雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十章:未来の為に

第百二十五話:王として、父として

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「ダメだ! 8年後この子もある程度成長するとは言え、お前は王女なんだぞ? お前の命は100の勇者より重い!」

 サニィに連れられ、一度王城に戻ってきたオリヴィアはグレーズ王に魔王のことを話した。
 レインとサニィの言うことならば信用に値するとして、早速その為の対策会議を開くと決めた所で、オリヴィアは自分が戦闘に参加すると告げたところ、グレーズ王は血相を変えた。

「ですが、8年後にはレイン様もお姉さまもおりません。わたくしが一番強い以上、わたくしが出るしかありませんわ」
「ダメだ!! お前がいくら強かろうが魔王だけはダメだ!!」

 グレーズ王の返事は頑なだ。取り付く島もないないと言った様子。
 流石に王なだけあり、かつての魔王討伐に向かった英雄達の末路の、その多くを知っていた。ドラゴンを少人数で倒せる者達ですら、生きて帰れない者が多い。
 現在はドラゴン襲撃でのショックで部屋から出られなくなってしまったということにしているとは言え、それは魔王討伐までして良いと言うことではない。
 サニィが何を言っても、ディエゴが何を言っても聞き入れない。そこで、オリヴィアは王を相手に脅しをかけることにした。

「お父様、わたくしの討伐隊参加を認めて下さらないのであれば、謎の勇者『サンダープリンセス』はマスクを取りますわ! 無双王女オリヴィアと名乗ることにしますわ!!」

 なんだその脅しは、と思う所ではあるが、王は「くっ、父を脅すとは……」などと悔しがる。
 今は都市伝説的に語られているサンダープリンセスが王女オリヴィアだと知られてしまえば、魔王が生まれた時に国民が皆オリヴィアに期待してしまう。それを王女だからと参加を認めないと言ってしまえば、国民の王に対する信用は地に落ちる。
 王が認めて密かに討伐隊入りをさせるか、国民が熱望した状態で討伐隊入りをさせるか。
 王の答えは決まっていた。

「……はあ、まあ、こんな時も来るのではと思っていた。勇者レインに憧れていたお前が、何のために努力していたのか、俺が一番知っている。
 正直、最初から認めていたさ。
 ただな、オリヴィア。
 父はそうやって押さえ付けてでもお前に行って欲しくないと思う。仮にお前が正体を表したとしても、討伐に参加させたくない。例え俺がそれで討たれる結果になったとしてもな。
 理由は、分かるな?」

 その表情は、国王ではなく、ただの父親のそれだった。
 息子が産まれたとは言え、今までずっと大切にしてきた娘だ。つい先日まではたった一人の娘だったのだ。
「はい」
 そう答えるオリヴィアに、王は再び厳しい顔を取り戻すと、言葉を結ぶ。

「お前が討伐隊入りして良い条件はたった一つだけだ。だが、これが守れないのなら死んでも行かさん。
 良いか、必ず無事に戻ってこい。
 例え誰を犠牲にしても、だ。
 これは王としての命令ではなく、父としての我が儘だ。守れないなら、命を懸けて止める」

 それがグレーズ王の王として、そして父としての最大の譲歩だった。王子が生まれたとはいえ、それは王女を失って良い理由にはならない。オリヴィアが王位継承を放棄しているとはいえ、危険な任務には出て欲しくない。二人の子どもは互いに手を取り合って、良い国を造っていってほしい。
 それが庶民から王になったグレーズ王の願いだった。
 オリヴィアはその父の言葉に最敬礼で返すと、これからエリーゼに協力を申し出に行くことを伝え、部屋後にした。

 ――。

「ディエゴ、魔法師団の設立はどうなってます?」
「今、サウザンソーサリスから優秀な者達にアプローチをかけている。ジョン、ジョニー、ジョージ、サムと言うルーカス魔法学校の成績上位者4人が、魔法師団入りを決めた所だ。実力を見てみたが、サニィ君から魔法を教わっただけあって、確かに可能性を感じたよ」

 そんな二人のやり取りに、サニィはふと霊峰のことを思い出した。
 ルーク達のことは常に気にしていたものの、霊峰のことは意外と忘れているものだ、なんてことを思いつつ、二人に提案する。

「あの、魔法師団なんですけど、結成したら霊峰に修行に行くのが良いと思います。あそこはマナタンクを高めるだけでなく、私の直々の生徒が居ますから、そこで高め合えると思います。移動中の護衛を騎士団がして、国の治安はオリヴィアに任せれば良いかと。
 ジョンって人達に覚えはないですけど、優秀ならきっと私の生徒達と一緒に強くなれるはず」

 さらっと酷いことを言うサニィだが、その案は確かに使える。
 霊峰に向かうまでの道中にはグリフォンが出るので現状では騎士団の護衛が必須。魔法師団が強くなれば、それも必要なくなる。
 一時的になら、騎士団をそちらに向かわせてオリヴィアが守っても良いだろう。

「騎士団で護衛は良いかと思うが、私はこの王都に残るからな。全部姫様の手柄となったら都市伝説じゃなくなってしまう」
「ま、それはあなた達が決めれば良いですわ。そうと決まれば、早速北の首脳にアポを取りませんと」
「その辺はお任せを、姫様。姫様はエリーゼ女王の説得と、強くなることだけを考えていてくださいよ」

 騎士団が無許可でヴェラトゥーラ共和国に入り込めば流石に問題だ。
 とは言えまだ魔法師団は設立見通しが立ったところ。わざわざサニィがオリヴィアを連れて行かずとも、十分間に合う。オリヴィアが死んではならないと言う約束を果たした以上、ディエゴの仕事にはオリヴィアの成長の邪魔をしない、ということも含まれた。
 また自分の仕事が増えるのはともかく、ディエゴはやる気に満ち溢れているオリヴィアが微笑ましかった。少なくとも今は、それで元が取れるだろう。

「ではお姉様、早速女王エリーゼの所に参りましょう。あの国は代々人望に厚く聡明な女王が継ぐと聞いています。何があったのかはあえてお聞きしません。でも、きっと分かってくれますわ」
「ありがとう。余計な負担をかけちゃってごめんね。オリヴィアの言うとおり女王エリーゼは凄く良い子だから、仲良くしてあげてね」
「いえいえ、お姉様のお尻拭いが出来るなんてむしろ光栄です。お任せ下さい!」

 そうして何を考えているのか、涎を垂らしそうなほどに興奮した王女を連れ、サニィはその身を女性騎士に擬態させ、約2ヶ月半ぶりにアストラルヴェインへと踏み込んだ。

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