異世界では悔いの残らないよう頑張ります!!

建月 創士

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幼年期

#14 首席と次席のおしごと!

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魔法祭、それはオルトマニア魔法学園において、生徒が今年半年分の学習の成果を発表する行事…とはいったものの実態は魔法を使っていればどんな店でも出店して良い文化祭だ。

そんな文化祭のような行事にも関わらず…レイ=グラントは楽しむことが出来ていなかった。

なぜなら昼からターシャとのエキジビションマッチがあり、その前とそれの後は全学年の首席と次席は警備のお仕事だ、他のみんなが楽しんでいる中で、だ。

「こんなことなら風紀委員とか作れよ…なにげに楽しみにしてたのに…」

ハァ…と俺は深くため息をつく。

「ハハハ…しょうがないよ」
「そうなんだけどさ…」

唯一の救いと言ってはなんだが、クラスのマドンナ…この言い方は古いだろうか、とにかくクラスの憧れの女子、ターシャと二人っきりで歩いて回れるということだ。

今日、寮の扉を開けるとターシャ目当てでクラスの男子達や他クラス、他学年の男子生徒が殺到していたことを見るに、かなりの人気だろう。

というか…同じクラスや他クラスからの申し出はわかる一、二歳上の先輩もわかる。
でも…中等部の先輩とかどうなんだよ…完全にロリコンやないの…

そして、その全員の申し出をスパスパと切り捨てて…はないが断っていくターシャの姿はなんとも勇ましかった。
 
まぁともかく今日はターシャと駄弁るだけの一日になりそうだ。
______________________________________

「さぁ今年もやってまいりました、学部代表首席次席によるエキジビションマッチです!今年の初等部対戦カードは…こちら!なんと!一年生にして年上の先輩を押し退け、初等部のトップを勝ち取った、首席 ターシャ=シルフィンド VS 次席 レイ=グラントです!」

司会がそう紹介すると、歓声が地鳴りのように闘技場に響く。

俺が今いる控え室にまで届くってどういうことなん?
あぁ、紹介が終わったってことはもうそろそろ出ないとな。

そう思い、俺は控え室を出て、闘技場のフィールドに向かう。

「さあさあ!!紹介が済んだところで、選手に登場してもらいましょう!!まずは西ゲート 首席!!ターシャ=シルフィンドです!」

きっと西ゲートからターシャが登場したのだろう。
さっきの歓声をよりいっそう強めた歓声が空気を震わせる。

うっへぇ…やべぇよ…

「お次は東ゲート 次席!!レイ=グラントです!」

そうして俺はフィールドに踏み入る、するとターシャのときにはなかったブーイングまじりの歓声が響いた。

えぇ…いつも俺がターシャの隣に居るからそれについての…嫉妬…なのか?えぇ…おじさんのガラスのハートに傷が入ってしまうわ…
まぁ良いや!おじさんの本気見せちゃる!!

そう考え俺は頬をパチン!と叩き気合を入れ直す。

「それでは!両者揃いましたところで!!エキジビションマッチ、レディ……ゴォ!!!」

始まるのと同時に俺は身体強化魔法《フィジカルブーストマジック》を筋力強化《マッスルブースト》、治癒力強化《ケアブースト》、防御力強化《ディフェンスブースト》攻撃力強化《オフェンスブースト》の順で掛ける、正直ここまで掛けないとアイツには敵わない。

そうこうしているうちにターシャが肉薄してくる。

「ハッ!」

ターシャが細かい無駄の無い動きで横凪ぎに剣を振るう。

「っぶねっ!」

その攻撃を俺は体を反らして躱す。

「お返しだ!<火よ 炎よ 突き刺せ>!! 炎刺《フレイムピアス》!!」
「そんな魔法っ!!相殺《ディスタブ》!!」

ターシャは左手を突きだし、俺の魔法を相殺する。

観客がひゅーと手笛を吹き、囃し立てる。

相殺《ディスタブ》とは、初歩の対魔防御魔法だ。
相手が魔法を発動する時使用する魔力の量の倍の魔力を使い、魔力を魔力で押し潰す魔法のため、燃費は悪いが、相手の魔法のレベルが低い場合、使用魔力が少ないため、とても便利な防御魔法となる

「流石!けどこれで終わりだなんて思ってねぇよな!?<刺し穿ち 氷らせ 旋風の 祝砲をあげよ!>氷風砲《ウィンディフロストキャノン》!!」

俺の手から風属性魔法により勢いのついた氷塊が発射される。

観客がおぉ!!と感嘆の声をあげる。

これならディスタブは出来ない。
避けるか氷塊を斬るしか選択肢は無い、気休めだろうが、少しの時間は稼げる。

その間に俺はとどめをさすべく上級魔法の詠唱を始める。

しかし、俺の予想は外れた、首席相手に時間稼ぎなど考えるのが間違いだった。

気付くと炎の剣撃が目の前に迫っていた。

うっそだろ…おい、あの短い時間でどうやって効果付与魔法《エンチャントマジック》を詠唱しきったんだよ…ッ!最低でも10節はあるはずだぞ!! 

