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俺のものって、言いたくなるのはダメか?
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カフェの昼下がり、週末のバイト中。
グラスを拭いていた陸の耳に、カウンター越しの会話が飛び込んできた。
「見た?今月のファミレーヌの特集。やばくない?表紙の人、まじで天使なんだけど」
「うんうん、あの人、名前なんだっけ……桐谷?桐谷蓮?超有名じゃん。あの脱ぎっぷり、雑誌で大丈夫なのって感じ」
その名前を聞いた瞬間、陸の手が止まった。
グラスの口縁が指に引っかかって、かすかに音を立てる。
しむ姐がちらりと視線を向けてきたが、陸はなにも言わず、拭き取りを再開した。
心臓の奥が、ぐっと掴まれるような感覚。
妙に汗ばんだ手のひら。
冷静なふりをしながらも、脳裏にはその名前と“脱ぎっぷり”という単語がこびりついて離れなかった。
閉店後、家に帰ってすぐにリビングのソファに沈み込む。
テーブルには、コンビニで買ったその雑誌が置いてある。
表紙の蓮は、白シャツをゆるく羽織ったまま、片肩を大きく出し、視線はカメラ越しに正面を捉えている。
髪は濡れたようにセットされ、首筋のラインが妙に色っぽい。
無意識にページをめくる指が止まったのは、特集ページの見開きだった。
黒のタンクトップ、視線は伏せ気味、唇が少しだけ開いている。
「……脱ぎすぎだろ」
小さく、呟いた。
誰に聞かれるでもなく、ただ息を吐くように。
そのとき、玄関の鍵がカチャリと鳴った。
「ただいまー」
蓮が、買い物袋を片手にリビングへ顔を出した。
ゆるいパーカーに短パン、髪は軽く乱れている。
雑誌を手に持ったままの陸と目が合った。
「あ、それ……見ちゃった?」
「いや、別に。たまたま目に入っただけだし」
「へー、たまたまね」
蓮はクスッと笑って、キッチンに袋を置いた。
その背中に、言葉が勝手に出ていた。
「……妬いてるに決まってんだろ」
蓮の手が止まった。
しばらく沈黙があって、ゆっくりと振り返る。
「……それ、いま本気で言ってる?」
「お前が脱いで誰かに見られて喜ばれてんのが、嫌に決まってんだろ。……俺、バカか?」
顔が熱くなるのを感じながら、ソファの肘掛けを見つめた。
心臓が騒がしくて、うるさくて、逃げ出したくなる。
蓮がゆっくりと歩み寄ってくる。
足音が近づいて、気づけば目の前に立っていた。
「……かわいすぎ」
「は?」
「陸が、俺のために妬くとか……最高なんだけど」
そのまま手を伸ばし、顔をつかむように頬に触れてくる。
親指が耳の後ろをなぞり、視線がすっと近づいた。
「ちょ、近い……って」
「黙って」
唇が触れそうな距離まで来て、でも蓮はそのまま止まった。
数秒の沈黙。
そのあと、ふっと口角を上げて、額に軽くキスを落とした。
「……今日はこれくらいで、許しとく」
「……うざ」
陸は目をそらしながら呟いたが、顔の熱は収まらない。
息を整えるのに必死で、胸がきゅっと締めつけられるようだった。
蓮は何も言わず、隣に腰を下ろした。
少し距離はあるけれど、その存在感があまりにも強い。
全部見せてるみたいで、実は、俺だけしか知らない顔がある。
それが救いだ。
モデルとしての蓮は、世間のものでいい。
でも、素の蓮は、俺だけのものだと信じていたい。
その夜、陸はもう一度だけ、雑誌を手に取った。
表紙の蓮を見て、ゆっくりとため息をついた。
「……やっぱ脱ぎすぎだろ」
でも、少しだけ笑ってしまった自分がいた。
グラスを拭いていた陸の耳に、カウンター越しの会話が飛び込んできた。
「見た?今月のファミレーヌの特集。やばくない?表紙の人、まじで天使なんだけど」
「うんうん、あの人、名前なんだっけ……桐谷?桐谷蓮?超有名じゃん。あの脱ぎっぷり、雑誌で大丈夫なのって感じ」
その名前を聞いた瞬間、陸の手が止まった。
グラスの口縁が指に引っかかって、かすかに音を立てる。
しむ姐がちらりと視線を向けてきたが、陸はなにも言わず、拭き取りを再開した。
心臓の奥が、ぐっと掴まれるような感覚。
妙に汗ばんだ手のひら。
冷静なふりをしながらも、脳裏にはその名前と“脱ぎっぷり”という単語がこびりついて離れなかった。
閉店後、家に帰ってすぐにリビングのソファに沈み込む。
テーブルには、コンビニで買ったその雑誌が置いてある。
表紙の蓮は、白シャツをゆるく羽織ったまま、片肩を大きく出し、視線はカメラ越しに正面を捉えている。
髪は濡れたようにセットされ、首筋のラインが妙に色っぽい。
無意識にページをめくる指が止まったのは、特集ページの見開きだった。
黒のタンクトップ、視線は伏せ気味、唇が少しだけ開いている。
「……脱ぎすぎだろ」
小さく、呟いた。
誰に聞かれるでもなく、ただ息を吐くように。
そのとき、玄関の鍵がカチャリと鳴った。
「ただいまー」
蓮が、買い物袋を片手にリビングへ顔を出した。
ゆるいパーカーに短パン、髪は軽く乱れている。
雑誌を手に持ったままの陸と目が合った。
「あ、それ……見ちゃった?」
「いや、別に。たまたま目に入っただけだし」
「へー、たまたまね」
蓮はクスッと笑って、キッチンに袋を置いた。
その背中に、言葉が勝手に出ていた。
「……妬いてるに決まってんだろ」
蓮の手が止まった。
しばらく沈黙があって、ゆっくりと振り返る。
「……それ、いま本気で言ってる?」
「お前が脱いで誰かに見られて喜ばれてんのが、嫌に決まってんだろ。……俺、バカか?」
顔が熱くなるのを感じながら、ソファの肘掛けを見つめた。
心臓が騒がしくて、うるさくて、逃げ出したくなる。
蓮がゆっくりと歩み寄ってくる。
足音が近づいて、気づけば目の前に立っていた。
「……かわいすぎ」
「は?」
「陸が、俺のために妬くとか……最高なんだけど」
そのまま手を伸ばし、顔をつかむように頬に触れてくる。
親指が耳の後ろをなぞり、視線がすっと近づいた。
「ちょ、近い……って」
「黙って」
唇が触れそうな距離まで来て、でも蓮はそのまま止まった。
数秒の沈黙。
そのあと、ふっと口角を上げて、額に軽くキスを落とした。
「……今日はこれくらいで、許しとく」
「……うざ」
陸は目をそらしながら呟いたが、顔の熱は収まらない。
息を整えるのに必死で、胸がきゅっと締めつけられるようだった。
蓮は何も言わず、隣に腰を下ろした。
少し距離はあるけれど、その存在感があまりにも強い。
全部見せてるみたいで、実は、俺だけしか知らない顔がある。
それが救いだ。
モデルとしての蓮は、世間のものでいい。
でも、素の蓮は、俺だけのものだと信じていたい。
その夜、陸はもう一度だけ、雑誌を手に取った。
表紙の蓮を見て、ゆっくりとため息をついた。
「……やっぱ脱ぎすぎだろ」
でも、少しだけ笑ってしまった自分がいた。
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