168 / 592
第十二章:仲間を探して
第百六十八話:極西の妖狐
しおりを挟む
極西の島国、その森の中、1匹の狐が、その重症を負った体を癒していた。
元は九本あった尾は三本に減り、その力はかつて従えていた鬼よりも落ちている。
そのお陰であの魔法使いの探知に引っかからないのは都合が良いが、どうにも力が弱過ぎる。
今は魅了すらまともに使えず、他の魔物を仲間にすることも叶わない。
人の姿を保つことも出来ず、かつての様に人間の男に取り入ることも、今は出来ない。
「レイン様……。世界はあの方を殺したがっている。実際に出会ってよく理解出来た。凄くすごく、殺したかった。でも、妾は、あの方を、助けたい」
それは、狐の本気の願いだった。
かつて支配した男共と、あの方はまるで違う。
「あの魔法使い、どう足掻いても、勝てる方法が浮かばない。レイン様も、あの魔法使いを好いているのが分かった、それでも……」
魔物は、基本的には世界の意思、魔王がその様に呼んだものに基づいて人を殺す。
その方法は様々。
ただ殺す者いれば、食べる者もいる。魔物として同化させる者もいれば、自爆と言う手段を選ぶ者も、いるにはいる。
この狐の場合は、上級の魔法と、最上級の魅了の力によって国に取り入り、それを内側から壊すことがその方法にして、本質。
その中で、魔王にもならず、永い時を生きてきたこの狐は、あるタイミングで明確な意思を持つまでに至っていた。
魔王になってしまえば、世界の意思に抗えず、世界を滅ぼす選択をする。
魔物はもっと規模が小さい。目の前の人を殺したいし、種族が興味を持つことを優先したい。ドラゴンであれば、放っておいても人間は死ぬので、散歩がてら都市を踏み歩くことすらあるが、別に世界を滅ぼそうとはしない。レインとサニィを執拗に狙う魔物達は、言ってみればそんな世界の意思に逆らえなくなった者達。
そんな中、極々極々稀に、この狐の様な存在が現れる。
言ってみれば、狛の村の住人が、ほぼ魔物の肉体を持っているのに、人として生きられるような、そんな理由によって。
だから、そんなファンタジーが生まれる。
死にかけのグリフォンを助けてみたところ、恩を返しにきた、だとか、そんな話が残っている。
そんな創作物は性善説を唱える一般人には愛されているが、本質的に魔物を嫌ってしまう勇者には、好かれるはずもない。
そして、狐が自分の意思を自覚したのが、レインに初めて出会った時だった。
狐は元々人間とは長く接してきた魔物だ。だから、人間のことをよく知っている。
勇者と魔法使い、そして一般人と言う分類が居て、殺人衝動も大幅に違うということを知っている。
だからこそ、やろうと思えば狐は、その衝動を我慢して人間と共に居る決断もすることが出来る。
「あの衝撃、もう、忘れられない。本当はあの町を滅ぼすつもりだったけれど……、レイン様が認めてくれるなら…………」
この狐は、この時点で常識的に考えて、魔物の領域を超えていた。
だから、狐は考える。
どうすれば、いったいどうすればあの方の側に居られるのだろうか。
力を取り戻してしまえば、今度こそ有無を言わさずあの魔法使いに殺されてしまうだろう。
それなら魅了だけ強化する方向で行けばいいだろうか、魔法をもっと上手く扱える様になればいいだろうか、それとも……。
幸いにも、流れ込んでくる世界の意思によって、二人の位置は把握できている。
この殺人衝動にさえ抗えれれば、いずれ道は開けるかもしれない。
狐は、明確な意思を持つに至った原因を持つレインを、時間をかけてでも求めることを決断した。
ただ、狐は知らない。
レインもサニィも、あとたったの二年足らずで、死んでしまうことを。
ようやく芽生えた微かな想いは、その二年では決して叶うことがないことを。
どれだけ頑張ったところで、サニィに勝てる未来などないことを。
そんな努力の全てを、レインは受け止めることがないことを。
そして、どこまで行こうと、所詮魔物は魔物でしかないことを、狐は知らない。
取り敢えず、傷を癒すのに、あと一年。
それまでは、ゆっくり体を休めながら、考えよう。
世界は悪意に満ちている。
今日も、誰かがそんなことを呟いた。
