雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十章:未来の為に

第百二十話:幕間の陸、と、物語は進む

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 師匠と別れてから1年と10ヶ月、オリ姉は一度王都に戻ったものの、またすぐにやって来た。
 私はこの1年10ヶ月で随分と強くなった。
 たまに町を襲撃するマーマンの討伐に参加すれば誰よりも多くの敵を倒せたし、北の森に生息するトロールも倒せる様になった。
 もちろん、その時は保護者としてオリ姉がつくと言うことが条件だった。
 本当はオリ姉が私を守るのではなく、私がオリ姉を守らないといけないらしいのだけれど、オリ姉は一度王都に帰った時から王女オリヴィアではなくグレーズの守護者サンダープリンセスになったので良いらしい。
 よく意味は分からないけれど、ダサいと言うことだけは分かる。
 でも、実力だけは本物なので仕方がない。

 オリ姉さえいれば、私がこの町の守護隊長よりも強くなった今でも変にいばってしまうことなく、真面目に修行を続けられる。
 目標はあくまで師匠だ。また王都でドラゴンを倒したとオリ姉も言っているし、サニィお姉ちゃんもドラゴンと同レベルの強さがあるらしい。そして、霊峰と言われる所では物凄く大きい木を生やしたとも言われている。

「オリ姉、オリ姉と比べて師匠ってどの位強いの?」

 随分と強くなったつもりの私でも、オリ姉の小指だけルールにも勝てない。ドラゴンを倒した師匠はどの位強いのだろうか、ずっと気になっていたけれど、まずはお母さんを守るのに無我夢中で聞いたことがなかった。
 トロールには勝てるし、そろそろ普通にお母さんを守るの位なら出来るだろうから聞いてみることにした。

「そうですわね。お師匠様は、わたくしが10人居ても全く勝てない位かしら」
「何人なら勝てる?」
「えーと、……」
「ん?」
「勝てませんわね」

 何人ものオリ姉が師匠に押し倒されて喜んでいる映像がオリ姉から流れ込んでくる。
 それはどんどん増えて行って、でも全員が一瞬で倒されていく。
 オリ姉の動きは確かに本気、今の私では絶対に勝てないあの速度だと思うけれど、師匠の動きはそれどころではない。
 強くなり始めて改めて思う。理想の遠さ。
 師匠が、まずは母親を救えるようになれと言った意味が、今になってよく分かった。

「……」
「どうしました?」
「ん、なんかオリ姉気持ち悪いと思って」
「あら、もしかして伝わってました?」
「……」

 オリ姉の気持ち悪さはともかく、彼女に勝つイメージすら浮かばない。
 私はまだまだだ。
 よく考えれば、まだ6歳。もうすぐ7歳になるところ。
 今勝つことは無理にしても、オリ姉の戦い方は真っ直ぐで分かり易い。
 それなら、少し工夫してみれば対抗出来ることはあるかもしれない。
 逆に、真っ直ぐだからこそ分かってても勝てないのだけれど。

「ねえ、オリ姉。わたし少し思いついたことがあるから、試してみていい?」
「ええ、もちろんですわ。あなたは確実に強くなってますから、色々試してみてくださいな」

 最近は大剣や弓も扱える様になってきて、戦闘の幅が広がってきた。
 今のところ一番得意なのは僅差で両手剣、そしてメイスだ。
 それなら、それを両方使ってみたらどうなるのだろうか。
 きっと、多くの人は子どもの浅知恵だと笑うだろう。
 でもそれは、試していけない理由にはならない。
 オリ姉は言っていた。師匠には、私が最も自由に戦えるスタイルを見つける様にしてやれと言われたと。

「両手剣とメイス……、どうするんです?」

 こっちが本気で戦っていても、武器も使わず小指だけだというのに余裕で話すオリ姉。
 流石に強い。
 こっちだって町の警備隊長に勝てると言うのに、それを歯牙にも掛けない。
 ルールはオリ姉が私の武器を防げば私の勝ち、私がデコピンを受けたらオリ姉の勝ち。
 今まで107戦、107敗、0勝。絶妙に私に合わせて手加減をしてくれるけれど、それでも絶対に勝てない。
 考えを読んで、油断してるところを突いてるつもりでもそれ。
 オリ姉は、心で油断していても実質的に油断していない。それはドラゴンにやられかけたサニィお姉ちゃんを見ているからだ、と言っていたけれど、それでもあの反応速度は不思議なほどだ。
 素直な心なのに、、素直な動きなのに、相手の動きは読み切っている。
 だから、それに勝つには更に工夫を。

 私は両手剣で肉薄すると、そのまま振り下ろしながら手を離す。
 そのまま剣は地面にめり込んで、軽くなった手はメイスを取る。
 そして、そのまま反転して、回避して隙が出来ているオリ姉を、うっ。

「痛いっ」
「ぺちんっ、と。今のは少し良かったですわ」
「いいやダメだオリヴィア。今のはお前に隙がありすぎる。俺が相手なら今の作戦でそのまま終わりだったぞ」
「え、いえ、これは敢えてエリーさんに合わせて隙を作ることでわたくし自身をも高める鍛錬で……」
「そうか。まあ、お前の相手ができるのはディエゴ位。今はエリーの育成が優先か」
「ええ、そう思いまして。お師匠様も一緒にいかがえ? ……おし、レイン様!?」

 いつの間にかオリ姉の首元に、剣先が突きつけられていた。
 そんなことを出来るのは一人だけ。確かに、私にでこぴんをして油断していたかもしれない。それでも、そんなことをできる人は他にいない。

「師匠!!」
「おうエリー。帰ってきたぞ。少しお前達に鍛錬を付けてやろうと思ってな。お前には2週間しか教えられてなかったからな」
「どう? エリーちゃん、強くなったかな?」
「お、おね、お姉様!! なんで突然!? もちろんエリーさんは凄く強くなりましたわ。今はもうトロールを倒せますし、警備隊長よりも強くなって、わたくしもそろそろ小指一本から小指と薬指にしないと厳しいかなと思ってるくらいで、あの、ホント、すごい強くなってますわ!」

 手紙では最近隣の大陸に着いたって届いたところだったけれど、二人は突然帰ってきた。
 何故か焦って饒舌になるオリ姉と、相変わらず格好良い師匠。そして、前に会った時よりも随分と大人っぽくなったサニィお姉ちゃん。前に会った時はお母さんと同じような心の乱れがあったはずなのに、今はそれが全く無い。
 きっと、オリ姉よりもずっと強いんだと、直感で感じる程の大人っぽさ。

「師匠はもちろんだけど、サニィお姉ちゃん、格好良い」
「そうですわよね? ですわよね!? なんと言ってもわたくしのお姉様ですもの!! ね?」
「出来たらオリ姉と交換して欲しい」
「…………エリー、何があったんだ……?」

 その後今まで受けてきた精神的セクハラを師匠に話したところ、オリ姉はぶっ飛ばされた。

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