囚われの天使

回想➁

幼い頃、弟が不機嫌になったことがあった
私は彼の好きな物で気を逸らそうと、笑ってくれるように必死になって話しかけた



そんな私を眺めていたあの人に言われた

『機嫌取らなくて良い
不愉快』


え、と間抜けに声が落ちた
冷たい汗が頬を伝って床を汚す

蔑むような苛ついたような眼
あまりに恐ろしく、見下ろされて俯いてしまった




私がもっと器用だったら

もっと上手く立ち回れていたら

意味もないたらればが頭をぐるぐるとまわる


何をやっても他の子より出来が悪い
愚鈍な自分が嫌いで情けなくて






狭い世界では1人の言動が絶対になりやすい
嫌われたら居場所がなくなる
あの頃の私にはあの人が絶対の存在だった

どんなに疎まれても、傷つけられても
優しくしてもらった記憶、愛してくれた時間が邪魔をする

珍しく私のした事で機嫌が良くなっても、
あの蔑んだ眼が、
口約束を破って誓約書と血判を書いた、
気に障ることをして閉め出されて泣いて謝った過去が
フラッシュバックして邪魔をする


堂々巡り



少しでもあの人が私の方を見てくれるように

少しでも笑ってくれるように

少しでも




必死にあの人好みに自分をつくりかえる



でも、
他の子に向ける笑顔や眼差しを見て気づくのだ

どんなにつくりかえても
あの人が私にあの優しさを向けることは無いのだ

急に必死だった自分が滑稽に思えた