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第十章:未来の為に
第百三十三話:聖女の葛藤
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サニィは二人の生徒に稽古を付けた。
稽古という名の、肉体改造。サニィが覚えた分解と再生の力は、ある一つの能力を生み出していた。
それは細胞内にしっかりとマナが混ざり合った勇者には不可能なものの、マナの影響である器官が作られただけの魔法使いになら適応出来るもの。
強制的のマナタンクの増加。そして道具に魔法を伝える前の、肉体の中にあるシンプルな蛇口部分の拡大。その二つだった。
その二つは元から魔法使いに付属している魔法の様なもので、魔王化してからより明確にマナを感じる様になったサニィになら作り変えることが出来る程にシンプルなものだった。
魔法使いは、そういう意味でも、魔法を使えなければただの人だったというわけだ。
サニィは厳密には勇者であるのに肉体は通常の人とほぼ変わらない理由は、その能力が99%肉体強化には用いられずに、マナを感じる、語りかけられる、その部分だけに特化しているから。そのせいもあって、彼女はずっと長いこと、自分がただのマナタンクに際限のない魔法使いだと勘違いしていた、というわけだ。
まあ、だからこそ彼女はオリヴィアよりも遥かに強い戦闘能力を持つに至ったわけなのだが……。
そんなこともあって、魔法使いは身体の構造的にも、勇者の劣化版だった。
今迄は。
「うおお、道具無しで魔法が使える……」
二人はまず、そこに驚いた。
今迄は道具を使わなければ魔法を撃つことは不可能。それが絶対のルールだったし、そう思い込んでいた。もちろんルークやエレナは本当にそうなのかと試したことはあったのだが、マナが減るだけで魔法は使えない。確かにそうだった。
だから、何か体にかけられた後、サニィに道具を取られて「魔法を使ってみて」と言われた時に、何が目的なのか分からなかった。
「お、出来たね」
それはとても弱い魔法。ルークが最近訓練中の重力魔法を使ってみたものの、小石が少し動く程度。しかし、確かに魔法で動いていた。
「え、と、どういうことですか?」
エレナの頭に最初に浮かんだ疑問はそれだった。一体どういう原理で魔法が発動したのか、分からなかった。
しかし、ルークは気付いたらしい。
「もしかして、道具は魔法の蛇口ハンドルじゃなくて、増幅する装置、とか?」
「そう。その通り。実は、みんな何も使わなくても魔法は使えるんだよ。でも、とても出力が弱い。それを道具で増幅して撃ち出してるってこと。それが分かれば、魔法はもっと強くなる。それを意識してみて」
やったことは肉体改造だったけれど、これでやっと、意識が出来る様になる。
この二人には、絶対に死んでほしくないから。
サニィは魔法使いの構造のことは何も言わなかった。
随分と、勝手な理由で。
単純に、多くの人にやってしまえば、誰かに知れてしまえば、それだけ自分の時間がなくなってしまう。だから、愛する生徒にだけ。
この魔法では、完全な一般人を魔法使いにすることも出来てしまう。勇者の魔法使いを作ることは無理な様だし、強化出来る量も人によって違う様だけれど、反則技だ。
だから、特別な生徒であるこの二人にだけ。
この自分勝手は、魔王化のせいだって、思いたいけれど、きっと違う。
「じゃあ、二人とも、また来ると思うから、その時迄にもっと魔法を磨いておいてね。二人なら私を超えられるかもしれない。楽しみにしてるね」
だから、そう言って、レインの元へと逃げ帰った。振り返らず、言いたいことだけを言い残して。
少し、ここに戻って来にくくなっちゃったけれど。
「先生の魔法って、魔法と言うよりも奇跡だね……」
「ね。私達だけ特別にして貰ったんだから、オリヴィア王女とかにも、負けられないね」
「うん。ねえエレナ」
「なあに?」
「僕と一緒に、生きてくれないかな」
「もちろん。ふふ、……死のうだったら殴ってたよ」
二人の生徒は、サニィが光の粒になるのを見送って、そんなことを語り合った。
12歳の二人の天才は、そうして来たる日に備え、明確な目標を据えて、再び修行に打ち込み始めた。
二人は次の日、霊峰の登頂に成功する。
それは当然、世界最年少での記録だった。
――。
「ただいまレインさん」
「ああ、おかえり」
レインの下に帰ると、そこではエリーが兵士達をなぎ倒していた。
出かける前に比べても既にかなり成長していることが分かる。
久しぶりに師匠に会えたのが良かったのだろう。兵士達は面白いように吹き飛ばされ、その動きも随分と洗練されている。
「おお、エリーちゃん強くなりましたねー」
「そうだろう?」
レインの言葉はそれだけだった。しかし、見るからに嬉しそうだ。
愛弟子と言うよりも、自分の子を見ている様な表情。きっと親になれば、彼はこのような顔をするのだろうと思うような、そんな優しげな表情だった。
自分達が子どもをつくることは出来ない。流石に、そこまでの勝手は許されない。
うーん、子ども欲しかったなあ。
彼の顔を見ていると、そう、思ってしまうけれど。
レインをアリエル・エリーゼの所に連れて行く前に、もう少しだけこの顔を見てみたい。
