勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第五章~

第29話 たまごの異変

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「桐生さん、その服……クラゲみたいだね!」

褒め言葉として全く成り立っていない言葉で桐生やや子を口説いた(?)太郎。ダメだこりゃ。太郎に女心などわかっちゃいない。

クラゲと言われて桐生やや子は理解不能。キョトンとしている。ところが、事態は意外な方向へ動き始めた。
あろう事か、桐生やや子がほんの少しだけ笑ったのだ。

(え、時間差でちょっとウケてる)

覗き見していた安倍も、桐生やや子の笑いのツボに困惑である。
太郎も太郎で、何故やや子が笑ったのかが分からず、困惑している。しかし、今までずっと仏頂面だったやや子も、笑うとなかなか可愛いではないか。

「桐生さん、普通に笑った方が可愛いよ?」

太郎は思わず、ポロリと本音をこぼした。深い意味はなく、ただ単純に思った事を口に出してしまっただけである。
するとやや子は、急に俯いてしまった。そしてみるみる、顔中が真っ赤に染まっていく。
褒められたのが恥ずかしくなったのか、やや子は辛抱たまらずまた段ボールハウスへと閉じこもってしまったのだった。

「ああっ!?何故!ま、また来ます!」

そう言って太郎は妖精クラスから去って行った。桐生やや子は妖精のたまごを胸に抱えたままうずくまっている。
心臓の高鳴りが止まらない。こんなにドキドキするのは初めてだ。気持ちを抑えるかのように、やや子は妖精のたまごをぎゅっと抱きしめた。
すると、何か妙な異変のようなものに気付いた。この違和感は何だろう。妖精のたまごの気配が違う?
いつもと同じようで、何かが違うのだ。ほんの少しだけど、なにか、生命の動きを感じたような。
やや子は不思議な表情をして、妖精のたまごを見詰めるのだった。

その翌日も、太郎はやや子に猛アタックをした。どうにか話くらいはして貰おうと思って、段ボールハウスへ通い詰める。
しかしやや子の返事はこうだった。

「話したくない、帰って」

一向に心を開かないやや子に苦戦する太郎は、今日も食堂で安倍と二人ミーティングをするのだった。(と言えば聞こえがいいが、ただだべっているだけである)

「でもいいじゃん、喧嘩腰でも返事はしてくれるんだろ?」

「よくないよ、こっちこないでだの話しかけないでだの」

落ち込む太郎に、安倍は追い打ちをかける。

「だってしょうがないもん、お前つまんないんだもん。男としての魅力がないっつーの?トーク下手だし気はきかねーし」

「そこまで欠点ズケズケ言われると逆に清々しいわ」

太郎と安倍がそんな会話をしている頃、妖精クラスでは太郎とやや子の関係がちょっとした噂になっていた。
妖精の女子達が噂話をしている。

「それにしてもあの勇者くん、よく来るわね」

「よっぽどやや子に惚れてるのね」

違う。それは違う。

「でも正直……カッコ悪いわよねあの子」

「まあいいんじゃない?それに50メートルくらい離れれば男前に見えるような見えないような……」

勘違いの上酷いなあんたら。

やや子は相変わらず段ボールハウスから出てこない。

(もう!毎日しつこいんだから)

太郎の懲りないアタックに、やや子もご立腹だ。

(……今日は来ないのかな……)

しかし不思議なもので、毎日来る太郎が来てくれないと、それはそれで寂しいような気がする。やや子はなんだか、複雑な気持ちの中で揺れ動いていた。

そんな事を思っていると、太郎が妖精クラスへやって来た。いざ来たら来たで、どんな顔をして会えばいいのかわからない。
やや子は段ボールから出られず、太郎の言葉に耳を傾けるのだった。

「桐生さん、今日こそ出てきてもらえないでしょうか?」

「イヤ!」

キッパリと断った。しかし今日はなんとなく、ここで断るのは惜しいような気がした。
なんて返事をしていいかわからないやや子だったので、とりあえず無茶な意地悪を言って困らせる事にした。

「じゃあ二時間逆立ちしたら出て行ってあげるわ」

それを聞いた太郎は、その場で逆立ちをはじめようとした。

「嘘よ」

なんでこう、コイツはこんなに馬鹿正直なのだ。
会話に困った太郎は、思いつく限りのトークを初めて見た。

「あの、桐生さんって妖精なんだよね?妖精ってなんか、牙とか角とか生えてるのかと思ったよ!」

そりゃあんたの親父である。

(や、やばい。なんの反応もないぞ)

太郎は次の話題に移る。

「桐生さんの、たまご元気!?」

質問の意味が分からない上返事のしようがない。

しかし意外にも、やや子はこの質問に口を開いてくれた。

「最近たまごの様子が変なの。なんとなく気配が違うような」

「え?そうなの?」

「昔から何をやっても反応がなかったたまごだけど、最近急に様子が変わったの。もしかしたらあなたの存在が影響しているのかもしれない」

それを聞いた太郎は、思わず段ボールハウスの扉を開け中に突入してしまった。

「なにそれ!?どゆこと!?」

「キャーッ!」

いきなり侵入されてびっくりしたやや子は、太郎を突き飛ばしてしまった。そして錯乱したまま、教室を飛び出してしまったのである。

「ああっ!桐生さんどこへ!?」

「ついてこないで!」

やや子はすたすたと教室を出て、廊下を足早に歩きだしてしまった。

「つ い て こ な い で」

(行く方向が一緒なだけなのに……うぅ)

【つづく】
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