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第九章:英雄たち
第百四話:太陽とはただ一人の人である
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正義とは、全ての側面で同じ様には語れない。
何人かの英雄達を調べて、レインとサニィの出した答えの一つはそれだった。
結果としては、魔王は全て討ち倒されている。結果としては、その後100年に渡ってそれなりに平和な世界を過ごすことが出来ていた。
しかし、その犠牲になった者たちは決して少なくはない。英雄マルスの戦いに関しても、死者はたった70人程だったと言うものの、マルス本人は殆ど何も出来ずに三ヶ月にも渡って殺され続けていたのだという。それは果たして犠牲が少なくて済んだと言えるのだろうか。
ボブに関してもそうだ。ボブが討伐隊に組み込まなければ魔王には勝てなかったかもしれない。しかし、その為に死んでいった人達は……、殺したくもないのに殺してしまったボブ本人は……。
どちらにせよ、魔王を倒さなければ人間に未来は無かった、とは言え。
「俺は今まで能力を持つ者はそれを行使する義務があると考えてきたが、少しばかり考えも変えないといけないのかもな」
「私は変えなくて良いと思います。それを、他の能力がある人に押し付けなければ。私はまだ変わっていません。残りの3年半で、世界を救いたいです。何より……」
レインにとっては、彼ら英雄達の背景は衝撃的なものだった。魔王を倒す能力を持つ者が背負ってしまった宿命。それは本当に宿命という言葉で片付けて良いものか、分からなくなっていた。
しかし、サニィは考えを変える必要は無いという。
「レインさんは、今まで多くの人を救ってきましたよ。そりゃもちろん、全部を救うことなんか不可能ですけど、少なくとも私はレインさんのおかげで幸せですから。それに、マルス様だってお祭り楽しそうにしてましたし」
視点を変えれば世界は変わる。
自分の故郷を滅ぼされ、自身もオーガの餌として食われ続けた目の前の女性は、少なくとも英雄によって救われていた。
例え、あと3年半の命だったとしても。
それはエリーも同じだ。その母親アリスも。アリスは二人より少しだけ長く生きるとは言え、女将に出会って居場所を作ることが出来た。エリーのその後は女将にも、そして今はオリヴィアに任せることも出来る。
レインがもう少しだけ早ければ、サニィの町は助かったかも知れない。アリスの村も助かったかもしれない。レインが子どもの時から強ければ、母親は死ななかったかもしれない。
それでも、今のレインのおかげで幸せだと言う者が【一人】居る。
そしてその一人は、愚直に世界を救うことを求めている。
「思えばマルスも、お前と同じなのかも知れないな」
「ん? 何がですか?」
「死ぬと分かっていて赤の魔王に挑んだ。そして、再び死ぬと分かっていて、黒の魔王の討伐に志願した。そして、俺がマルスを5分間も、容赦無く殺し続けてしまったのは、考えるまでもなくその覚悟が伝わってきたからなのかもしれん」
理屈では説明がつかない行動もある。マルスとの試合もそれだった。レインは本気で殺し合いたいと言うマルスの願いを断ることが出来なかった。全力で応えることが、礼儀だと思った。
「あはは、ま、たまには直感が一番正しいってこともありますね。変に考えてしまって分からなくなっただけかもしれませんよ。だって、レインさん言ってるじゃないですか。お前は俺が守るって。それだって自己犠牲ですよ。私の為に、レインさんは呪いにかかった状態で死ぬかもしれない相手と戦うんですから」
本当は協力すれば犠牲が出ずに済むって分かってる癖に。
それでも、レインが一人で魔王に挑むと言う覚悟を、サニィは否定するつもりは無かった。
「レインさんだってたまには私や、もっと言っちゃえばオリヴィアに頼んじゃって良いこととか、あるかもしれませんよ? 王女様だって言っても、オリヴィアだって強いんですから」
「オリヴィアに頼むことがあるかどうかは分からんが……、そうだな。検討しておく」
「検討ですかー。まあ、まだまだレインさんに勝てない私が言ってもあれですから仕方ないですけどー」
レインさんはちょっと強すぎるんですよー。そんな風にぷっくりと頬を膨らませながら言うサニィに、レインも苦笑いする。ボブをただの大罪人で終わらせなかった勇者ライム・グリーンウッドと言い、マルスの討伐隊入りを拒否したヴィクトリアと言い、分かっている者はいる。
レインにとってはそれがサニィである。それだけのことなのかもしれない。
――。
サニィは最近、陰のマナをよく感じられる様になったと言う。
感度が良くなったというか、魔物の活性化を感じるというか、ともかく、少しばかりその動きが気になると言う。
もしかしたら、ドラゴン等の強力な魔物が近くにいるのかもしれない。魔王が生まれるので、その前兆なのかもしれない。今一詳しいことは分からないけれど、陰のマナの濃度が少しばかり増して来ている。その動きは、自分達を中心にして軽く渦を巻いているようにも感じる。
そんなことを言っている。
