勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第四章~

第22話 勇者VS剣士、江頭

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剣士クラス一の凄腕と噂の男。鋭い眼光に挑発的な態度。その名は、江頭エガシラ
彼こそが、この先太郎に襲い掛かるという不幸を避ける、キーマン的な存在である。

それが本当かどうかは分からないが、なんやかんやで江頭と真剣勝負する羽目になった太郎なのだった。
勇者クラスのゴンザレス、女戦士クラスの富子、そして剣士クラスの江頭。太郎には戦いたくもない相手と勝負してしまう悪運が付いているらしい。

「いきなり勝負を挑まれて受けて立つとはさすがだな」

江頭の挑戦になんの抵抗もしない太郎に、江頭は少し驚いているようだ。

「慣れてますから」

なんか余裕っぽい返答だが、戦いに慣れているのではなく不本意な戦いに巻き込まれてしまう事に慣れているのである。

その時、先程江頭と剣を交えていた侍風の男が背後から声を荒げた。

「コラー!何を勝手に話を進めているでござる!貴様は拙者と……!」

江頭は無言で侍風の男を殴り飛ばした。聞く耳持たずとはこの事である。
そしてそのまま、冷静にこう言った。

「言われなくても分かるだろうが勝負は真剣勝負だ。お前も剣を用意しな」

しかし太郎はどう見ても手ぶらである。勇者の癖に剣も盾も装備していないのだ。

「剣って……持ってないんですけど……。すいません、誰か貸してくれませんか?」

オロオロとした表情で剣士クラスの連中に声を掛ける。

(えっ?嘘だろ?)

勇者なのに剣を持っていないだと?コイツ、正気か?江頭は困惑した。

一方太郎は、気のいい剣士クラスの生徒に剣を借りていた。なんだこの「教科書忘れちゃったので誰か貸してください」的な感じは。

(あいつ、本当に強いのか?)

江頭はこのどこかすっとぼけた太郎の姿を見て、疑いざるを得ない状況である。

「あ~落としちゃった!」

しかも剣まで落としてるし……。

頼りない太郎に安倍も心配顔である。

(本当に大丈夫かよ、太郎)

「いい加減にせんかー!先に勝負するのは拙者じゃー!」

そしてなおも諦めない侍風の男は、必死に自分の勝負が先だと宣言している。

「とにかくがんばんべ!俺は見守ってるぞ!」

安倍はやかましい侍風の男を右ストレートでぶっ飛ばしながら応援した。侍風の男は、安倍にぶっ飛ばされて大人しくなったようだ。

さあ、剣士クラスの連中が緊張した視線を送る中、太郎と江頭の真剣勝負が始まった。
が……。

「おい、ちょっと待て!」

江頭が叫ぶ。

「え?なんすか?」

「お前、片手剣を両手で持つ奴がどこに居るんだ?」

太郎は片手剣を重そうに両手で支えているのである。

「え?そうだったの?重くてさ~」

太郎は何にもわかっちゃいない感じである。

(本当に強いのか?コイツ)

噂では強い勇者だと聞いているが、見た目も中身も到底強いとは思えない。この間抜け面の男が、本当にあの勇者太郎イサモノタロウなのだろうか?
勝負が始まる前から、江頭はどこか納得できない心境である。

イマイチパッとしないムードの中、とりあえず真剣勝負は始まった。はずだったか……。

「そんな奴より拙者との勝負が先でござる!」

「邪魔なんじゃてめえはーっ!」

またしても侍風の男が口を挟んでくる。コイツ、何度邪険にされれば気が済むのか。
江頭は容赦なく侍風の男を殴り飛ばした。

「あっ気絶してる!」

安倍は殴り飛ばされた侍風の男の様子を伺った。可哀相に。落ちている。

「さあ、かかってこい勇者イサモノ!」

なかなか始まらなかった真剣勝負だが、江頭は太郎に挑発的な声を掛けた。
しかし太郎は一向に手を出さない。

「かかってこいって言ってもさー、この剣重くて持てないよ」

貧弱な太郎は片手剣でも両手で持つのが精一杯である。

「来ないならこっちから行くぜ!」

いよいよしびれを切らした江頭は、剣を振り上げて太郎に襲い掛かってきた。流石は剣士クラス最強の男。無駄のない動きで、俊敏に太郎へ刃を向ける。

「ちょ……待っ……」

太郎は半泣きで声を絞り上げた。このままでは江頭に殺されてしまう。

「そんな事より拙者と――――っ!」

その時、江頭の目の前に侍風の男が飛び出した。この野郎、いつになったら諦めるんだ……。
いつまでもしつこい侍風の男は、気が付くと窓の外に投げ出されていた。もはや邪魔な虫けら扱いである。

気を取り直して、いや何回取り直すんだ。
とにかく真剣勝負の始まりである。

(まったく、余計な邪魔が入ったぜ)

江頭は先程から度重なる邪魔によって、若干集中力が切れているようだ。

(勝負なんてどうでもいいよ)

太郎はと言うとこのザマである。こいつは初めから勝負などどうでもいいのだ。

さて、勝負と言ってもどうすればいいのか。ゴンザレス戦の時は完全に運だけで勝利した。
富子戦の時はと言うと、やっぱりこれも運だけで勝利した。あれ?となると、今まで運でしか勝ってなくね?

大体太郎は勇者なんて志望していないごく普通の学生だったのだ。勝負のやり方など身に着けている訳がない。
それなのにある時は勇者と、ある時は戦士と、そして今回は剣士と戦うなんて、そんなの無茶に決まっている。

重たい片手剣をどうにか握りながら、太郎は考えている。一体どうすれば怪我もなく危険もない勝負で穏便に済ませられるだろうか。

はたから見れば真剣に間合いを取っているようだが、太郎は真剣になるべく平和的に戦いを済ませる方法ばかりを考えていたのだった。

【つづく】
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