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しおりを挟む僕は寮に帰る旨を両親に伝えて家を出た。
母はここ数日の僕の様子を不審に思い心配していたが「何にも無いよ」の一言で片付けてきた。
実際、姉御と池上のお陰でかなり気は楽になった。
当然、全て吹っ切れた訳では無いけど『バンドをやろう』という気持ちで前向きになれた。
◇ ◇ ◇
寮の鍵を開け中に入ったが、池上の姿は無かった。
じきに帰って来るだろうと思い、ベースのケースを開けた。
ベースのネックを握った瞬間、なんだか妙な懐かしさを覚えた。
数日、空けただけなのに……。
説明は出来ないけれど、その時改めて感じた。
『やっぱり僕はバンドをやりたい』のだと。
僕がベースを弾き始め、暫くすると池上が帰ってきた。
池上は僕の姿を見て、少し驚いた様子。
「……よぉ……。おかえり」
「ただいま」
僕は答えた。
「って、言うか、今の状況だと逆だな」
「まぁ、良いんじゃない?」
僕等は笑った。
◇ ◇ ◇
「でも、実際二人と会って、今まで通りなんて出来んのか?」
池上は回転式の椅子に反対向きで座り、背もたれに腕を置いた姿勢で言う。
「だから、出来る出来ないじゃなくて……もう、やるしかないんだって」
僕はベッドに座ってベースを弾いている。
「理屈じゃあな。実行するのって楽じゃないぞ?」
「じゃあ、どうしろっていうのさ?」
「どうしろって言われると……特に無いんだけどな。そうだなぁ……心構えとか?」
「何だよそれ。そんな事いきなり言われても……」
「そうだなぁ……?っそういえば、木田君から話聞いた後、宮田には連絡したのか?」
「全然。木田と付き合う前、告白されたっていう電話以降、学校でもそれ以外でも話してないし……」
「マジで?告白されたのって春休み入る前だろ?」
「そうだよ、それからずっと」
「ははぁ~。そういう事か……」
何かを悟った表情の池上。
「何?」
「いや、別に……全然、関係のない話」
「絶対嘘じゃん?気になるよ」
「っていうかさ……保科は本当に宮田の事はもういいのか?」
「今更そんな話を蒸し返すの?」
僕は不機嫌そうに言った。
「いや……。そうだよな、わりぃ」
池上は頭を下げた後、椅子に座ったまま僕に背を向ける。
「とりあえず、今はその事は考えたくないんだ。考えると、本当に何も進めない気がするから」
「そっか……」
「今はバンドに集中したい。せっかくCD出せる機会を得たんだし」
「ああ、頑張れよ」
僕はベースを弾き続けた。
池上に対してそれは厳しい言葉だったとは思うが、僕はそれに集中する事でしか僕を保つ事が出来ないと理解していたのだ。
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