勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第七章~

第36話 白い羽のネックレス

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勇者アカデミーの廊下で不良同士が喧嘩をおっぱじめた。睨み合う二人の男、一人は見た目がダサいモブ男。そしてもう一人は、踊り子クラスの我舞ガブと言う男である。
何故か二人の間に挟まれて散らばる荷物を拾う勇者太郎イサモノタロウ。お前は一体何なのか。

モブ男が啖呵を切る。

「マミリンはなあ!俺がどんなに手を伸ばしても届かない存在だったんだぞ!」

マミリンと言うのは元カノの名前らしい。一方太郎は足元で、転がったドリンクの瓶に手を伸ばしている。

「何度も告ってやっと付き合えたのに、ようやく手が届いたと思ったら俺の手から逃げちまって……」

一方太郎は、ようやく手が届いた瓶が手から転がり落ちてしまい、まだ拾っていた。

「この気持ちお前にわかるか!?」

これを聞いた我舞ガブは吐き捨てるように言った。

「くっだらねえ。要するに逆恨みじゃねーか。テメーの女ならテメーがしっかり手掴んでおけよ!」

太郎はしっかりと瓶を掴んだ。よかった、これでもう転がらない。

「うるせえ!とにかく俺はお前に復讐するんだ!そしておまえを倒したカッコいい姿をマミリンに見せてよりを戻すんだ!」

意気込むモブ男の足元でチョコマカと荷物を拾い続ける太郎。

「だから!テメーの元カノ事情なんて知らねーよ!」

言い返す我舞ガブの足元でチョコマカと荷物を拾う太郎。

「さっきから邪魔なんだテメーは!」

我舞ガブとモブ男は声を揃えて怒鳴った。

「だって、荷物が散らばって」

今にもタイマンしそうな二人だが、どうも間に入った太郎のせいでその気になれない。
我舞ガブはモブ男を置いて、さっさとその場を去ろうとするのだった。

「馬鹿馬鹿しい、お前なんか相手にしてられるか」

いつの間にか踊り子クラスの生徒であろう、二人の美女が我舞ガブを呼んでいる。美女は我舞ガブを取り囲んで甘えた声を掛ける。

「ねえ、ガブ。わからないステップがあるの、教えて」

「それよりこの後、クラブに行かない?」

どうやら我舞ガブは女子にモテるらしい。何故だか女子って不良っぽい男子に惹かれるんだよな~、なんでだろうな~。

「待て!逃げる気か!」

モブ男が叫ぶも、我舞ガブは無視して行ってしまったのだった。

「クソー、あいつめ。自分ばっかり女をはべらせて。いつか絶対復讐してやる!」

モブ男、残念だがお前の出番はここまでだ。

そして太郎はようやく全ての荷物を拾い集め、仲間の元へ向かうのだった。

(あ~やだやだ、なんでこの学校はこんなに柄悪いんだか)

踊り子の美女二人に囲まれて廊下を歩いていた我舞ガブは、とある異変に気付く。ふと自分の胸元に視線を動かすと、「あるもの」が無くなっていたのだ。

「ああっ!ねえ!」

美女二人が驚く。

「ねえ?ムーミンの歌?」

分かりづらいボケを言ってくれるな。

(ねえ……。俺の大切な『アレ』が……!)

我舞ガブは大切な何かを無くしてしまったようで、酷く取り乱している。さあ、アレって一体なんじゃろな。

そんな我舞ガブの事情など知らない太郎は、やっとこさ重たい荷物を持ってパーティーの元へと戻ってきた。

「ただいまー、聞いてよー。今そこでDQNが喧嘩してて」

「おそいわ!」

待ちぼうけの安倍がツッコんだ。

一方その頃、こちら我舞ガブくん。

「クソッ!ねえ!どこ行きやがった!」

床に這いつくばって何かを探しているようだ。はたから見ればコンタクトを探しているようにも見えるが。

一方その頃、こちら太郎くん。

「あれ?」

太郎は手さげ袋から買った荷物を取り出していた。しかしその中に一つ、見覚えのないものが入っていたのだ。

「なにこれ?」

それは、白い鳥の羽のようなものの、ネックレスだった。こんなものを買った覚えはない。
もしかして、何かの手違いで他人の私物を持ち帰ってしまったのか?さっきのゴタゴタの最中じゃ、それも充分あり得る。足元に転がっていたものは、片っ端から拾い集めたのだから。
ヤッベー、誰かの落し物をパクってしまったようだ。

「俺こんなの買ってないんだけど……」

「あんた廊下で人とぶつかったんでしょ?」

「きっとそのどきゅんとやらの私物でござるな」

「返しに行けよ、泥棒はいかんぞ」

富子、エガ、安倍が責め立てる。

「え~?やだよ、あんなDQNともう一度会うなんて。それにDQNの私物とは限らないじゃん」

「落し物として職員室に届ければいいのに」

やや子がナイスアイディアを口に出す。

「それだ!ちょっと職員室行ってくるよ」

太郎はネックレス片手に職員室へと向かった。

その頃踊り子クラスでは、まだ我舞ガブが無くしたものの事を気にしていた。一度教室に戻ったものの、やはり気になってしょうがない。

「クソッ!やっぱもう一度探してくる!」

居ても立ってもいられず、教室を飛び出す我舞ガブ。先程歩いた廊下へ戻り、入念に足元を探すのだった。

(畜生、肌身離さず持っていた筈なのに、どこで無くしたんだ……?)

向かい側から太郎が歩いてくる。

(職員室、確かこっちだよな)

ちょうど太郎と我舞ガブがすれ違おうとしたその時、廊下を歩いていた踊り子クラスの生徒が、我舞ガブに声を掛けた。

「HEY!ガブ!どこ行くんだい?チェケラ!」

「ああ、ちょっと探し物をな」

「探し物ってなんだい?見つけにくいものかい?チェケラ!」

「あれだ、俺が毎日付けていた……白い羽のネックレス」

(なんてこったい……!)

会話を聞いてしまった太郎は、その場で凍りつくのだった。

【つづく】
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