勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~序章~

第4話 旅立ちの朝

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一流の勇者を育て上げる(らしい)学校、勇者アカデミーと言う訳のわからないところへ入学が決まってしまった太郎。
太郎の平穏は一瞬にして木端微塵も同然である。なんでこの間まで普通の中学生だった少年が、勇者を目指さなければならないのか。
時は夜。不安と憂鬱でなかなか眠りに就けない太郎は、ベッドの上でゴロゴロとしながら考え込んでいた。

(待てよ……。勇者アカデミー。なんか聞き覚えがあるんだよな)

ふと思い出した。勇者アカデミーという言葉、どこかで聞いた事があるような。
あれは中学の時の同級生。確か誰かが勇者アカデミーに入学すると言っていたはずだ。

(思い出した!)

太郎は携帯電話を手に持った。勇者アカデミーへ行くと言っていた同級生。それは、太郎の友人であり幼なじみの安倍サダメだった。

(そういやあいつ、勇者アカデミー行くって言ってたな)

ハッキリ言ってまったく乗り気ではないが、決まってしまったものは仕方がない。せめて事前に話くらい聞いておこうと思い、太郎は安倍に電話をかけた。

「……もしもし?太郎?どうしたんだよお前、こんな時間に。俺の声でも聞きたくなったか?」

「それは違う。断じて違う」

安倍はこういうノリの男なのである。太郎とはタイプの違う性格だが、昔からの幼なじみという事で気の置けない友人付き合いをしている。
と言うより、腐れ縁と言ったところか。

「あのさ、いきなりなんだけど、お前確か勇者アカデミーに行くって言ってたよね?」

「おう。それがどうかしたの?」

太郎は今までの出来事を全て話した。ところどころ恨み節が混じった愚痴になりつつも、一応友人である安倍に全てを吐き出した。

「――という事なんだよ」

「うん。大体知ってた。だって受験の日お前のお父さんに会ったし」

「嘘!?それで、なんて!?」

「よーわからんからとりあえず太郎のつもりで話しかけた」

「あっそう……」
(おい、バレてんじゃねーか親父)

「しかし大変だなお前も。まあ親の都合でアカデミー入学ってところは俺と大して変わらんが」

「え?安倍もそうだったの?」

「おうよ。俺の親は僧侶やってんだけどさ、お前は信仰心が足りないから勇者アカデミーで僧侶としての勉強をしてこいって。だから仕方なく入学する事にしてよ」

(信仰心が足りないってとこには完全に同意だな)
「僧侶?勇者アカデミーって、勇者を育成するところじゃないの?」

「お前なんにもわかってねーな。勇者アカデミーってのは勇者だけじゃなくて色んな職業を目指す学生を一度に育てるところなんだよ」

ここで勇者アカデミーについて詳しく説明しよう。
勇者アカデミーには勇者を始めとして様々な職業のクラスがある。例えば僧侶、戦士、魔法使い、占い師など、その種類は沢山だ。
それぞれの職業を目指す者、または素質を持つ者が、そのクラスに入り専門的な勉強をするのである。

「なるほど。じゃあ勇者アカデミーでは勇者以外の道を目指す人も勉強できるってわけね」

「そういう事だな」

「あっ!じゃあさ、公務員クラスとかもあるかな!?もしあるなら俺そっちのクラスに編入を……」

「それはねーよ」

「デスヨネー」

やはり俺の人生は上手くいかない。そう思いながら太郎は安倍との電話を終え、憂鬱な眠りに就くのだった。

さて、いよいよ勇者アカデミー入学の日である。

「おお太郎。遂に旅立ちの朝を迎えたのだな」

「白々しいセリフ吐いてんじゃねーぞコラ」

げっそりと青褪めた太郎に反して、父ヒロシはすっかりご機嫌である。
そりゃあ息子が念願の勇者になるというのだからそうだろうよ。

太郎は制服に着替えた。ごく普通の学ラン……と思いきや、両肩に付いた肩パッドが激しくダサい。何故その部分だけ勇者風にするのか。
だったらいっそ、制服そのものを鎧にすればいいのに。いやそれは嫌か。重いし満員電車に乗ってきたら迷惑だ。

「似合ってるわよ太郎……。まるで勇者になる為に生まれてきたみたい」

母みち子が目に涙を浮かべながら呟いた。しかしその瞳の奥には
(やったね!これで太郎も勇者、直にガッポリ稼いでくれるわ!プラダも買えるわ)
と言わんばかりの薄汚い情熱が渦巻いているように見えて仕方がない。

「そうそう、剣と盾も渡しておこう。勇者の必須アイテムだからな」

そう言うとヒロシは、物置の奥から古びた盾と剣を取り出した。
タダで装備品が手に入るのはありがたいが、今までしまいっぱなしだったので埃臭いし、何より盾にでかでかと書かれた『勇者』の二文字が恐ろしくダサい。
これはもうダサい制服にダサい装備と言う、ある種完璧な格好である。心なしか太郎自身もダサいので、この妙な服装が変にしっくりくるようである。悲しい哉。

「そうだわ、忘れずにこれも」

みち子が差し出したのは、中央部に青い宝石がはめ込まれたサークレットだった。
(※サークレット 頭部に被るリング状のアクセサリー。よーわからん人は孫悟空の輪みたいなものを想像すればよろしい)

「なにこれ?こんなの頭に付けたらますますバカみたい……。まあ、もう別にどうでもいいけど」

ここまで行くと頭に輪っかを乗せようがパンツを被ろうが大して変わらない心境かもしれない。

「これは勇者イサモノ家に代々伝わる伝説のアイテムよ。太郎が死にそうになったら真ん中の青い石が黄色く点滅するの。赤くなったらご臨終よ」

(いらない……。そんなアイテムいらない……)

基本死ぬ時しか能力を発揮しないアイテムなど、貰ったところで嬉しさほぼ皆無である。伝説のアイテムが信号機と同じノリなのがミソかもしれない。

「さあ、そろそろ行かないと遅刻するぞ。いざ、旅立ちの時!」

「無理矢理大袈裟にナレーションしなくていいよ父さん」

こうして強引に勇者への道へ進まされた勇者太郎イサモノタロウは、勇者になる為旅立ったのであった。
しかし太郎よ、本当にそれでいいのか?

【つづく】
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