勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第七章~

第38話 子の心、親知らず

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身長二メートル一センチの巨漢なDQN、我舞哲也に屋上まで呼び出された太郎。
こんな人気のないところで、一体何をするというのだろうか。

「単刀直入に言うが……」

「はいっ!」

「勇者ってどんな感じだ?」

「はあ?」

それは全く予想外の一言だった。我舞はまるで少年のように瞳を輝かせ、太郎に食い入るよう質問をしてきた。

「やっぱり剣と盾を持って正義の心でモンスターと戦ったりするのか?」

「えっと、まあそんな感じ?」

すると我舞は、嬉しそうに舞い上がり太郎の両肩を強く掴んだ。

「やっぱりなー!そうだと思ったぜ!勇者っつったらヒーローだもんな!」

かなり興奮した様子で、我舞は話を続けた。

「実はな、俺ガキん頃からずっと勇者に憧れてたんだ」

(えっ?物好きな)

「なんで?」

太郎の問いかけに、我舞は少しムッとして答える。

「なんでってお前、かっこいいだろ勇者はよ。僧侶とか剣士とか中途半端な奴より断然勇者だろ?」

その頃、42番パーティーの僧侶こと安倍と、剣士こと江頭は。

「へーっくしょん!誰か噂してやがるな!チキショー!」

「ぶえっくしょん!拙者もでござる!」

「やーね、汚い」

場所は再びアカデミーの屋上。我舞はそのまま話を続けた。

「俺は勇者になりたかったんだけど、両親がえらく反対してよ」

「お父さんとお母さんが正しい」

「俺の両親は親父が日舞の家元、お袋はバレエのプリマドンナでな、要するに踊り大好き夫婦だから、俺に踊り子を継げってうるさいのなんの!」

「うんうん」

すっかり真面目に聞き入っている太郎であった。

「お前んとこはどうなんだ?やっぱ親が勇者なのか?」

「うん、父さんが勇者で母さんが女戦士」

「そうだと思ったぜ!勇者と少年漫画の主人公は血筋で決まるってどこかで聞いたし!」

我舞は絶望している様子だが、一体どこの情報なのかね?

しかしリアルに勇者の血筋の太郎を前にして、我舞はますます色々と聞きたいようだった。

「で?勇者の親父っつーと凄い能力とかもってんのか?」

太郎は考えた。だって父ヒロシと言えば、見た目はドラゴンの姿をしたモンスターだが、中身はと言えばただのしがない公務員。

「えーと、人間じゃない……?」

(!?もはや人間の領域を超えているのか!?)

「てかモンスター?」

(超え過ぎてモンスターになっちゃった!?)

「そ、それが勇者……。じゃあお前は勇者のサラブレッドなんだな」

「なに?競馬の話?」

我舞は軽くため息をついて、更に自分の身の上話を語ってくれた。

「そんな感じで、俺には勇者の血筋とかないんだけどよ、どうしても諦めきれずにここを受験したんだよ」

「へー、凄いじゃん」

「なのに!両親が勝手に進路希望を描き変えて、勇者じゃなく踊り子になっちまったんだよぉー!」

「おおー!凄い共感できる!」

思わぬところに共感する太郎に、我舞は不思議そうな顔をする。

「なんだって?」

「いや、俺も親に無理やりこの学校に入れられたの。本当は勇者なんて嫌だったんだけどさ、仕方なくここで勉強してるんだ」

「なんだ、お前勇者志望じゃなかったのか」

「うん……」

「じゃあ俺たちは親のせいでやりたくもねー事をやってんだな」

「親って勝手だよね」

「だよなー!自分の夢を子供に押し付けんじゃねーって話だよな!」

「そうそう!子供は親の所有物じゃないって話ね!」

なんだか意気投合してしまったのか、話がヒートアップする太郎と我舞であった。

「俺なんて自分の体に父親のDNAが流れている事自体否定したいわ」

そう、信じがたいが太郎にはドラゴンの血が流れているのである。

「いや、そこまでは思わねえよ!?お前意外と親に厳しいな!」

ここまで話し合い、二人は大分打ち解けたようだった。

「そうか、勇者の家も色々大変なんだな」

「まあね、でも君の気持ちも分かるよ」

「そうか!なんか俺たち気が合うな!」

我舞は再び太郎の肩をガシッと掴んだ。

(え?え?でも話してみると意外と悪いDQNじゃないかな?)

我舞は照れ臭そうに頬を赤らめ、そっぽを向きながら話した。

「急に呼び出して悪かったな。憧れの勇者を前にして舞い上がっちまってよ」

「ううん、ところで君は踊り子クラスで何やってるの?」

「俺か?俺は日舞もバレエも嫌だから適当にヒップホップとかやってるぞ」

「どこまでも逆らうのね」

「……でもぶっちゃけ、踊りがスゲー嫌ってわけでもないんだけどな」

「ええっ!?今までの話は一体……」

我舞はおもむろにネックレスを太郎に見せた。さっき太郎が拾った、あの白い羽のネックレスである。

【つづく】
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