異世界では悔いの残らないよう頑張ります!!

建月 創士

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幼年期

#16 避暑休み

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この世界にも夏のように暑い時期がある。
その為猛暑が続く地域、ここカダールでは避暑休みというものあり、あるものは帰省し、あるものは寮で生活する。
いわゆる夏休みだ。

魔法祭が終わり二ヶ月が経ち、避暑休みの時期が来た。

カダールの暑さは日本の夏とは比べ物にならない。
暑い、暑すぎる。
工房に居る、暑さには強いと言われている土人族《ドワーフ》もこの暑さにはぐったりだ。

しかし、カダールに住む人達は何食わぬ顔をして生活をする。

そのわけを聞くと、「慣れだよ」とだけ言われた。

慣れって怖い。

そんな慣れない猛暑のなか苦しむ俺とターシャの所にマルート伯爵家から招待状が届いた。

その内容を簡単に言うと、「魔法祭の時のお礼がしたいから避暑休みの間家の別荘に遊びに来ない?ミサ姉さんとレック君が待ってるよ!返事は学園のすぐ近くの宿にミダムが馬車と一緒に居るからミダムに言ってね!ミダムのその馬車で来てね!」ということらしい。

…まぁこんなに軽くは書いてはなかったが。

もちろん俺とターシャは喜んで受けたが受けてから俺は両親に「長期休みには帰ってくるから」といったことを思いだし、少し罪悪感が湧いた。

ごめん、父さん母さん…俺は行くよ!

どこかのモビルスーツパイロットが言いそうな言葉を考えながら謝った、きっと母さんは許してくれるだろう…多分…

「ミダムさーん!」

ターシャが馬車の近くで立っているミダムに手を降る。

「レイ様、ターシャ様お待ちしておりました、どうぞ馬車の中へ」
「ありがとうございます!!」
「ありがとうございます」

ウキウキ気分で乗るターシャに続けて俺はお礼を軽く言って馬車に乗り込む。

ターシャは馬車のシートに座ると上機嫌で口を開く。

「たっのしみだね!レイくん!!」
「そうだな」

ターシャが鼻歌を歌いながら横に揺れる。

うむ、可愛い。

「それでは、動きますので、小さな揺れにご注意ください」

俺とターシャは、はい!と元気良く返事をした。

ミダムが馬に命令をすると馬車はゆっくりと動き始めた。

「わぁ!動いた!動いたよ!」
「お、おう」

ターシャは目を輝かせて窓から外を見る。

「私初めてなんだぁ!馬車って!」
「へぇ~そうなのか、これまではどんな手段で移動してたんだ」
「歩きだよ」
「へ?」
「だから、歩きだよ、故郷からここまでも歩きだしそれまでも全部全部」

嘘だろ?カダールは山で囲まれてる土地のはず…そこを徒歩で?少女が?
「どういうことだってばよ」
「ん?何か言った?」
「いや、ちょっとカダールの周りの山はどうやって越えたのかなって思ってさ」
「あ~あそこはねキツかったよ丸一日かかっちゃった」
「!?」

ありえない、少女一人が登るのにはもうあと数日が必要になるはずだ、それを…たった一日?!

「いったいぜんたいどういうことだってばよ」
「え?何か言った?」
「いや、お前勇者かよって思ってな」

一瞬、ターシャが勇者という単語のときビクッとしたように見えたが、気のせいだったようだ、目の前にはにへら~と癒される笑顔を浮かべたターシャが居た。

するとターシャはこう言った。

「そんな大層なことじゃないよ」
______________________________________

「「暇だね(な)~」」

俺たち二人は口を揃えてそう言う。

相変わらず馬車の中は暇だ、本を読もうとも思ったが酔いやすいので辞めた、どうするかな~

「寝よっか
「そうだね、眠れば気がついた頃には目の前に豪邸がっ…てる!?」

ターシャは窓から外を見ると目を見開き窓の外の風景を一生懸命に眺める。

「どうした?」
「見てよ!この光景!」
「どれどれ…おぉ…!!」

そこにはつい感嘆の声を上げてしまうような、豪邸がずらー!と並んでいた。

ちょっと気になったのでミダムに聞いてみる。

運転席に繋がる天窓を開きそこからミダムに質問する。

「ここはなんですか?」
「ここはですね、いわゆる下級、中級貴族に人気の別荘地ですね、しかし、気温は高いため、避暑地としては適していません、その為、寒い季節にしか集まらないようです」
「へぇ~」

それにしてもでかいな…ん?
下級?中級って言った?今、マジで?
はえ~貴族ってスゴいんすね。

そして、しばらくするとまた森の中に入り、窓の外にはまた木々が並ぶ光景だけが広がった。

「ついに何も見るものがなくなっちゃったね~」
「そうだな…」

そして、俺とターシャは深く考え込み、結局寝るという結論に至り、目を閉じた。
_____________________________________

「……イ…ま…レ……さ…レイ様」
「ふぇ?ふぁい…」

名前を呼ばれた気がしたため、ぼんやりとした意識で返事をする。 

「もうすぐ着きますので降りる準備を」
「ぁあ、はい、わかりました」

俺はふぁ~、と深い欠伸をし、ターシャの肩を揺らす。

「もう…レイくん…好き嫌いは……ダメだよ…ふふふ…」
「お~いターシャ~起きろ~それと俺は好き嫌い無いぞ~」
「ぅ…はっ!」
「うわっ!」

唐突に目を見開いたターシャに驚き、つい声が出てしまった。

「ど、どうした?」
「い、いやぁ…ちょっと良い夢を見てたのに誰かに邪魔された気がして…」
「良い夢って…俺に嫌いな食べ物食べさせる夢?」
「!?な、なんで知っているのかな?レ、レイくん」
「え、だって寝言でそんなこと言ってたし…」
「ァァ…」

ターシャは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

まぁ、まだターシャも年端もいかない子供だし、おままごともしたい年齢だろう。
ってか嫌いな食べ物食べさせる夢って…なんでそんなピンポイントなんだ…

そんな他愛のない話をしているとミダムが馬車を止め、着きました、と知らせてくれた。
俺とターシャは馬車を降り、マルート家の別荘に目をやる。

「「はっえぇえ…」」

ジャンプのとある漫画ならここでドドン!と大きく文字が出ることだろう、とにかくデカイ、ヤバイ。

なんというか…語彙力をなくす荘厳さをその建物は持っていた。
今なにか考えようとしても、デカイ、ヤバイ、なにこれ?、おいくら万円?ぐらいしか思い浮かばない。
地球の基準で言うときっと東京ドーム一個分とかで表されるだろう、行ったこと無いからわかんないけど。

「どうなさいました?」

ミダムが馬を馬舎に戻してきたのか、俺に声をかける。
その顔はなぜかポカーンとしている。

「い、いやぁ…でかいなぁ…と…」
「うん…私も…」
「あぁ、そうでございましたか、しかし、大丈夫ですよ、変な獣や魔獣は居ませんから」
「「違う、そうじゃない」」

俺とターシャが口を揃えてミダムの観点の外れた返しを指摘する。
するとミダムは顔に疑問符を浮かべる。

なるほど、基準が違うから、話の観点も違うわけか、きっとそうだ、そう考えておこう。

俺結論付け、その一見別荘に見えない建物に足を踏み入れた。
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