そんな二人を待ち受けていたのは、この大陸固有の魔物、グランドドラゴンの群れだった。
残り【1344日→1337日】 次の魔王出現まで【128日】
何人かの英雄達を調べて、レインとサニィの出した答えの一つはそれだった。
結果としては、魔王は全て討ち倒されている。結果としては、その後100年に渡ってそれなりに平和な世界を過ごすことが出来ていた。
しかし、その犠牲になった者たちは決して少なくはない。英雄マルスの戦いに関しても、死者はたった70人程だったと言うものの、マルス本人は殆ど何も出来ずに三ヶ月にも渡って殺され続けていたのだという。それは果たして犠牲が少なくて済んだと言えるのだろうか。
ボブに関してもそうだ。ボブが討伐隊に組み込まなければ魔王には勝てなかったかもしれない。しかし、その為に死んでいった人達は……、殺したくもないのに殺してしまったボブ本人は……。
どちらにせよ、魔王を倒さなければ人間に未来は無かった、とは言え。
「俺は今まで能力を持つ者はそれを行使する義務があると考えてきたが、少しばかり考えも変えないといけないのかもな」
「私は変えなくて良いと思います。それを、他の能力がある人に押し付けなければ。私はまだ変わっていません。残りの3年半で、世界を救いたいです。何より……」
レインにとっては、彼ら英雄達の背景は衝撃的なものだった。魔王を倒す能力を持つ者が背負ってしまった宿命。それは本当に宿命という言葉で片付けて良いものか、分からなくなっていた。
しかし、サニィは考えを変える必要は無いという。
「レインさんは、今まで多くの人を救ってきましたよ。そりゃもちろん、全部を救うことなんか不可能ですけど、少なくとも私はレインさんのおかげで幸せですから。それに、マルス様だってお祭り楽しそうにしてましたし」
視点を変えれば世界は変わる。
自分の故郷を滅ぼされ、自身もオーガの餌として食われ続けた目の前の女性は、少なくとも英雄によって救われていた。
例え、あと3年半の命だったとしても。
それはエリーも同じだ。その母親アリスも。アリスは二人より少しだけ長く生きるとは言え、女将に出会って居場所を作ることが出来た。エリーのその後は女将にも、そして今はオリヴィアに任せることも出来る。
レインがもう少しだけ早ければ、サニィの町は助かったかも知れない。アリスの村も助かったかもしれない。レインが子どもの時から強ければ、母親は死ななかったかもしれない。
それでも、今のレインのおかげで幸せだと言う者が【一人】居る。
そしてその一人は、愚直に世界を救うことを求めている。
「思えばマルスも、お前と同じなのかも知れないな」
「ん? 何がですか?」
「死ぬと分かっていて赤の魔王に挑んだ。そして、再び死ぬと分かっていて、黒の魔王の討伐に志願した。そして、俺がマルスを5分間も、容赦無く殺し続けてしまったのは、考えるまでもなくその覚悟が伝わってきたからなのかもしれん」
理屈では説明がつかない行動もある。マルスとの試合もそれだった。レインは本気で殺し合いたいと言うマルスの願いを断ることが出来なかった。全力で応えることが、礼儀だと思った。
「あはは、ま、たまには直感が一番正しいってこともありますね。変に考えてしまって分からなくなっただけかもしれませんよ。だって、レインさん言ってるじゃないですか。お前は俺が守るって。それだって自己犠牲ですよ。私の為に、レインさんは呪いにかかった状態で死ぬかもしれない相手と戦うんですから」
本当は協力すれば犠牲が出ずに済むって分かってる癖に。
それでも、レインが一人で魔王に挑むと言う覚悟を、サニィは否定するつもりは無かった。
「レインさんだってたまには私や、もっと言っちゃえばオリヴィアに頼んじゃって良いこととか、あるかもしれませんよ? 王女様だって言っても、オリヴィアだって強いんですから」
「オリヴィアに頼むことがあるかどうかは分からんが……、そうだな。検討しておく」
「検討ですかー。まあ、まだまだレインさんに勝てない私が言ってもあれですから仕方ないですけどー」
レインさんはちょっと強すぎるんですよー。そんな風にぷっくりと頬を膨らませながら言うサニィに、レインも苦笑いする。ボブをただの大罪人で終わらせなかった勇者ライム・グリーンウッドと言い、マルスの討伐隊入りを拒否したヴィクトリアと言い、分かっている者はいる。
レインにとってはそれがサニィである。それだけのことなのかもしれない。
――。
サニィは最近、陰のマナをよく感じられる様になったと言う。
感度が良くなったというか、魔物の活性化を感じるというか、ともかく、少しばかりその動きが気になると言う。
もしかしたら、ドラゴン等の強力な魔物が近くにいるのかもしれない。魔王が生まれるので、その前兆なのかもしれない。今一詳しいことは分からないけれど、陰のマナの濃度が少しばかり増して来ている。その動きは、自分達を中心にして軽く渦を巻いているようにも感じる。
そんなことを言っている。
そんな二人を待ち受けていたのは、この大陸固有の魔物、グランドドラゴンの群れだった。
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