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幼年期
#20 黒牙の捕食者
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赤い狼の魔物……魔獣の方が、言うには正しいだろうか。
まぁそんなことはどうでもいい、そいつは俺たちを一瞥すると、立ち上がり、ジュルリと舌なめずりをする。
そして次の瞬間、そいつはそこら一帯にいる腐食種を捕食し始めた。
「なんだ?急に」
俺がその言葉を発した数秒後、俺はその行動の意味を理解した。
狼の身体に変化が現れ始めたのだ。
赤い毛皮は黒く、吐く息は赤黒く、そして体中には牙に似た突起物が皮膚を突き破り、姿を現した。
その突起物は黒い霧のようなものを排出し、周囲を黒く染め始める。
そして次の瞬間、狼の姿が消え、レック君が吹き飛ばされた。
幸い着込んでいた鎧が砕けただけのようで、外傷は頭に切り傷が出来ているところ以外見られなかった。
「なっ!?」
そして、息をつく暇もなく狼は俺に肉薄する。
俺は避けようとするが遅かった。
俺の体は木の葉のように吹き飛ばされ、壁に埋まる。
そこで俺は気を失った。
_________________________________________________
ターシャは恐怖で体を震わせていた、こんなに早く二人がやられると思っていなかったから、自分なら守ってあげれる、と自分の力を過信していたから。
だからといってここでターシャは諦めるわけにはいかない、帰らなければいけないから、大切な人がいるから。
“あのときのような私にはもう絶対戻りたくないから”
ターシャは恐怖で小刻みに震える体に無理矢理力を込め、愛剣を構える。
そして、一言言葉を発する。
「[聖剣よ我に敵を穿つ力を]」
その言葉を発すると、構えた剣は今こそ最も敵に最適な形、大斧に変形する。
その光景を見てか、狼は愉しそうにグルルル、と喉を鳴らしたあと、力強く咆える。
それに呼応するようにターシャは声を出して体に精一杯力を込める。
数秒間、黒い閃光と白い閃光が激突し、反発し合う。
たった数秒という短い時間だが、一人の少女と黒い狼にとっては、命を懸けた濃密な時間だったと言えるだろう。
お互いにいつの間にか出来た切り傷や擦り傷がそれを物語っている。
そして、一秒間ほどの感覚を開けたあともう一度ぶつかり合う。
ターシャは上から来る攻撃を多少怯みながらも受け流し確実に傷を付ける。
しかし、それはどうやっても有効打になり得ない、理由は狼の皮膚にあった、普段毛皮に覆われている皮膚が鋼鉄のように固く、出来たとしても数ミリ程度しか斬れない。
それを理解したターシャはまた武器の形を変える。
今必要なのは斬撃じゃなく、打撃力。
そう念じると、大斧は大槌へと変形する。
変形が終わると、体の魔力が武器に吸い込まえれていくのがわかる、そして、魔力が枯渇したのか吐き気が湧き上がってくる。
しかし、今のターシャにそんなことを気にしている余裕はない、今は目の前の敵を倒すのが最優先だ。
「あぁああァァあぁあ!!」
極度の集中のせいか鼻から鼻血が垂れ、目が充血する。
そんな状態で力一杯大槌を振るう、狼は避けない、何故だがそういう確信があった。
すると予想通り、狼は避けず、じっと構えた、その表情は悦に浸っているように見える。
きっとターシャの100%を耐えきって、戦意を完全に失わせる気なのだろう。
そして、ターシャの大槌と狼の頭部が触れる。
ドゴォン!!という爆音が衝撃波に遅れて聞こえた。
狼の四本足の立っていた地面は砕け、欠片が舞い上がる、それだけでなく腐食種、死体、その他諸々が衝撃波で壁に叩きつけられる。
もちろんレイとレックも例外ではない。
そんな攻撃を受けたにも関わらず、狼の四本足は立っていた。
しかし、立っていただけだった。