そんなことを思って、その日は一日のんびりと過ごすことにした。
残り[1097日→1075日]
稽古という名の、肉体改造。サニィが覚えた分解と再生の力は、ある一つの能力を生み出していた。
それは細胞内にしっかりとマナが混ざり合った勇者には不可能なものの、マナの影響である器官が作られただけの魔法使いになら適応出来るもの。
強制的のマナタンクの増加。そして道具に魔法を伝える前の、肉体の中にあるシンプルな蛇口部分の拡大。その二つだった。
その二つは元から魔法使いに付属している魔法の様なもので、魔王化してからより明確にマナを感じる様になったサニィになら作り変えることが出来る程にシンプルなものだった。
魔法使いは、そういう意味でも、魔法を使えなければただの人だったというわけだ。
サニィは厳密には勇者であるのに肉体は通常の人とほぼ変わらない理由は、その能力が99%肉体強化には用いられずに、マナを感じる、語りかけられる、その部分だけに特化しているから。そのせいもあって、彼女はずっと長いこと、自分がただのマナタンクに際限のない魔法使いだと勘違いしていた、というわけだ。
まあ、だからこそ彼女はオリヴィアよりも遥かに強い戦闘能力を持つに至ったわけなのだが……。
そんなこともあって、魔法使いは身体の構造的にも、勇者の劣化版だった。
今迄は。
「うおお、道具無しで魔法が使える……」
二人はまず、そこに驚いた。
今迄は道具を使わなければ魔法を撃つことは不可能。それが絶対のルールだったし、そう思い込んでいた。もちろんルークやエレナは本当にそうなのかと試したことはあったのだが、マナが減るだけで魔法は使えない。確かにそうだった。
だから、何か体にかけられた後、サニィに道具を取られて「魔法を使ってみて」と言われた時に、何が目的なのか分からなかった。
「お、出来たね」
それはとても弱い魔法。ルークが最近訓練中の重力魔法を使ってみたものの、小石が少し動く程度。しかし、確かに魔法で動いていた。
「え、と、どういうことですか?」
エレナの頭に最初に浮かんだ疑問はそれだった。一体どういう原理で魔法が発動したのか、分からなかった。
しかし、ルークは気付いたらしい。
「もしかして、道具は魔法の蛇口ハンドルじゃなくて、増幅する装置、とか?」
「そう。その通り。実は、みんな何も使わなくても魔法は使えるんだよ。でも、とても出力が弱い。それを道具で増幅して撃ち出してるってこと。それが分かれば、魔法はもっと強くなる。それを意識してみて」
やったことは肉体改造だったけれど、これでやっと、意識が出来る様になる。
この二人には、絶対に死んでほしくないから。
サニィは魔法使いの構造のことは何も言わなかった。
随分と、勝手な理由で。
単純に、多くの人にやってしまえば、誰かに知れてしまえば、それだけ自分の時間がなくなってしまう。だから、愛する生徒にだけ。
この魔法では、完全な一般人を魔法使いにすることも出来てしまう。勇者の魔法使いを作ることは無理な様だし、強化出来る量も人によって違う様だけれど、反則技だ。
だから、特別な生徒であるこの二人にだけ。
この自分勝手は、魔王化のせいだって、思いたいけれど、きっと違う。
「じゃあ、二人とも、また来ると思うから、その時迄にもっと魔法を磨いておいてね。二人なら私を超えられるかもしれない。楽しみにしてるね」
だから、そう言って、レインの元へと逃げ帰った。振り返らず、言いたいことだけを言い残して。
少し、ここに戻って来にくくなっちゃったけれど。
「先生の魔法って、魔法と言うよりも奇跡だね……」
「ね。私達だけ特別にして貰ったんだから、オリヴィア王女とかにも、負けられないね」
「うん。ねえエレナ」
「なあに?」
「僕と一緒に、生きてくれないかな」
「もちろん。ふふ、……死のうだったら殴ってたよ」
二人の生徒は、サニィが光の粒になるのを見送って、そんなことを語り合った。
12歳の二人の天才は、そうして来たる日に備え、明確な目標を据えて、再び修行に打ち込み始めた。
二人は次の日、霊峰の登頂に成功する。
それは当然、世界最年少での記録だった。
――。
「ただいまレインさん」
「ああ、おかえり」
レインの下に帰ると、そこではエリーが兵士達をなぎ倒していた。
出かける前に比べても既にかなり成長していることが分かる。
久しぶりに師匠に会えたのが良かったのだろう。兵士達は面白いように吹き飛ばされ、その動きも随分と洗練されている。
「おお、エリーちゃん強くなりましたねー」
「そうだろう?」
レインの言葉はそれだけだった。しかし、見るからに嬉しそうだ。
愛弟子と言うよりも、自分の子を見ている様な表情。きっと親になれば、彼はこのような顔をするのだろうと思うような、そんな優しげな表情だった。
自分達が子どもをつくることは出来ない。流石に、そこまでの勝手は許されない。
うーん、子ども欲しかったなあ。
彼の顔を見ていると、そう、思ってしまうけれど。
レインをアリエル・エリーゼの所に連れて行く前に、もう少しだけこの顔を見てみたい。
そんなことを思って、その日は一日のんびりと過ごすことにした。
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