異世界では悔いの残らないよう頑張ります!!

建月 創士

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幼年期

#11 過去、尚、現在

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「いっつつ…ここは?」
「俺の部屋だよ」
「うわっ?!ビックリした…」

痛む体を起こすと、部屋の隅から兄さんが顔を出した。

そんなにビックリしなくて良いだろ…、と兄さんが肩を落とす。

部屋にカーンさんが居ないことに気付き、兄さんに聞く。

「カーンさんはっ!?痛っ!」
「無理すんな、お前肋骨一本折れてんだから、カーンは土人族《ドワーフ》の宿舎に返したよ、安心しろ」
「そっか…」

一応助けられはしたのか…、と胸を撫で下ろす。

そこで気絶する前の記憶が頭に浮かぶ。
光の魔力を纏った兄さんのことだった。

「…兄さん?あの光の鎧…固有装備《アーティファクト》の一種なの?」

瞬間、兄さんが驚いたような顔をし、頭をボリボリと掻く。

「そっか…知ってるのか、はぁ…面倒くさくなったな…」

固有装備《アーティファクト》とは、大昔に今では持ち得ない技術を持って造られた装備である。
武器や防具、装飾品とその種類は様々で、装備者は通称として[アーティファクター]と呼ばれる。
使用者は武器が決め、不相応の者が装備した暁にはその使用者を死に至らしめるという、曰く付きの装備だ、しかし、装備した人間の力は絶大で熟練のアーティファクターが30人集まっただけで一つの国を圧倒出来るといわれる。

「その口ぶり…やっぱりそうなんだね」

兄さんは数十秒考え、頷く。

「…あぁ、そうだ俺はアーティファクターだ」
「なんで兄さんがあんな物を持ってるの?あれは国王の側近騎士レベルの人間じゃないと装備さえさせてもらえないはずだよ?」
「…なぁレイ、これから話すことを必ず他言しないということを誓うか?」
「なんで…」
「良いから、誓うか?誓わないか?返事はそれだけだ」
「誓うよ」
「誓ったな?破った場合は俺はお前を殺さなきゃならない、まぁ今から話そうとしてる俺もヤバイんだがな」

兄さんは苦笑いを溢す。
そして、すぐに真面目な顔に戻る。

「さぁ…話をしよう」
______________________________________

ある所に一人の男の子が誕生しました。 
名はニム=グラントといい、昔から正義感の強い子でした。

ある日ニムは一人の女の子に出会いました。
その女の子は美しく、どこか浮世離れした雰囲気を持っていました。
名はシルフィといいました。

ニムはシルフィとすぐに仲良くなり、毎日シルフィと遊ぶようになりました。
ニムがシルフィと遊ぼうと、その日も森へ出掛けました。

そして森の中でニムは迷ってしまいました、そんなニムを追い打つかのように雨が降ってきました。
幸い、すぐ近くに洞穴があり、ニムはそこに入り、雨宿りをすることにしました。
そして、洞穴の中で雨宿りをしていると、妙に洞穴の奥が気になりました、呼ばれてるような気分でした。

ニムはどうしても気になり、奥に進みました。
その先には、古びた鎧がポツンと置いてありました、床には変な丸い模様が書いてありました。

その鎧から、装備してみろ、という雰囲気を感じとったニムはまるで催眠にかかったかのように、鎧に手を伸ばしました。
後ろからのシルフィの制止の声も聞かず、手を伸ばしてしまいました。

その鎧にニムが触れると、その鎧に秘められた記憶がニムの中に流れ込みました。
そこには、血にまみれた記憶ばかりでした、人を殺した記憶、使用者が死んだ記憶、そんな記憶が何度も何度も何度も幾度となく繰り返されていました。

ニムは気が狂いそうでしたが、なんとか耐えて目を背けませんでした、それはニムの正義感があってこそでした。

そして目を開けると体に古びた鎧は装備されていました。
ニムは後ろからシルフィの泣いてる声が聞こえていることに気付き、振り向きました。

しかし、そこに居たのは、シルフィであっても、ニムの知らないシルフィでした。
頭からは羊のような角が生え、背中からは羽が生えていました。
彼女は見ないで、と何度もニムに泣きながら言いました、こんな醜い姿を見ないで、と。

