出来ない。いやまさかここでマリアに詰め寄られるなんて。
「まだちゃんと会話していなくて……産んでからになるかもしれないです」
「やはり私の予想通りでしたわね。以前ポプリをアルグレート様にお渡しした際にそのような予感がいたしましたもの」
笑みを一切崩さずに語るマリアからは、凍りついたかのようなオーラが感じる。近くにアルグレートがいるはずだからそれが唯一の安心材料ではあるけど……いや本当にいるよね?
「すみません……」
「あなたは何も悪くありませんわよ。腹を割って2人で話し合いするだけでございますから」
簡単に言ってくれるなあこの人。そんなノリなら今頃呑気に日常を過ごしてるから。
でもそんな事はマリアには言えない。
「どう話したら良いかわからなくて……」
「簡単ですわ。あなたが思っている事をそのまま口にすべきです」
「でも……まだ考えは全然思いつかなくて」
「そんなの、言ってみなければわからないじゃないですの!」
マリアがいきなりガバッと席を立った。そのあまりの勢いに私は思わず肩をびくつかせる。
「本当は私はアルグレート様と結ばれたかったのでございますよ!? でも竜人同士が子が成せない事で結婚できないの、あなたご存知でしょう!?」
眉を吊り上げて怒りを表すマリアに、私ははい。としか言えない。
「だから私の初恋はあきらめざるを得なかった! だからあなたには嫉妬していないといえば嘘になりますわ。それでも私なりにちゃんと受け入れて素直に応援していた所でこのザマ!」
「……っ!」
「あなたが子が生まれてからどうすべきかまだ迷っているのは仕方ないとしても、アルグレート様とまだ対話していないなんて、私の顔に泥を塗るような行為ですわよ!?」
彼女の剣幕に私はすっかり蹴落とされていた。だが胸の奥では私の気持ちなんてマリアに分かるわけないという反発心がこの期に及んで湧いてくる。
「マリアねぇ、さっきから言いたい放題言ってくれるけどさぁ、私の気持ちわかって言ってる!?」
「……っ!」
やばい、マリアに様付けるの忘れたのとタメ口になってしまった。だがここまできたらもう引き返せない。
「私は異世界転移者なの分かる!? 元の世界の事だってあるしアルグレートとは一緒にいたいけどわけわかんないの!」
自分でもわけがわからないのに、口は留まる事を知らない。
「ああ、もう! マリアがアルグレートと結婚すれば良かったのに! 私はアルグレートの事好きだけど離れたくない!」
はあはあ……と息を切らしながら意味のわからない事とマリアを傷つけるような言葉を言ってしまったのと、察した私はぽかんと口を開けたままのマリアに頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。言い過ぎてしまいました……」
「……」
沈黙が流れる。だけど私は最低でもマリアが何かを発するまで頭を下げなければ。
「あなたの混乱する気持ちはよく分かりました。こちらも急に怒りを表して大変申し訳ございません」
「マリア様……」
「マリアで結構ですわ。あなたは公爵夫人なのだから」
すると部屋の扉がぎい……と音を立てながらゆっくり開かられると、アルグレートが床へと倒れ込んだ。アルグレートの上にはツォルグさんにメイド達がいてドミノ倒しに倒れていく。
「ぐ……」
「え、あ、ちょ、アルグレートとツォルグさん達!?」
「お、重い……どいてくれ……」
すぐさま扉を全開にして倒れたメイド達の一部を応接室に引っ張り出して、下敷きになっているアルグレートを助け出す。
「はあ……死ぬかと思った。こんな所で圧死だなんて洒落にならん」
「アルグレート、ねえなんでここに?」
「居ても立ってもいられないから、廊下で君達の会話を聞いていたんだ。ツォルグ達と一緒に」
ん? という事はさっきのマリアとのやり取りをアルグレートは全部聞いていた……?
マリアはいつもと変わらない赤いドレスを身に纏って屋敷に現れた。この赤いドレスどれくらい持っているんだろう?
