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夢見鳥(ゆめみどり)
オンライン誕生日会(1)
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「流花、誕生日おめでとう!」
「いい一年になりますように~!」
「フフ、ありがとう!」
四月二十一日は、紫苑の親友である流花の誕生日だった。当日はあいにく予定が合わなかったため、約十日遅れの本日、オンラインでの誕生日会を開いている。普段はメッセージのやりとりばかりで、画面越しでも顔を合わせるのは久しぶりだった。
「プレゼントも届いたよ。おおきに。ほんまに嬉しい」
「サイズは問題なかった?」
「ほら、ぴったしよ。全然きつうない」
「うん、よかった」
紫苑は、今年も手作りのブラウスを贈った。流花がいま着ているボルドー、ほかにホワイトとブラックの三着だ。
流花は胸が大きく、既製品のブラウスではボタンが留められない。つまり、流花のためだけの一点物なら解決する。
祖母に教わった裁縫の腕を活かす時だと、紫苑ははりきった。実のところ、誕生日でなくても贈りたく思っているのだが、「タダは一年に一回まで!」と断固拒否された経験から自重しているのだ。紫苑の手作りの服に買うだけの価値があるということなので、面映い。その反面、親友から金銭を受け取ることには、いまだに違和感を覚える。
「肌触りがええ生地やねえ。ずーっと着てたいくらい。今日はしこたまお酒飲むから、もう脱いでまうけど、堪忍え」
「いいよいいよ」
流花は画面の外に行くこともなく、その場でブラウスを脱ぎ始める。赤地に白いレースのブラジャーに包まれた、たわわな胸。相変わらず、すごい迫力である。だが、見慣れた胸より、ブラウスに下着の色を合わせていることや、丁寧にブラウスを畳んでいることのほうが目を引いて、照れくさかった。
流花がゆったりした七分袖のトップスに着替え終わったタイミングで、呉葉が声をかけた。
「私のプレゼントはどうやった? 気に入ったっちゃな~い?」
「呉葉ったら、もう。ええ匂いよ。大事に使わせてもらうから」
「アハハ、当然! こだわりの一品やけんね!」
呉葉のプレゼントは、オーダーメイドの香水だ。こっそり相談されたから知っている。
調香師に流花の特徴や印象を伝えて、世界で一つだけの香水を作ってもらったそうだ。
「うちって、こういうイメージなんかなって思ったら、なんや、恥ずかしいけど」
「どんな匂いなの?」
流花は手首を鼻に寄せて、目を閉じながら答える。
「薔薇。そんで、桃やろか。フルーツみたいな匂いがする。ン、ちょっとだけ、紅茶……シナモンティーっぽい? 甘いけど、清々しい感じいうか……いややわ、自画自賛してるみたいやないの」
「いいやん、贈った私も間接的に褒められとうわけやし」
「気になる……。今度会う時につけてきてね。くんくんしよっと」
「あらあら、おっきなワンちゃんやこと」
「紫苑にも贈るけん、九月まで待っとってね」
「わ、楽しみ」
「ほな、お先ぃ」
流花が、一リットルくらい入りそうなステンレスのジョッキに口をつける。それを合図に、紫苑と呉葉も飲み始める。乾杯の音頭はとらない。妙に気恥ずかしい、という共通認識があるためだ。
「紫苑、真境名さんはおらすと?」
「ほんなら大変や。けっこう騒いでしもてるけど、ご迷惑やあらへん?」
「大丈夫。響也さんは……」
彼は、清明祭という地元の行事のため、帰省している。本来は四月上旬から中旬まで──二十四節気の清明の頃──に行うそうだが、近年ではゴールデンウィークまで期間が延びているらしい。
出張に続いて家を空けることを申し訳なさそうにしていたが、彼は家族や地元の友人をとても大切にしているので、快く送り出した。ただ、小中学校ではいじめられていたらしいので、当時の同級生にだけは会いたくないようだった。ばったり出くわさないか心配だ。
そういう経緯を、いじめ云々を伏せて説明した。
「シーミーって、要するにお墓参りやねんな。……沖縄のお墓、大きゅうない?」
「おっきい……いや、ほんとにおっきかぁ……」
流花と呉葉は、それぞれの端末で行事の内容を調べているようだ。
「お墓でピクニック……所変われば品変わるて、ほんまなんやねえ」
「何人くらい集まるとかいな」
「二十人くらいって」
「多い多い!」
「お年玉、えらいことになってそうやね……」
「真境名さんと結婚したら、その二十人と親戚付き合いすると? 紫苑、人見知りするやん。心配っちゃけど……」
呉葉が思案げに頬杖をつき、缶ビールを片手で開ける。
「結婚とか、そんな、まだ全然話に出てないよ」
「フーン? まだっちゅうことは、いずれは結婚する気なんやね?」
流花が含み笑いをして、焼酎の紙パックからジョッキにどぼどぼ注いでいる。
この酔いどれたちは、紫苑の恋路を肴にするつもりらしい。
【方言(流花)】
・えらい……とんでもない。
【方言(呉葉)】
・ちゃない……じゃない。
・するけん……するから。
・しとう……している。
・おらすと……いらっしゃるの。おる(=いる)の敬語表現。
・すると……するの。
・かいな……かな。
「いい一年になりますように~!」
「フフ、ありがとう!」
四月二十一日は、紫苑の親友である流花の誕生日だった。当日はあいにく予定が合わなかったため、約十日遅れの本日、オンラインでの誕生日会を開いている。普段はメッセージのやりとりばかりで、画面越しでも顔を合わせるのは久しぶりだった。
「プレゼントも届いたよ。おおきに。ほんまに嬉しい」
「サイズは問題なかった?」
「ほら、ぴったしよ。全然きつうない」
「うん、よかった」
紫苑は、今年も手作りのブラウスを贈った。流花がいま着ているボルドー、ほかにホワイトとブラックの三着だ。
流花は胸が大きく、既製品のブラウスではボタンが留められない。つまり、流花のためだけの一点物なら解決する。
祖母に教わった裁縫の腕を活かす時だと、紫苑ははりきった。実のところ、誕生日でなくても贈りたく思っているのだが、「タダは一年に一回まで!」と断固拒否された経験から自重しているのだ。紫苑の手作りの服に買うだけの価値があるということなので、面映い。その反面、親友から金銭を受け取ることには、いまだに違和感を覚える。
「肌触りがええ生地やねえ。ずーっと着てたいくらい。今日はしこたまお酒飲むから、もう脱いでまうけど、堪忍え」
「いいよいいよ」
流花は画面の外に行くこともなく、その場でブラウスを脱ぎ始める。赤地に白いレースのブラジャーに包まれた、たわわな胸。相変わらず、すごい迫力である。だが、見慣れた胸より、ブラウスに下着の色を合わせていることや、丁寧にブラウスを畳んでいることのほうが目を引いて、照れくさかった。
流花がゆったりした七分袖のトップスに着替え終わったタイミングで、呉葉が声をかけた。
「私のプレゼントはどうやった? 気に入ったっちゃな~い?」
「呉葉ったら、もう。ええ匂いよ。大事に使わせてもらうから」
「アハハ、当然! こだわりの一品やけんね!」
呉葉のプレゼントは、オーダーメイドの香水だ。こっそり相談されたから知っている。
調香師に流花の特徴や印象を伝えて、世界で一つだけの香水を作ってもらったそうだ。
「うちって、こういうイメージなんかなって思ったら、なんや、恥ずかしいけど」
「どんな匂いなの?」
流花は手首を鼻に寄せて、目を閉じながら答える。
「薔薇。そんで、桃やろか。フルーツみたいな匂いがする。ン、ちょっとだけ、紅茶……シナモンティーっぽい? 甘いけど、清々しい感じいうか……いややわ、自画自賛してるみたいやないの」
「いいやん、贈った私も間接的に褒められとうわけやし」
「気になる……。今度会う時につけてきてね。くんくんしよっと」
「あらあら、おっきなワンちゃんやこと」
「紫苑にも贈るけん、九月まで待っとってね」
「わ、楽しみ」
「ほな、お先ぃ」
流花が、一リットルくらい入りそうなステンレスのジョッキに口をつける。それを合図に、紫苑と呉葉も飲み始める。乾杯の音頭はとらない。妙に気恥ずかしい、という共通認識があるためだ。
「紫苑、真境名さんはおらすと?」
「ほんなら大変や。けっこう騒いでしもてるけど、ご迷惑やあらへん?」
「大丈夫。響也さんは……」
彼は、清明祭という地元の行事のため、帰省している。本来は四月上旬から中旬まで──二十四節気の清明の頃──に行うそうだが、近年ではゴールデンウィークまで期間が延びているらしい。
出張に続いて家を空けることを申し訳なさそうにしていたが、彼は家族や地元の友人をとても大切にしているので、快く送り出した。ただ、小中学校ではいじめられていたらしいので、当時の同級生にだけは会いたくないようだった。ばったり出くわさないか心配だ。
そういう経緯を、いじめ云々を伏せて説明した。
「シーミーって、要するにお墓参りやねんな。……沖縄のお墓、大きゅうない?」
「おっきい……いや、ほんとにおっきかぁ……」
流花と呉葉は、それぞれの端末で行事の内容を調べているようだ。
「お墓でピクニック……所変われば品変わるて、ほんまなんやねえ」
「何人くらい集まるとかいな」
「二十人くらいって」
「多い多い!」
「お年玉、えらいことになってそうやね……」
「真境名さんと結婚したら、その二十人と親戚付き合いすると? 紫苑、人見知りするやん。心配っちゃけど……」
呉葉が思案げに頬杖をつき、缶ビールを片手で開ける。
「結婚とか、そんな、まだ全然話に出てないよ」
「フーン? まだっちゅうことは、いずれは結婚する気なんやね?」
流花が含み笑いをして、焼酎の紙パックからジョッキにどぼどぼ注いでいる。
この酔いどれたちは、紫苑の恋路を肴にするつもりらしい。
【方言(流花)】
・えらい……とんでもない。
【方言(呉葉)】
・ちゃない……じゃない。
・するけん……するから。
・しとう……している。
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・すると……するの。
・かいな……かな。
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