残り[755日→712日]
元は九本あった尾は三本に減り、その力はかつて従えていた鬼よりも落ちている。
そのお陰であの魔法使いの探知に引っかからないのは都合が良いが、どうにも力が弱過ぎる。
今は魅了すらまともに使えず、他の魔物を仲間にすることも叶わない。
人の姿を保つことも出来ず、かつての様に人間の男に取り入ることも、今は出来ない。
「レイン様……。世界はあの方を殺したがっている。実際に出会ってよく理解出来た。凄くすごく、殺したかった。でも、妾は、あの方を、助けたい」
それは、狐の本気の願いだった。
かつて支配した男共と、あの方はまるで違う。
「あの魔法使い、どう足掻いても、勝てる方法が浮かばない。レイン様も、あの魔法使いを好いているのが分かった、それでも……」
魔物は、基本的には世界の意思、魔王がその様に呼んだものに基づいて人を殺す。
その方法は様々。
ただ殺す者いれば、食べる者もいる。魔物として同化させる者もいれば、自爆と言う手段を選ぶ者も、いるにはいる。
この狐の場合は、上級の魔法と、最上級の魅了の力によって国に取り入り、それを内側から壊すことがその方法にして、本質。
その中で、魔王にもならず、永い時を生きてきたこの狐は、あるタイミングで明確な意思を持つまでに至っていた。
魔王になってしまえば、世界の意思に抗えず、世界を滅ぼす選択をする。
魔物はもっと規模が小さい。目の前の人を殺したいし、種族が興味を持つことを優先したい。ドラゴンであれば、放っておいても人間は死ぬので、散歩がてら都市を踏み歩くことすらあるが、別に世界を滅ぼそうとはしない。レインとサニィを執拗に狙う魔物達は、言ってみればそんな世界の意思に逆らえなくなった者達。
そんな中、極々極々稀に、この狐の様な存在が現れる。
言ってみれば、狛の村の住人が、ほぼ魔物の肉体を持っているのに、人として生きられるような、そんな理由によって。
だから、そんなファンタジーが生まれる。
死にかけのグリフォンを助けてみたところ、恩を返しにきた、だとか、そんな話が残っている。
そんな創作物は性善説を唱える一般人には愛されているが、本質的に魔物を嫌ってしまう勇者には、好かれるはずもない。
そして、狐が自分の意思を自覚したのが、レインに初めて出会った時だった。
狐は元々人間とは長く接してきた魔物だ。だから、人間のことをよく知っている。
勇者と魔法使い、そして一般人と言う分類が居て、殺人衝動も大幅に違うということを知っている。
だからこそ、やろうと思えば狐は、その衝動を我慢して人間と共に居る決断もすることが出来る。
「あの衝撃、もう、忘れられない。本当はあの町を滅ぼすつもりだったけれど……、レイン様が認めてくれるなら…………」
この狐は、この時点で常識的に考えて、魔物の領域を超えていた。
だから、狐は考える。
どうすれば、いったいどうすればあの方の側に居られるのだろうか。
力を取り戻してしまえば、今度こそ有無を言わさずあの魔法使いに殺されてしまうだろう。
それなら魅了だけ強化する方向で行けばいいだろうか、魔法をもっと上手く扱える様になればいいだろうか、それとも……。
幸いにも、流れ込んでくる世界の意思によって、二人の位置は把握できている。
この殺人衝動にさえ抗えれれば、いずれ道は開けるかもしれない。
狐は、明確な意思を持つに至った原因を持つレインを、時間をかけてでも求めることを決断した。
ただ、狐は知らない。
レインもサニィも、あとたったの二年足らずで、死んでしまうことを。
ようやく芽生えた微かな想いは、その二年では決して叶うことがないことを。
どれだけ頑張ったところで、サニィに勝てる未来などないことを。
そんな努力の全てを、レインは受け止めることがないことを。
そして、どこまで行こうと、所詮魔物は魔物でしかないことを、狐は知らない。
取り敢えず、傷を癒すのに、あと一年。
それまでは、ゆっくり体を休めながら、考えよう。
世界は悪意に満ちている。
今日も、誰かがそんなことを呟いた。
残り[755日→712日]
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる