勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第七章~

第35話 勇者とDQNが出会ったら

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勇者は購買部に来ていた。購買部と言っても焼きそばパンや文房具を売っているようなところではない。
武器、防具、回復アイテムなど勇者に必要なアイテムなら何でも揃う、購買部だ。
むろん焼きそばパンや文房具も一緒に売っているが、それはそれでカオスである。

「う~んと」

勇者は悩んでいた。

「で?どれにするの?剣にも色々あるけど」

購買部のおばちゃんが面倒臭そうに言う。

「よくわからないんで一番安いのください」

一番安いのってアンタ……。

「ウチで一番安いのって言うとこれだけど」

そう言っておばちゃんが取り出したのは、見るからに何かが憑りついているような不穏なオーラを放つ剣だった。
しかも不自然なほど値下げしているし。

「えーと、そう言う訳アリなのはちょっと。初心者でも使いやすいのってあります?」

「そうねえ、あとは……」

次におばちゃんが取り出した剣は、何の変哲もないごく普通の短剣であった。

「これはどう?通称レベルアップの剣」

「レベルアップ?」

「持ち主のレベルが上がるほど威力が増す不思議な魔力を持った剣よ。しかも鞘から抜くとレベルに応じて剣の形状まで変わるの」

成程摩訶不思議。

「でもお高いんでしょう?」

「それがなんとヨンキュッパ!五千円でお釣りがくる!」

「わあ!それはお買い得!」

おいおい、安すぎるよ。

「じゃあそれにします!あと皆にも買い出し頼まれてたんだった」

「防具は?防具はいいの?薬も買っておいた方がいいわよ?」

押しの強いおばちゃんにすっかり押し売りされる勇者だった。

「ふ~、なんかいっぱい買っちゃったよ」

太郎は両手にいっぱいの荷物を持ち、廊下を歩いていた。自分の荷物よりも、パーティーの仲間に頼まれた荷物の方が多い。
特に安倍に頼まれたMP回復ドリンク(業務用箱入り)が重くて仕方ない。自分の買い物じゃないのにやたらかさばるとなんか腹立つ。

ふうふうと息を洩らしながら、太郎は廊下の曲がり角を曲がろうとした。すると、向かい側から何者かが歩いて来て、曲がった拍子に太郎と正面衝突してしまったのだ。

相手の男は身長2メートルはありそうな巨漢で、小柄な太郎はぶつかったと同時にふっとばされてしまった。買い込んだ荷物も、バラバラに散らばっている。

「てめえ!どこ見ていやがる!」

ぶつかった巨漢が太郎を怒鳴り付けた。オレンジ色の逆立った短髪、着崩したオラオラ系のファッション、そして両耳に開いたピアスと、どう見てもDQNタイプだ。
勇者アカデミーにもこんなDQNな輩が居るというのか。いや、勇者クラスの連中も大概だが、勇者クラスとはちょっと違った系統の不良に見える。

(ひい!でかい!)

その体格に、太郎は思わず圧倒された。

「聞いてんのかコラ!」

「すんません……」

(そっちだって前見てなかった癖に。でも怖いから謝っとこ)

太郎は床に散らばった荷物を拾いながら、心の中で巨漢を呪った。大体なんで曲がり角で柄の悪い巨漢とぶつからなければならないのだ。普通ぶつかるのは美少女だろ。

その時、廊下の向こうから何者かが巨漢を呼び止めた。

「おい!お前!」

そこに居たのは見るからにダサい、モブっぽい男。時代遅れのリーゼントに、太郎と同じく肩パッド付の学ランを着ている。とりあえずコイツの名前はモブ男にしておこう。

「ようやく見つけたぜえ!踊り子クラスの……我舞ガブ!」

その巨漢は『我舞ガブ』という名のようだった。モブ男に呼ばれた我舞ガブと言う男が言い返す。

「ああ?誰だテメーは」

「俺はな!テメーに復讐してやると誓ったんだよぉ!」

(な、なんだなんだ?一体何がどうなってるの?)

よくわからないが、なんだか不穏な雰囲気なので床に散らばった荷物を拾い、一刻も早く退散しようと思う太郎であった。

「まったく顔を見るのも憎らしいぜ!俺にはなあ!付き合っていた彼女が居たのに、「踊り子クラスの我舞ガブくんの方が素敵」なんて言うから別れちまったんだぞ!」

どうやらこのモブ男、付き合っていた彼女にフラれてしまったようだ。

「元カノをたぶらかしたテメーに復讐してやるぜえ!」

「向こうが勝手に惚れただけだ、バーカ」

気が付くと床の荷物を拾っている太郎の頭上で、喧嘩が始まっている。

「大体俺はあんなブスに興味ねえよ。告られてすぐ断ったっつーの」

モブ男の彼女はブスだったらしい。

「ブスじゃない!ちょっと顔のパーツが個性的なだけだ!」

惚れた腫れたはあちこちに転がっている話だが、勇者アカデミーも例外ではない。今ここで、一人のブス……もとい、顔のパーツが個性的な少女を巡って、二人の男が対決しているのだ。
そしてその足元では、何故か無関係の太郎が必死に散らばった荷物を拾っているのだ。
厄介な事にMP回復ドリンク(業務用)の中身が全部転がってしまったので、ドリンクの瓶を一本ずつ拾わなければならない。

白昼堂々始まった不良同士の戦いに、廊下を歩いていた他の生徒達も注目し始めた。
気が付くと廊下には、そこそこの数のやじ馬たちが集まっていた。
集まったやじ馬がひそひそ話をする。

「おい!踊り子クラスの我舞ガブがまた喧嘩してるぞ!」

「あいつ、スゲー柄が悪い問題児なんだろ?」

問題児と噂される踊り子クラスの我舞ガブ我舞ガブに喧嘩を売るモブ男。そして廊下に這いつくばって荷物を拾い集める太郎。

三人の男に、やじ馬たちの視線は集中した。

【つづく】
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