「くっ!」

そして、その剣撃は俺の体を捉え、俺を敗北へと導いた。

最後のターシャの攻撃はあまりにも一瞬の出来事だったため、一時観客は呆然とフィールドを眺め、そして、急に正気に戻ったかのように拍手や歓声を上げた。

歓声が止まない中、ターシャが座り込む俺に手を差し出した。

ん?ターシャが後ろに隠してる武器…ちょっと形変わった…?気のせいか。

「大丈夫?立てる?」
「あぁ、んしょっと」

俺はターシャの手を握り、立ち上がる。
その光景を見てか、ターシャのファンが俺に向けてブーイングをする。

いや、どんだけ俺のこと羨ましがってんだよ…まぁちょっと嬉しい、人の上に立つってこんな感じなんだな…じゃねぇ!優越感、愉悦ダメ絶対、慢心ダメ絶対。

歓声が止み終わった後、司会があらためて告げる。

「勝者!ターシャ=シルフィンド!!」

そうして俺とターシャは丁寧にお辞儀をしてフィールドを出る。

正直疲れた、明日は全身が筋肉痛になってしまっていることだろう。
______________________________________

「いやぁ…やられたなぁ~勝てねぇよ絶対」
「私も危なく負けるところだったよ、正直あそこで魔法を発動できてなかったら負けてた」

えへへ、と頬を掻きながらターシャはふんわりと笑う。
さっき戦って負けた相手だとは思えないほど可愛い、うん可愛い。

とりあえずエキジビションマッチが終わってから数時間がたったが、今のところ問題は無い。

正直こんな場所で何か問題を起こすなんて事があるなら俺はその問題を起こした人間を尊敬するだろう。
なぜならこんなにも強力な兵器のような魔法を使えるような人間が居るなか、勇気を振り絞って問題を起こすなんてなんと肝の座っていることだろうか。

その勇気と精神力、あったら、俺にください(真顔)

そんなことを考えていると横に居たはずのターシャが目を光らせて目の前の出店に駆けていくのが見えた。

あれは…シーロン屋か。

シーロンとは地球でいうクレープだ、うんクレープだ、それだけ。

そこのシーロン屋さんは照明、鉄板を温める火、冷蔵庫的な物に魔法を使っていた。

「おう、見回りお疲れ、お二人さン」

ん?クルーゼ?何処だ?

しかし、辺りを見回してもクルーゼは見当たらない。
俺が、?《ハテナ》を浮かべていると、店側から声がした。

「こっちだよ!!耳腐ってンのか?」
「は?お前なんでそっちに居るんだよ、邪魔になるから止めろって」

俺が咎める。
それにクルーゼは半ギレで答える。

「俺の店だよ!!いや、俺とみんなのだけどな」

クルーゼが…可愛いシーロン屋さん…?
失礼だが、どう思考を転がしてもがさつな性格のクルーゼがあんなシーロンみたいなやつを作れるとは思わない。

俺が考えるように腕を組むと、クルーゼが空かさず指摘してきた。
「おい!考える状況じゃねぇから!早くお前のお連れさンを退かしてくれ」

そこには行列の先頭で涎を垂らしながら、目を輝かせているターシャが居た。

「あ、あぁ悪い、ターシャ早く退かないと迷惑だぞ」

語りかけるも反応がない、退かそうとしても何故だかテコでも動かない。

あぁ…このパターンは…

「食いたいのか?」
「うん!」

物凄いスピードでターシャは俺の方に顔を向け頷く。
しかし少し悲しそうな顔をしてこう呟く。

「でも…財布、部屋に置いてきちゃって…」

うっ…その顔は俺に効く…

「わかったよ…なにが良い?」
「えっ!?良いの!?」

ターシャの目が再び輝きを取り戻す。

「えっとね…これ!」
「オッケー、俺は…これで良いか、クルーゼ、これとこれをくれ」
「あいよ、銅貨4枚な」
「ほい」

ぱぱっと注文を済ませ、少しの時間待つと二つの綺麗なシーロンが出てきた。

それを手に俺とターシャは再び歩き出す。
パクッとシーロンを頬張る。
甘いフルーツの香りとクリームの味がほんのりと絡み合った、そしてそれを丁度良い焼き加減の生地がそれを包み込んで、丁度良い甘味を呼んでいた。

「うまっ!!」
「美味しいね~」

俺の食べてからの反応にターシャが笑顔で答える。

「こんな丁度良い焼き加減の生地を焼けるなんて…クルーゼ…恐るべし…」

そう呟き、再びシーロンを頬張る。

うん、美味い!!

気付くと満面の笑みが俺の顔から溢れていた。

いつかまたアイツに作ってもらうのも良いかもな。

しかし、笑顔で過ごせたのは束の間。
遠くで砂ぼこりが上がった、どうやら何か問題が起きたらしい。
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