ニムはシルフィに近づき、抱き寄せました。
シルフィは驚きました、自分のことが怖くないのか、と。
その問いにニムはシルフィはシルフィでしょ?、と答えました。
そして、シルフィはニムの胸で泣きました。

シルフィは散々泣いた後、全てニムに話しました。
自分はその鎧に力を封印された悪魔だということ、本来なら封印が解かれた後たくさん人を殺すつもりだったこと、しかし、ニムと出会ったことで人を殺すつもりはなくなったこと、鎧の使い方、その鎧に封印した装備や魔物の能力を利用できること、等をニムに話しました。

そして彼女は笑顔でニムに問いかけました。
その鎧にもう一度私を封印してほしい、と。
ニムは拒否しました、そんなことしたらシルフィはいなくなってしまうじゃないか、と。
シルフィはこう答えました、違うわ、私はあなたの側に居たい、力になりたいの、と。
ニムは言いくるめられてしまい、なくなく承諾しました。

ニムは鎧を一度脱ぎ、鎧とシルフィに手を触れ、シルフィの言葉を復唱しました。
全て唱え終わるとシルフィの体が光の粒子になり、鎧に吸い込まれてしまいました。
吸い込まれた前にシルフィはニムにキスをしました、そして、笑顔で消えてしまいました。
ニムは大声で泣きました。
それから、毎日ニムは服の下に鎧を肌身離さず装備していました。

そして、両親には王国専属の鍛冶師として働くと言い、家を出ました。
それは真っ赤な嘘でした。
本当はアーティファクターとして、国に召集されたのでした。
その時、鎧は新発見の固有装備だったため、名前が付けられることになりました。
鎧の名前は[愛する者に略奪の力を]《ドレイン・ザ・シルフィ》となりました。
シルフィが与えてくれた力は防御の能力だった、効果は魔法の攻撃なら魔力に変換し、物理攻撃はある程度なら吸収し、圧縮させ衝撃波として放つというものでした。
その能力はとても強力で、ニムは最強のアーティファクターの一画として扱われました。
そして、国の機密組織 守護者《ディフェンダー》として他の国から送られてくる刺客を殺しました。
地獄でした、毎日来る刺客を殺し、目新しい装備があったなら封印する、そんな毎日を過ごしていました。

ニムは人としての感覚が薄れていくのがわかりました、そして、自分は狂っているのだと知りました。
最初は国王に遣えれて光栄な気持ちで一杯でしたが、もう今ではそんな気持ちすら薄れていました。

そんななか、ある一人の占い師が、オルトメニア魔法学校でいつか最悪の事件が起きる、と予言しました。
そこで国王はニムを向かわせることにしました。
ニムは国王の命を受諾し、三週間後に魔法の街カダールへ向かうことにしました。

そして、そこで教会からレイ=グラントの鍛冶の指導をしてほしいという依頼が来ていることを知りました。
弟のことの依頼だったため少し驚きながらもニムは承諾しました。
そして、三週間で魔法や鍛冶の知識を頭の中に詰め込み、カダールへと旅立ちました。
______________________________________ 

「…それが兄さんの過去」
「そうだ、これが正義感の強かった俺の…俺とシルフィの物語、そして、地獄の日々の物語」

と兄さんは服の下のインナーの上に装備しているであろう、[愛する者に略奪の力を]を擦る。

「この鎧を着ていると常に一緒に居る気がするんだ…シルフィと…」

俺は無言で返事を返す。

「それと今は全てが楽しいよ、こうしてお前と一緒に居るのも、仕事に追われる日々も、活気に溢れた街を見るのも…全部、あのときの何倍もマシだ」

兄さんは窓の方を向き遠い目をする。
そして、俺に振り向き、兄さんは、一つ頼みを聞いてくれるか?と問いかける。

「なに?」

兄さんは息を吸い込んで、俺に頭を下げる。

「もっかい…チャンスを下さい」

チャンス?チャンス…チャンス…あぁ…なるほどね~

そこで俺は口を大きく開きこう告げる。

「あんたは…アホかぁああぁぁぁあああ!!」

その言葉は町中に木霊した。

でも、兄さんはこのままで良い、と思った。
辛気くさい雰囲気を纏った兄さんより…ずっと。
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