勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第三章~

第19話 決着!そして、三人目!

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「どお?勇者太郎イサモノタロウ。女戦士の強さがわかったでしょう?」

その巨体と強力ごうりきであっという間に太郎をねじ伏せた女戦士・マンモス富子。
もはやフラフラ状態の太郎を倒すのは、赤子の手をひねるより簡単な状況である。
太郎はと言うと何度も倒されては安倍の回復魔法で立ち直るのを繰り返した為、体はボロボロ。息はすっかり上がっている。

「ハアハア……。安倍氏、お前の魔法って怪我は治せても疲労までは治せないわけ?」

「うるせえ、贅沢言うな!」

(ふふ、どうやらセコンドのМPも切れて回復魔法が使えなくなったようね。このまま攻撃すれば間違いなくあたしの勝ち……)

太郎はまるで生まれたての小鹿のように足元がガクガクと震えている。倒れる寸前だ。

(そうだわ、アイツ足元フラフラだから、このカモシカのような足で下半身に蹴りを入れればすぐに倒せるはず)

勇者太郎イサモノタロウ!これで終わりよ!」

「ええっ!?やだ!」

マンモス富子は思い切り豚足のような……失礼、カモシカのような足を振り上げた。
それと同時に、安倍は太郎を強く押し出した。

「行け!太郎!」

気合を入れる為だったが、少々力が強すぎたようだ。というより、太郎の足には最早自分を支える程の力も残っていなかったのか。
安倍に押された太郎は、そのままバランスを崩して倒れ込んでしまったのだった。
咄嗟の出来事に、太郎は思わず目の前にあったマンモス富子の足を掴んだ。藁をも掴む思いである。
いや、実際は藁と言うより俵みたいなもんだが。

ちょうど蹴りを入れようと足を振り上げたところで、軸足を掴まれた富子。足元が不安定になり、背中から倒れ込んでしまった。
そしてリングの床に、思い切り後頭部をぶつけてしまったのだ。

「ぶぎゃっ!」

撲殺される豚の鳴き声のように声を上げたマンモス富子は、そのまま白目をむいて気絶してしまった。え?という事は……。

マンモス富子は動かない。完全に落ちている。

「よっしゃー!太郎が勝った―!すげーぞ太郎!」

まさかの勝利に、安倍は万歳三唱である。

「ねえ!この人白目向いたまま動かないんだけど!」

一方太郎は勝利を喜ぶより、目の前で完全に落ちたマンモス富子を気にしているようだ。
更にざわめくのは女戦士クラスの女子達である。

「あの富子ちゃんが負けるなんて」

「やっぱりあいつ強い勇者なのかも」

ただの偶然である。

しばらくして、マンモス富子は目を覚ました。信じられないが、あの弱そうな太郎に負けてしまったのだ。

(あたしがアイツに負けてしまったの……?)

正直なところ悔しい。誇り高き女戦士が、あんなヘタレに負けてしまったのだから。しかし……。

(つまりアイツは仲間になるだけの価値がある、強い男だったのね)

マンモス富子は不思議な気分を抱いていた。勝負に負けてしまったが、それよりも強い男に出会えたこの奇跡に、高揚しているのだ。
負けたのになぜか清々しい。そんな気分である。

勇者太郎イサモノタロウ、あたしの負けよ。そしてあんたの実力もよくわかったわ」

「あ、起きた?よかったぁ」

勇者太郎イサモノタロウ……。「そこまで言うなら」仲間になってあげるわ」

「なんか言ったか?」

安倍の問いかけに太郎は激しく首を振る。

「戦いに負けた以上、あたしはあんたの仲間になるわ」

(ええっ!?)

太郎と安倍は完璧なシンクロ率で動揺した。ちょっと待て、誰が仲間になるって?

「ちょ、ちょっと待ってよ。俺は別に仲間になって貰おうと頼んだわけじゃ……」

「あらあ、照れなくてもいいのよ。わかってるんだから!」

なにやらすっかり、マンモス富子は仲間になるつもりでいる。

「あ、あの……マンモスさん。その……」

口ごもる太郎に、富子は少々怪訝な顔をした。

「まさか、仲間にしてくれないなんて言うんじゃないでしょうね?」

そうなのだが本人を前にキッパリとは言いづらいのだ。
その時である。教室の隅から一人の女生徒が出てきて、こう言ったのだ。

「富子ちゃんこの人の仲間にならないの?じゃあ私が代わりに誘って貰えないかな……」

その少女は……。なんというか、言葉にするのも残酷なほど、世にも恐ろしい、醜悪な容姿をしていたのだ。平たく言えばブスである。
そのブスは、何やら熱っぽい視線を安倍に向けて呟いた。

「私、あのパーティーに入れて貰いたいな。あの髪の長い人、タイプなんだもん」

「!?!?!?!?」

なんという事でしょう。あのブスは、あろう事か安倍に一目ぼれしてしまったようです。
身の危険を感じた安倍は、太郎の胸ぐらを掴み言った。

「おい太郎、どう決断するべきか分かってるよな?」

「え?だからマンモス富子は仲間にしないんでしょ?」

「待て待て!そうしたら今度はあのブスが仲間に入りたがるぞ!見たか!?あのブスのねっとりとした視線を!あれは諦める理由がないとしつこく追いかけ回すタイプだぞ!俺には分かる!」

「じゃあどうすりゃいいのさ……」

「だから!ブスの加入を避けるにはデブを入れるしかねえんだよ!確かに俺だってデブは嫌さ!でもブスに粘着されるよりマシじゃん!?デブを切ってブスを断つって言うか、ウンコ味のカレーとカレー味のウンコどっちがいいと言う究極の……」

「わかったからちょっと黙れお前!」

安倍の余りの迫力に言い返すすべもない太郎。えーと、つまり、どうすりゃいいんだ?
太郎はマンモス富子に話しかける。

「えっと、あの、マンモスさん。仲間になるという事で……よ、宜しくお願いします……」

何もかもが腑に落ちないまま、太郎はマンモス富子を仲間に誘ってしまった。どうしてこんな事になってしまったのだ。

「いいわよ、宜しくね!あ、でも念の為言っとくけど、仲間だからって気安く手出さないでよね!ヤケドするわよ」

そう言うとマンモス富子はチャーミングにウインクをした。
太郎と安倍の中で、何かが粉々に壊れるような音がした。

こうして太郎のパーティーに、上質な肉……じゃなくて頼もしい仲間が一人加わった。
名前はマンモス富子!きっと頼りになるはずだ!
お、女戦士はルックスじゃないから……ね?

【つづく】
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