いやいや、今はそんな事考えている暇はない。玄関ホールでメイド達と彼女を出迎える私は作り笑いを精一杯作るだけだ。
「この間は申し訳ありませんでした。せっかくおいでてくださったのに」
「いえ、オトネ様が謝る必要はございませんわ。こちらが急にやって来たのがよくなかったのですから」
赤い扇子をパタパタと仰がせながら余裕のある笑みを浮かべる。う、やっぱりマリアは苦手かも……。さっそく応接室に彼女を案内すると、マリアはメイドにお茶をくださるかしら? と告げた。
「かしこまりました」
私はお白湯をティーカップに入れてもらった。なんだかんだで一番お白湯が飲んでいて身体が落ち着く気がする。
「グスタフ家の紅茶はいつ飲んでも美味しゅうございますわね」
ふふっと白い歯を見せて笑いながら、マリアは紅茶の入ったティーカップを机の上に置いた。
「アルグレート様とはこれからどうなさるのか、ちゃんとお話になりましたの?」
いきなりの話題に私はえ? と小さく吐き出すしか出来ない。いやまさかここでマリアに詰め寄られるなんて。
「まだちゃんと会話していなくて……産んでからになるかもしれないです」
「やはり私の予想通りでしたわね。以前ポプリをアルグレート様にお渡しした際にそのような予感がいたしましたもの」
笑みを一切崩さずに語るマリアからは、凍りついたかのようなオーラが感じる。近くにアルグレートがいるはずだからそれが唯一の安心材料ではあるけど……いや本当にいるよね?
「すみません……」
「あなたは何も悪くありませんわよ。腹を割って2人で話し合いするだけでございますから」
簡単に言ってくれるなあこの人。そんなノリなら今頃呑気に日常を過ごしてるから。
でもそんな事はマリアには言えない。
「どう話したら良いかわからなくて……」
「簡単ですわ。あなたが思っている事をそのまま口にすべきです」
「でも……まだ考えは全然思いつかなくて」
「そんなの、言ってみなければわからないじゃないですの!」
マリアがいきなりガバッと席を立った。そのあまりの勢いに私は思わず肩をびくつかせる。
「本当は私はアルグレート様と結ばれたかったのでございますよ!? でも竜人同士が子が成せない事で結婚できないの、あなたご存知でしょう!?」
眉を吊り上げて怒りを表すマリアに、私ははい。としか言えない。
「だから私の初恋はあきらめざるを得なかった! だからあなたには嫉妬していないといえば嘘になりますわ。それでも私なりにちゃんと受け入れて素直に応援していた所でこのザマ!」
「……っ!」
「あなたが子が生まれてからどうすべきかまだ迷っているのは仕方ないとしても、アルグレート様とまだ対話していないなんて、私の顔に泥を塗るような行為ですわよ!?」
彼女の剣幕に私はすっかり蹴落とされていた。だが胸の奥では私の気持ちなんてマリアに分かるわけないという反発心がこの期に及んで湧いてくる。
「マリアねぇ、さっきから言いたい放題言ってくれるけどさぁ、私の気持ちわかって言ってる!?」
「……っ!」
やばい、マリアに様付けるの忘れたのとタメ口になってしまった。だがここまできたらもう引き返せない。
「私は異世界転移者なの分かる!? 元の世界の事だってあるしアルグレートとは一緒にいたいけどわけわかんないの!」
自分でもわけがわからないのに、口は留まる事を知らない。
「ああ、もう! マリアがアルグレートと結婚すれば良かったのに! 私はアルグレートの事好きだけど離れたくない!」
はあはあ……と息を切らしながら意味のわからない事とマリアを傷つけるような言葉を言ってしまったのと、察した私はぽかんと口を開けたままのマリアに頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。言い過ぎてしまいました……」
「……」
沈黙が流れる。だけど私は最低でもマリアが何かを発するまで頭を下げなければ。
「あなたの混乱する気持ちはよく分かりました。こちらも急に怒りを表して大変申し訳ございません」
「マリア様……」
「マリアで結構ですわ。あなたは公爵夫人なのだから」
すると部屋の扉がぎい……と音を立てながらゆっくり開かられると、アルグレートが床へと倒れ込んだ。アルグレートの上にはツォルグさんにメイド達がいてドミノ倒しに倒れていく。
「ぐ……」
「え、あ、ちょ、アルグレートとツォルグさん達!?」
「お、重い……どいてくれ……」
すぐさま扉を全開にして倒れたメイド達の一部を応接室に引っ張り出して、下敷きになっているアルグレートを助け出す。
「はあ……死ぬかと思った。こんな所で圧死だなんて洒落にならん」
「アルグレート、ねえなんでここに?」
「居ても立ってもいられないから、廊下で君達の会話を聞いていたんだ。ツォルグ達と一緒に」
ん? という事はさっきのマリアとのやり取りをアルグレートは全部聞いていた……?
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