勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第二章~

第10話 はちゃめちゃアカデミー

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勇者太郎イサモノタロウが勇者アカデミーに入学してから暫くが経った。
勇者アカデミーと言うとどのような授業があるのか?やはり剣を持って戦闘の練習でもするのかと思うが、意外にもアカデミーでは普通の授業を行っていた。
まあ普通と言ってもやっぱり多少はどこかおかしい授業なんだが。

さて、ここは勇者クラス。太郎の居る教室である。
どうやら今日はテストらしい。

「今日は抜き打ちテストじゃ!これから配るプリントを一時間以内に解くように!」

網走先生の威勢の良い声が響き渡る。抜き打ちでテストをするあたり、勇者アカデミーの教師も一般的な学校の教師と変わらず「いけず」である。

(ゲ~、テストまであるのかよ。勇者は勉強しなくていいと思ってたのに)

今までは勇者が嫌で嫌で仕方がなかった太郎だったが、少しポジティブになろうという事で勇者のいいところを考えていたらしい。
その結果勇者は勉強しなくてもどうにかなるって事だったのだが、残念。はずれでした。
学校も試験もなんにもないのは妖怪だけだったね。

太郎は配られた問題用紙に目を向けた。

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問一 村人がモンスターに襲われています。どうしますか?

一、助ける 二、見捨てる 三、一緒に村人を襲う

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一体……。

「おう、勇者イサモノ。お前満点やないか。意外とやるな」

「はあ……」

こんな問題、逆に間違える方が困難である。

(ば、馬鹿馬鹿しい……。授業の内容が恐ろしく馬鹿馬鹿しい。こんなところで何年も生活していたら骨の髄まで馬鹿になってしまうのではないだろうか……)

元々ちょっとアホの子気味の太郎だったが、流石に自分の頭がどん底まで落ちるのではないかと心配しているようだ。
何が恐ろしいってこのアカデミーの人、こんな馬鹿らしい授業を大真面目でやっている事である。

「おお!勇者イサモノスゲーな!俺なんか30点しか取れなかったぜ!」

クラスメートのゴツい勇者が声を上げる。こんなテストで30点しか取れないなんて、コイツの脳味噌はどうなっているのだ?

「お前チビでちんちくりんだけど頭だけはいいんだよな」

別のクラスメートも、珍しく太郎を褒める。
言っておくが太郎はちっとも優秀ではない。むしろ下から数えた方が早い、中の下くらいである。
周りが余りにも酷過ぎると、その程度の成績でも優等生になれるのだ。こんなクラスで一番になっても嬉しくないが。

「せやな。勇者イサモノは今のところ成績も上の方やで。流石は勇者の血筋ってとこかいな」

「いや、それは激しく関係ないです」

あんな内容のテスト、仮に泥棒の血筋が入っていたとしても満点が取れるであろう。

(最初からおかしいと思っていたけど、やっぱりこの学校普通じゃないよ。このままじゃ心身ともに持たないっつーの!)

太郎はうつろな目をしたまま、がっくりと机にうなだれた。

「おい勇者イサモノ!そんなにふぬけとったら舐められるぞ!」

「はっ、はい!すみません!」

「まったく、相手が人間だろうがモンスターだろうが舐められたらお終いやで!舐められんようにするには、まず誰に対してもメンチを切る事や」

そう言うと網走先生は、得意のメンチを切ってみせた。ただでさえパンチパーマに髭面とヤクザ感満点の先生なのに、メンチを切るとますます怖い。

「ちょうどええわ。今日は特別に『正しいメンチの切り方』っちゅー授業をしたる」

どんな授業だ。

「眉間に力を入れて歯を食いしばりながら……こう!」

言われた通り太郎も見様見真似でメンチを切ってみた。精一杯凄む太郎の顔が、網走先生の目に留まる。

「なんや勇者イサモノ、腹でも痛いんか?」

「メ、メンチ切ってるつもりなんですけど……一応」

残念ながら太郎のアホ面がどんなに頑張っても、迫力あるメンチにはならないようだ。

「アカンなぁ、そんなんじゃ子猫一匹逃げんわ。そんなんじゃ逆にメンチ切られんで!」

「それは困ります」

「しゃーない。じゃあ特別に、相手にメンチ切られた時の対処法を教えたるわ」

ここから突然網走先生とのマンツーマン授業が始まった。それにしてもパンチパーマのオッサンと向かい合って授業なんて、なんか嫌だな。

「もしメンチを切られたら……なに見とんじゃコラァ――――っ!!」

大迫力の網走先生にビビる太郎。

「なにボーっとしとるんじゃ、さっさと復唱せんかい」

「はっはい!な、なに見とんじゃコラー」

「アカンアカン全然迫力ないわ。もっと力を込めて……やんのかコラァ――――っ!!」

「や、やんのかコラァ!」

「いてまうぞボケェ――――っ!!」

「いてまうぞボケェ――――っ!!」

「誰がボケじゃ――――――――――っ!!」

その瞬間太郎の額に激しい衝撃が走った。
なんだなんだ?殴られたのか?眉間に一発撃ち込まれたのか?

なんだかわからない衝撃と激しい痛みに襲われた太郎は、数秒も経たぬ間に目の前が真っ白になってしまった。完全に気絶である。

「は……しまった。勇者に教えているはずがつい熱くなって頭突きしてもうた!勇者!大丈夫か勇者!」

返事がない。ただの屍のようだ。

「わ、悪かったな勇者!今すぐ保健室に連れてってやるからな!」

そう言うと網走先生は太郎を背負って保健室まで運んでくれた。粗っぽいが意外といい先生である。
しかしそもそも、気絶させたのはアンタである。

一方太郎は気絶したままだったが、気絶中の脳内で必死に考えるのだった。

(やっぱりこんな学校やめてやる……)

【つづく】
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