直接打撃を受けた頭の皮膚、頭蓋は砕け、脳が露出し、血が吹き出していた。
ターシャはその頭の上で返り血まみれで雄々しく立ち上がり、勝利の雄叫びを上げる。
「うおぉおおおぉおぉおおぉおぉ!!」
そして、糸の切れた操り人形のように力を失い、地面に落下した。
_________________________________________________
目を覚ますと、そこはひどい光景だった。
周囲に肉塊、血、骨、そんなものが撒き散らされていた。
とりあえず埋まっているこの状況から抜け出さないと。
そう思い、手と足に力を入れようとする、しかし、ピクリと指先や足先が動くだけで、体を動かすことができない。
そして四肢に目を向けると両手両足の関節という関節があらぬ方向に向いていた。
瞬間、痛みが体を巡る。
「ぁああぅああ!!」
パニックに陥り、どうしようか、と考えることもできず、叫ぶ。
その叫び声を遮るように声がした。
「レイ様!!そこに居られましたか!!」
ミダムだった。
ミダムはボロボロになった壁と柱を使い、ヒョイヒョイと俺のところに登り、俺を抱き寄せ、またヒョイヒョイと降りてみせた。
持たれているとき体中が訳のわからない痛さに見舞われたが、冷静になった俺はまだ生きているだけマシだ、と考え、静かにしていた。
ミダムは俺の体を地面に横たわらせる。
その横たわった姿を見てミダムは冷静にこう言う。
「見た感じだと、手足の骨は全滅で……鎖骨も折れてますね、これで生きてるとは……流石ですレイ様、この傷、正直死んだ方がマシな傷でしたよ」
俺は反論しようとするが、脇腹が痛むため、やめておいた。
するとミダムは俺が痛がり脇腹を擦る姿を見て、肋骨も折れているようですね、と俺に告げる。
そして少し考えてから、うん、と頷き、こう提案した。
「ここでいくら治療しても圧倒的に魔力が足りないでまた苦しくなるだけなので、治療員の居る教会に行きましょう」
そう一言言ったあと、俺とターシャ、レック君を抱えながら、ミダムはこの部屋の入り口まで登った。
相変わらず乗り心地は最悪だった。
まぁそんなことはどうでもいい、そいつは俺たちを一瞥すると、立ち上がり、ジュルリと舌なめずりをする。
そして次の瞬間、そいつはそこら一帯にいる腐食種を捕食し始めた。
「なんだ?急に」
俺がその言葉を発した数秒後、俺はその行動の意味を理解した。
狼の身体に変化が現れ始めたのだ。
赤い毛皮は黒く、吐く息は赤黒く、そして体中には牙に似た突起物が皮膚を突き破り、姿を現した。
その突起物は黒い霧のようなものを排出し、周囲を黒く染め始める。
そして次の瞬間、狼の姿が消え、レック君が吹き飛ばされた。
幸い着込んでいた鎧が砕けただけのようで、外傷は頭に切り傷が出来ているところ以外見られなかった。
「なっ!?」
そして、息をつく暇もなく狼は俺に肉薄する。
俺は避けようとするが遅かった。
俺の体は木の葉のように吹き飛ばされ、壁に埋まる。
そこで俺は気を失った。
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ターシャは恐怖で体を震わせていた、こんなに早く二人がやられると思っていなかったから、自分なら守ってあげれる、と自分の力を過信していたから。
だからといってここでターシャは諦めるわけにはいかない、帰らなければいけないから、大切な人がいるから。
“あのときのような私にはもう絶対戻りたくないから”
ターシャは恐怖で小刻みに震える体に無理矢理力を込め、愛剣を構える。
そして、一言言葉を発する。
「[聖剣よ我に敵を穿つ力を]」
その言葉を発すると、構えた剣は今こそ最も敵に最適な形、大斧に変形する。
その光景を見てか、狼は愉しそうにグルルル、と喉を鳴らしたあと、力強く咆える。
それに呼応するようにターシャは声を出して体に精一杯力を込める。
数秒間、黒い閃光と白い閃光が激突し、反発し合う。
