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二.十二年合戦
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次に意識を取り戻したのは翌日、つまり日曜日の昼であった。
私は酒を酌み交わした場所から一歩も動いていなかった。どうやら酔い潰れたようだがコータローの姿がない。代わりに風で飛ばぬように石を載せたメモをみつけた。
〝なんども起こしたが阿呆のような寝言を口にするばかりで起きなかった。俺は学校にいかねばならんので放って帰る〟
なんたる放置プレイか。スマホには母や妹からの着信履歴やLINEが溜まりまくっていた。
頭の疼きを堪えながら体育館をあとにした。駅で電車を待ちながら母と妹に詫びの連絡を入れる。
ふと、視線を感じて横をみる。ちゃらい恰好をした男が探るように私をみている。
「みず……うみくん?」
はあ? 誰だ、こいつ。
「僕だよ、英太だよ」
「マジ? なんだ、眼鏡やめてコンタクトにしたのか?」
「うん、まあね」
まさかの南部さんとこの英太か。こ洒落ていてまったくわからなかった。モサモサだった癖っ毛はゆるいウーブのパーマがあてられ、トレードマークだった黒縁眼鏡もかけていない。服は高級そうだし、学生時代とはまるで別人である。
「Q市で働いてるんだってな。営業職だって聞いたが」
「まあ、ね。瑞海くんこそいまなにしてんの? 大学は?」
「卒業して、いまは多雨野役場で働いている。おまえのおかあさんとおなじ部署だ」
「え? そうなの」茶髪で、きらびやかなシャツにスキニーなパンツ姿。トゥーの尖った革靴で決めた、営業職らしくない男が驚いた表情をみせる。
「聞いてないのか」
「ここんところ帰ってないしね」
視線を落とし、弱々しく笑う。むかしの英太はもっと朗らかで、魅力的な笑顔を見せるやつだった。血色のよかった顔も青白く、あまり生気が感じられない。
「LINE交換しないか? メアドでもいいが」
「ごっめーん。いまスマホもってないんだ。また今度ね」
手を合わせ、じゃあと言うなり小走りで去っていった。
えらく素っ気ないじゃないか。一人っ子だった英太はむかしから私に懐いていて、よく一緒に遊びまわったのに。
追いかけようと思ったが、電車が到着した。後ろ髪ひかれる想いで電車に乗りこみ多雨野を目指す。
走りだした電車の窓に、女性と肩を並べて歩く英太の姿が一瞬だけ過った。スマホを弄りながら、傍らの女性に笑いかけていた。だが、その顔は笑顔と称される形状を維持しているだけに思えた。
私は酒を酌み交わした場所から一歩も動いていなかった。どうやら酔い潰れたようだがコータローの姿がない。代わりに風で飛ばぬように石を載せたメモをみつけた。
〝なんども起こしたが阿呆のような寝言を口にするばかりで起きなかった。俺は学校にいかねばならんので放って帰る〟
なんたる放置プレイか。スマホには母や妹からの着信履歴やLINEが溜まりまくっていた。
頭の疼きを堪えながら体育館をあとにした。駅で電車を待ちながら母と妹に詫びの連絡を入れる。
ふと、視線を感じて横をみる。ちゃらい恰好をした男が探るように私をみている。
「みず……うみくん?」
はあ? 誰だ、こいつ。
「僕だよ、英太だよ」
「マジ? なんだ、眼鏡やめてコンタクトにしたのか?」
「うん、まあね」
まさかの南部さんとこの英太か。こ洒落ていてまったくわからなかった。モサモサだった癖っ毛はゆるいウーブのパーマがあてられ、トレードマークだった黒縁眼鏡もかけていない。服は高級そうだし、学生時代とはまるで別人である。
「Q市で働いてるんだってな。営業職だって聞いたが」
「まあ、ね。瑞海くんこそいまなにしてんの? 大学は?」
「卒業して、いまは多雨野役場で働いている。おまえのおかあさんとおなじ部署だ」
「え? そうなの」茶髪で、きらびやかなシャツにスキニーなパンツ姿。トゥーの尖った革靴で決めた、営業職らしくない男が驚いた表情をみせる。
「聞いてないのか」
「ここんところ帰ってないしね」
視線を落とし、弱々しく笑う。むかしの英太はもっと朗らかで、魅力的な笑顔を見せるやつだった。血色のよかった顔も青白く、あまり生気が感じられない。
「LINE交換しないか? メアドでもいいが」
「ごっめーん。いまスマホもってないんだ。また今度ね」
手を合わせ、じゃあと言うなり小走りで去っていった。
えらく素っ気ないじゃないか。一人っ子だった英太はむかしから私に懐いていて、よく一緒に遊びまわったのに。
追いかけようと思ったが、電車が到着した。後ろ髪ひかれる想いで電車に乗りこみ多雨野を目指す。
走りだした電車の窓に、女性と肩を並べて歩く英太の姿が一瞬だけ過った。スマホを弄りながら、傍らの女性に笑いかけていた。だが、その顔は笑顔と称される形状を維持しているだけに思えた。
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