異世界では悔いの残らないよう頑張ります!!

建月 創士

文字の大きさ
23 / 41
幼年期

#20 黒牙の捕食者

しおりを挟む
 赤い狼の魔物……魔獣の方が、言うには正しいだろうか。
 まぁそんなことはどうでもいい、そいつは俺たちを一瞥すると、立ち上がり、ジュルリと舌なめずりをする。
 そして次の瞬間、そいつはそこら一帯にいる腐食種ゾンビを捕食し始めた。

「なんだ?急に」

 俺がその言葉を発した数秒後、俺はその行動の意味を理解した。
 狼の身体に変化が現れ始めたのだ。
 赤い毛皮は黒く、吐く息は赤黒く、そして体中には牙に似た突起物が皮膚を突き破り、姿を現した。
 その突起物は黒い霧のようなものを排出し、周囲を黒く染め始める。
 そして次の瞬間、狼の姿が消え、レック君が吹き飛ばされた。
 幸い着込んでいた鎧が砕けただけのようで、外傷は頭に切り傷が出来ているところ以外見られなかった。

「なっ!?」

 そして、息をつく暇もなく狼は俺に肉薄する。
 俺は避けようとするが遅かった。
 俺の体は木の葉のように吹き飛ばされ、壁に埋まる。
 そこで俺は気を失った。
_________________________________________________

 ターシャは恐怖で体を震わせていた、こんなに早く二人がやられると思っていなかったから、自分なら守ってあげれる、と自分の力を過信していたから。

 だからといってここでターシャは諦めるわけにはいかない、帰らなければいけないから、大切な人がいるから。
 “あのときのような私にはもう絶対戻りたくないから”

 ターシャは恐怖で小刻みに震える体に無理矢理力を込め、愛剣を構える。
 そして、一言言葉を発する。

「[聖剣よ我に敵を穿つ力を]」

 その言葉を発すると、構えた剣は今こそ最も敵に最適な形、大斧ハルバードに変形する。
 
 その光景を見てか、狼は愉しそうにグルルル、と喉を鳴らしたあと、力強く咆える。
 それに呼応するようにターシャは声を出して体に精一杯力を込める。

 数秒間、黒い閃光と白い閃光が激突し、反発し合う。
 たった数秒という短い時間だが、一人の少女と黒い狼にとっては、命を懸けた濃密な時間だったと言えるだろう。
 お互いにいつの間にか出来た切り傷や擦り傷がそれを物語っている。

 そして、一秒間ほどの感覚を開けたあともう一度ぶつかり合う。
 
 ターシャは上から来る攻撃を多少怯みながらも受け流し確実に傷を付ける。
 しかし、それはどうやっても有効打になり得ない、理由は狼の皮膚にあった、普段毛皮に覆われている皮膚が鋼鉄のように固く、出来たとしても数ミリ程度しか斬れない。

 それを理解したターシャはまた武器の形を変える。 
 今必要なのは斬撃じゃなく、打撃力。
 そう念じると、大斧は大槌ハンマーへと変形する。
 変形が終わると、体の魔力が武器に吸い込まえれていくのがわかる、そして、魔力が枯渇したのか吐き気が湧き上がってくる。
 しかし、今のターシャにそんなことを気にしている余裕はない、今は目の前の敵を倒すのが最優先だ。

「あぁああァァあぁあ!!」

 極度の集中のせいか鼻から鼻血が垂れ、目が充血する。
 そんな状態で力一杯大槌を振るう、狼は避けない、何故だがそういう確信があった。
 すると予想通り、狼は避けず、じっと構えた、その表情は悦に浸っているように見える。
 きっとターシャの100%を耐えきって、戦意を完全に失わせる気なのだろう。

 そして、ターシャの大槌と狼の頭部が触れる。
 ドゴォン!!という爆音が衝撃波に遅れて聞こえた。
 狼の四本足の立っていた地面は砕け、欠片が舞い上がる、それだけでなく腐食種、死体、その他諸々が衝撃波で壁に叩きつけられる。
 もちろんレイとレックも例外ではない。
 
 そんな攻撃を受けたにも関わらず、狼の四本足は立っていた。
 
 しかし、立っていただけだった。

 直接打撃を受けた頭の皮膚、頭蓋は砕け、脳が露出し、血が吹き出していた。

 ターシャはその頭の上で返り血まみれで雄々しく立ち上がり、勝利の雄叫びを上げる。

「うおぉおおおぉおぉおおぉおぉ!!」

 そして、糸の切れた操り人形のように力を失い、地面に落下した。
_________________________________________________ 
 目を覚ますと、そこはひどい光景だった。

 周囲に肉塊、血、骨、そんなものが撒き散らされていた。
 
 とりあえず埋まっているこの状況から抜け出さないと。 
 
 そう思い、手と足に力を入れようとする、しかし、ピクリと指先や足先が動くだけで、体を動かすことができない。
 そして四肢に目を向けると両手両足の関節という関節があらぬ方向に向いていた。
 瞬間、痛みが体を巡る。

「ぁああぅああ!!」

 パニックに陥り、どうしようか、と考えることもできず、叫ぶ。
 その叫び声を遮るように声がした。

「レイ様!!そこに居られましたか!!」

 ミダムだった。
 ミダムはボロボロになった壁と柱を使い、ヒョイヒョイと俺のところに登り、俺を抱き寄せ、またヒョイヒョイと降りてみせた。
 持たれているとき体中が訳のわからない痛さに見舞われたが、冷静になった俺はまだ生きているだけマシだ、と考え、静かにしていた。
 ミダムは俺の体を地面に横たわらせる。
 その横たわった姿を見てミダムは冷静にこう言う。

「見た感じだと、手足の骨は全滅で……鎖骨も折れてますね、これで生きてるとは……流石ですレイ様、この傷、正直死んだ方がマシな傷でしたよ」

 俺は反論しようとするが、脇腹が痛むため、やめておいた。
 するとミダムは俺が痛がり脇腹を擦る姿を見て、肋骨も折れているようですね、と俺に告げる。
 そして少し考えてから、うん、と頷き、こう提案した。

「ここでいくら治療しても圧倒的に魔力が足りないでまた苦しくなるだけなので、治療員ヒーラーの居る教会に行きましょう」

 そう一言言ったあと、俺とターシャ、レック君を抱えながら、ミダムはこの部屋の入り口まで登った。
 相変わらず乗り心地は最悪だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...