心の癒し手メイブ

ユズキ

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『魔女の呪い』編

30話:仲直り

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 夜の闇に落とし込まれた集落では、ロッティに治療された人々が、どんどん焚火を起こして明るい色に照らされていた。
 いまだ泣き通しなロッティが寒くないように、住民たちが傍に焚火を起こして労ってくれた。必死に怪我を治療してくれたことに、恩義を感じているようだ。
 レオンはロッティを抱きしめながら、どう慰めていいか頭を悩ませていた。

(どんな言葉を尽くしても、ロッティの慰めにならないことは判っている…。今のロッティを慰めることが出来るのは、メイブ殿だけなのだから)

 傍らで見守るモンクリーフもお手上げである。

「メイブたん見つけてきたよー!」

 そこへ大喜びを体現したような声を出すフィンリーが戻ってきた。掌の上にはメイブが載っている。

「ぴよぴよぴよ!」
訳:[ご主人様!ご主人様!!]

 メイブの声に、泣いていたロッティは顔を上げた。

「メイブ…メイブ?」

 メイブは掌の上から飛び立つと、勢いよくロッティの顔面に飛びついた。

「ぴよ…ぴよ!」
「ごめん、ごめんねメイブ!いっぱい酷いこと言って傷つけてしまって。本当にごめんなさい」

 顔にメイブを貼り付けたまま、ロッティはメイブの小さな身体に手を添える。
 柔らかな羽毛の感触が、掌にくすぐったい。

「ぴよぴよぴよぴよ!」
訳:[ご主人様のお気持ちも察することが出来ず、わたくしめのほうが申し訳ありませんでした!]
「もうあんな酷いこと言わないから、居なくならないで!メイブが居ないと、私なんにもできない」
「ぴよ…ぴよぴよ!」
訳:[お傍にいます、ご主人様と一緒に居ます!]

 あとはもう、ロッティとメイブの号泣合唱になってしまった。
 フィンリー、モンクリーフ、レオンはホッと胸を撫で下ろした。

「こうやってみると、ロッティちゃん10歳相応って感じ」
「いつも気丈なのに、あんなおねーさま初めて見るから、かなりびっくりよ…」
「メイブ殿が戻って本当によかった。私では、ロッティを慰めることはできなかったから」
「団長…」
「不甲斐ないな」

 自嘲するレオンを見て、フィンリーとモンクリーフは顔を見合わせた。


* * *


 ようやくロッティは泣き止むと、みんなの手を借りて住民たちの治療を再開した。
 すでに治療を終えた住民たちも手伝いに加わり、レオンとフィンリーは男衆の力仕事に参加した。

「フッ、ようやくアタシの出番って感じ!」

 両手を腰に当てて、モンクリーフは池の前でふんぞり返った。
 池や集落の中に流れ込んでしまった砂の除去に、モンクリーフの魔法の力が使われることになった。

「アタシの”あらゆる元素特性エレメントを付与する”固有魔法を応用して、砂を掃き出すことができるわ!」
「おー、それは凄いね”霊剣の魔女”殿」

 感心したようにフィンリーが言うと、モンクリーフはますます鼻高々に胸を反らす。

「ちょいお待ち、モンクリーフ」
「おねーさま?」

 疲れ切った表情かおでロッティが歩いてきた。

「水と地の元素特性エレメントを暴れさせて砂を掃き出すつもりでしょ」
「ギクッ」

 じとーッとした目のロッティから視線をそらせて、モンクリーフはダラダラと汗をかく。
 住民たちに見せつける魂胆で、派手に魔法を使う計画が見透かされていた。

「そんなことしたら、今度は水害に遭って集落が崩壊しちゃうでしょ」
「そ、それは…」
「魔力も無駄に消費して、回復させるのに数日かかる」
「え…えっとぉ」
「お止め」

 さっきまでわんわん泣いていたとは思えない程、ロッティの無言の圧にモンクリーフは観念した。

「ふぁぃ…」

 しょぼーんと肩を落としてモンクリーフは引き下がった。

「それにしてもフィンリー、砂芋虫サンドワームを倒すなんてやるじゃない。魔法生物ゴーレムの慣れの果ての中でも、砂芋虫サンドワームは凶暴な種類なのに。しかも凄いね、ホリー・シルヴェストルに憑かれてるなんて」
「そーかなあ?ガキの頃から俺の中に居るんだよね。別に悪戯されないし、色々協力してくれるから居てくれて全然おっけーだし」
上位級風の精霊ホリー・シルヴェストルですって!?」

 モンクリーフはギョッとしてフィンリーを凝視した。

「ぐぬぬ…風属性の攻撃だけは負けるかも…」
「そんなことで競わない!」

 悔しがるモンクリーフの背を、トントンっと叩いてロッティはため息をついた。

「さあ、モンクリーフ出番よ」
「え?」
「精霊召喚を使って『フェニックスの羽根』探しと、集落にある無駄な砂の除去を同時にやるわ」
「えええええっ!」

 モンクリーフは及び腰になり、ゲッソリと顔を歪ませる。
 かなりの数の精霊を召喚するつもりなのが、にやりと笑むロッティの顔から易々と推察出来た。

「ぴよぴよ~」
「メイブ、魔法陣をお願いね」
「ぴよ!」


* * *


 モンクリーフの魔力をたっぷり使って砂の精霊を召喚したロッティは、『フェニックスの羽根』探しを集落からその一帯全てを依頼し、集落の中に入り込んだ無駄な砂の除去を頼んだ。
 ブルーリーフ島で”原初の大魔女”グリゼルダ・バルリングが見せた精霊召喚に、負けず劣らずの数の精霊が呼び出された。
 そしてモンクリーフは、今度こそ干からびた。

「おほっ、あっという間に砂が片付いた」

 集落になだれ込んでいた砂は、奇麗に外に掃き出された。精霊たちが砂粒を動かし、小川のように穏やかに集落の外へと押し出してくれたのだ。
 住民たちの安堵する声や喜ぶ声が、集落に明るく満ちていった。

「家屋の再建までは手伝えないけど、砂だけでも掃き出しておけばひとまず安心でしょう」
「うんうん。池も元通りだしね」
「この地域の管理官と連絡がついて、明日には人や物資が届くよう手配できたと、集落の長が言っていました」
「それは良かったわ。フィンリーとレオンもお疲れ様」

 そこへ、小さな丸い砂粒がロッティの目の前に浮かんだ。
 砂の精霊の代表だ。

「うん、そっか…やっぱ何もなかったんだ」

 来る前からある程度は予想していた。グリゼルダの反応がいまいち薄かったので、もしやとロッティは覚悟していた。

「みんなお疲れさまでした。解散していいわよ」

 砂の精霊はくるりと宙返りすると、パッと目の前から消えた。

「なかったんですね」

 残念そうに呟くレオンに、ロッティは苦笑するにとどめた。

「羽根がないとなると、長居は無用ね。『癒しの森』へ戻って情報収集からやり直しだわ。――モンクリーフは今日はもう魔法は無理か」

 ぶっ倒れて白目をむいているモンクリーフを見て肩をすくめる。
 ロッティは提げていた巾着袋から杖を取り出した。

「みんな、帰るわよ」

 スラスラと移動用魔法陣を描いて、ロッティたちは帰還した。
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