勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第五章~

第30話 やや子を守れ!

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桐生やや子は卵を胸に抱え、アカデミーの廊下を歩いていた。怒っているような照れているような、微妙な表情をしながら。

(もうっ!あんないきなり来るなんて……)

太郎の不躾な態度に怒っているようにも見えるが、頬は妙に赤らんでいるようだ。
やや子はこのどうしようもない気持ちを抑えるかのように、足早に廊下を歩いて行った。
すると、向かい側から歩いてきた一人の男と、肩が触れてしまった。
その男は、ドレッドヘアにスウェット姿の、いわゆるチャラ男という感じの風貌だった。
チャラ男はガムをくちゃくちゃ噛みながら、やや子を睨みつける。

「あ?なんだ嬢ちゃん、ぶつかっといて挨拶もなしか?」

ガラの悪い男に絡まれたやや子は、太郎への態度はどこへやら、怯えた表情で謝った。

「ごめんなさい……」

チャラ男の隣にはもう一人のチャラ男が居る。どうやら友人か、クラスメートのようだ。
日焼けした肌に金髪の、こちらもいかにもチャラ男で~っす。という風貌だ。

「おい待てよ、結構可愛いじゃん」

金髪チャラ男が軽そうに言う。

「俺達遊び人クラスなんだけどYO、一緒に遊ばねえ?」

チャラ男達はやや子を口説き始めた。なるほど、遊び人か。どうりでチャラチャラしているはずだ。(※遊び人のジャンルが違うだろう、とツッコんではいけない)

「い、いや……」

抵抗するやや子に構わず、チャラ男達は無理矢理やや子に迫る。

「なんだよ~、いいじゃん」

チャラ男はやや子の細い手首を掴んだ。

「触らないで!」

そこへやって来たのは、やや子の後ろをついて来た太郎であった。別に尾行する気はなかったのだが、どうも目の前でやや子が変な連中に絡まれているようで、目が離せないのだ。
声を掛けようかどうしようか悩む太郎であった。

「そうだ、俺とあやとりして遊ぼうぜ~。俺のフィンガーテク凄いよ~」

チャラ男はしつこくやや子を誘う。遊び人だけあって遊びが得意なようだ。

「そうだ、カラオケ行こうよ。俺上手いよ~、吉幾三」

「ジャスコでもいいよ」

「いや!」

やや子は必死に抵抗した。しかしチャラ男二人を相手に出来る訳もなく、しつこいチャラ男はやや子の手から大事なたまごを奪い取った。

「なに大事そうに持っちゃってんの?返して欲しかったら俺達と付き合ってよ」

卵を奪われたやや子は、声を荒げた。

「返して!」

その時だった。チャラ男達から守るように、やや子の目の前に太郎が現れたのである。

「あ、あの……返してください、それ」

それは怯えたような情けない声だったが、精一杯振り絞った一声だった。

(え……。この人、わたしの事を守って……)

やや子は胸の高鳴りを感じた。あんなに冷たくあしらっていた太郎が、自分を助けに来てくれたのだから。

「ああー!?なんだテメーは!」

「ひい~!ごめんなさいごめんなさいお許しください!」

「……なにしに来たの?」

なんだ、やっぱりカッコ悪い。

太郎は小声で意見した。

「あの、この子嫌がってるじゃないですか……」

「はあー!?俺たちはただ遊びに誘っただけだYO!ジャスコにな!」

そう言いつつもやや子のたまごを返してくれないチャラ男に、太郎は必死に食らいつく。

「せめてたまごは返してください!それがないと俺が困るんです、俺が!」

どうも言葉にありがたみがない。

「へへ、返してくださいだってよ!」

そう言うとチャラ男達は、あろう事かたまごでキャッチボールを始めてしまった。それ、パスパス。と言いながらたまごをポンポン投げている。
他人の大事なものをオモチャのように扱うなんて、このチャラ男達はなんて悪戯が過ぎるのだろう。

やや子はやや子で、大切なたまごを雑に扱われてもう泣き出す寸前だ。

その時だった。廊下でふざけていたチャラ男達の手から投げ飛ばされたたまごは、勢い余って廊下の階段の下まで飛んで行ってしまったのだ。

「あーーーーっ!」

太郎は思わず身を乗り出した。大事なたまごを割ってしまう訳にはいかない。太郎は必死の思いで卵をキャッチした。
が、たまごを抱えたまま階段の下まで転げ落ちてしまったのだった。蒲田行進曲。

「お、おいヤベーぞ。行こうぜ。ジャスコ行こうぜ」

面倒な事になるとまずいと感じたのか、薄情なチャラ男達はそのまま立ち去ってしまった。

「あの……大丈夫?」

階段の下で伸びている太郎に、やや子はそっと声を掛けた。
その時だった。太郎の腕の中に抱えられた卵が、まるで何かが目覚めるかのように激しく動き出したのだ。

「おおおおっ!?なになに!?活きが良い!活きが良いよ!?」

その様子はさながら、ハトヤホテルのCMのようだった。

「わ、わたしのたまごが……」

大事なたまごが無事だと思ったら、今度は謎のハトヤホテル状態。やや子は思わず、太郎の鳩尾にボディーブローをかました。

「なんてことしてくれたのよっ!」

体を張ってたまごを守ったのに結局殴られる勇者って一体……。

やや子はたまごを抱え込んだ。動きは収まったようだが、なぜあのように激しく反応したのだろうか。

(まさか……昔聞いた事があるわ。妖精のたまごを目覚めさせる力を持つ人が居るって。まさか、あの人が?)

だがあの人はあんたのせいで死んでいる。

(たまごが覚醒したのも、この人の力が影響して……?)

「あの」

やや子は太郎に声を掛けた。

「え?なに?せめてボディーブローの謝罪してくんない?」

「わたし、あなたについて行くわ」

「ええーっ!?んなアッサリ」

引っ張った割に早い展開に驚く太郎だった。

「よくわからないけどたまごを孵すにはあなたの力が必要みたいなの。だから孵化するまであなたの仲間でいるわ」

「ようするに俺を利用するってか。まあお互い様だけど」

「じゃなきゃあなたの仲間になる訳ないじゃない」

(グサッとくるなあ。まあいっか、この子も協力してくれるみたいだし)

なんとなくスッキリしない流れだが、これでようやく桐生やや子が仲間になってくれるようだ。
その時、背後からやや子が小さな声で呟いた。

「あの、さっきはありがとう……。助けてくれて」

少し照れたような表情でお礼を言うやや子は、なんだか今までの素っ気ないやや子とは違い、とても可愛らしく見えた。

「……うん」

どうしていいかわからず、太郎はただつまらない返事をするのが精一杯なのだった。
とにかくこれで、妖精のたまご、及びたまごの持ち主である桐生やや子のスカウトに成功した。
ますます仲間が増えた太郎率いる42番パーティー。この先一体、どうなるのだろうか?

【つづく】
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