たった数秒という短い時間だが、一人の少女と黒い狼にとっては、命を懸けた濃密な時間だったと言えるだろう。
お互いにいつの間にか出来た切り傷や擦り傷がそれを物語っている。
そして、一秒間ほどの感覚を開けたあともう一度ぶつかり合う。
ターシャは上から来る攻撃を多少怯みながらも受け流し確実に傷を付ける。
しかし、それはどうやっても有効打になり得ない、理由は狼の皮膚にあった、普段毛皮に覆われている皮膚が鋼鉄のように固く、出来たとしても数ミリ程度しか斬れない。
それを理解したターシャはまた武器の形を変える。
今必要なのは斬撃じゃなく、打撃力。
そう念じると、大斧は大槌へと変形する。
変形が終わると、体の魔力が武器に吸い込まえれていくのがわかる、そして、魔力が枯渇したのか吐き気が湧き上がってくる。
しかし、今のターシャにそんなことを気にしている余裕はない、今は目の前の敵を倒すのが最優先だ。
「あぁああァァあぁあ!!」
極度の集中のせいか鼻から鼻血が垂れ、目が充血する。
そんな状態で力一杯大槌を振るう、狼は避けない、何故だがそういう確信があった。
すると予想通り、狼は避けず、じっと構えた、その表情は悦に浸っているように見える。
きっとターシャの100%を耐えきって、戦意を完全に失わせる気なのだろう。
そして、ターシャの大槌と狼の頭部が触れる。
ドゴォン!!という爆音が衝撃波に遅れて聞こえた。
狼の四本足の立っていた地面は砕け、欠片が舞い上がる、それだけでなく腐食種、死体、その他諸々が衝撃波で壁に叩きつけられる。
もちろんレイとレックも例外ではない。
そんな攻撃を受けたにも関わらず、狼の四本足は立っていた。
しかし、立っていただけだった。
直接打撃を受けた頭の皮膚、頭蓋は砕け、脳が露出し、血が吹き出していた。
ターシャはその頭の上で返り血まみれで雄々しく立ち上がり、勝利の雄叫びを上げる。
「うおぉおおおぉおぉおおぉおぉ!!」
そして、糸の切れた操り人形のように力を失い、地面に落下した。
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目を覚ますと、そこはひどい光景だった。
周囲に肉塊、血、骨、そんなものが撒き散らされていた。
とりあえず埋まっているこの状況から抜け出さないと。
そう思い、手と足に力を入れようとする、しかし、ピクリと指先や足先が動くだけで、体を動かすことができない。
そして四肢に目を向けると両手両足の関節という関節があらぬ方向に向いていた。
瞬間、痛みが体を巡る。
「ぁああぅああ!!」
パニックに陥り、どうしようか、と考えることもできず、叫ぶ。
その叫び声を遮るように声がした。
「レイ様!!そこに居られましたか!!」
ミダムだった。
ミダムはボロボロになった壁と柱を使い、ヒョイヒョイと俺のところに登り、俺を抱き寄せ、またヒョイヒョイと降りてみせた。
持たれているとき体中が訳のわからない痛さに見舞われたが、冷静になった俺はまだ生きているだけマシだ、と考え、静かにしていた。
ミダムは俺の体を地面に横たわらせる。
その横たわった姿を見てミダムは冷静にこう言う。
「見た感じだと、手足の骨は全滅で……鎖骨も折れてますね、これで生きてるとは……流石ですレイ様、この傷、正直死んだ方がマシな傷でしたよ」
俺は反論しようとするが、脇腹が痛むため、やめておいた。
するとミダムは俺が痛がり脇腹を擦る姿を見て、肋骨も折れているようですね、と俺に告げる。
そして少し考えてから、うん、と頷き、こう提案した。
「ここでいくら治療しても圧倒的に魔力が足りないでまた苦しくなるだけなので、治療員の居る教会に行きましょう」
そう一言言ったあと、俺とターシャ、レック君を抱えながら、ミダムはこの部屋の入り口まで登った。
相変わらず乗り心地は最悪だった。
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