心の癒し手メイブ

ユズキ

文字の大きさ
45 / 88
『魔女の呪い』編

44話:”原初の大魔女”再び

しおりを挟む
 ”原初の大魔女”グリゼルダ・バルリングと連絡を取るためには、『魔女の回覧板』を使う決まりになっていた。
 『魔女の回覧板』を使えば、確実に連絡がつく。
 ロッティの小屋から急いで『魔女の回覧板』を持ってきたモンクリーフは、「早く、早く」とロッティを急かす。
 チェルシー王女を救いたいモンクリーフにとっても、これは無視できない案件だ。

「”サルウェ”」

 グリゼルダを直接呼び出すための言葉を言うと、『魔女の回覧板』の水晶球がボワッと光って、そしていきなり消えた。

「あれ?通信がつながらなかったの?」

 すぐに光が消えて、ロッティとモンクリーフは首を傾げた。すると、

「呼んだかしら?ロッティ」

 小屋の外から声がした。
 ロッティたちは慌てて小屋の外を見ると、そこにはグリゼルダと見慣れない男が宙に浮いていた。

(わーお…)

 まるで「ずっと居ましたけど?」と言いたげな自然さでそこ居る。

「ぴよぴよ!」
訳:[カイザーしゃん!]

 メイブはロッティの掌から飛び立ち、男の方へと飛んで行った。

「やあメイブ、元気そうだね」

 男――カイザーは、ほっぺにペタっと貼り付いたメイブに柔らかく微笑む。
 真っ白な髪の毛先が鮮明な青色をしていて、瞳もまた鮮明な青色をしている。華奢な長身を包むのは、白と青色のグラデーションのタキシードだ。

「お前がカイザーしゃんか!」

 肩を怒らせてフィンリーは小屋を飛び出し、怒りに震える人差し指をカイザーに突き付けた。

「うん、拙がカイザーです」

 メイブをほっぺに貼り付けたまま、カイザーは小さく首を傾げた。

「山みたいにデカイドラゴンって聞いてたぞ!」
「あー、うん。でも外出する時は、だいたいこのような人間の姿を取るんだ。そうしろってゼルダが五月蠅くて」
「だって、お前がそのままだと私がミヂンコにしか見えないじゃない。それに、レディをエスコートする男は見た目も大事なのだから」
「ゼルダがデカく創ったんじゃないかー」
「あの頃はまだコントロールが上手ではなかったから、勝手にデカくなっただけよ。恨みがましくいつまでも言わないで頂戴」
「へいへい」

 カイザーは肩をすくめて、フィンリーにお手上げのポーズをしてみせた。
 想像を絶するレベルの内容を、なんだか微笑ましく見せられて、フィンリーの勢いが完全に殺げてしまった。

「グリゼルダ様!」

 埒が明かないと思ったロッティが小屋から出てきた。

「お願いがあるのです」
「言ってごらんなさい」

 グリゼルダはその位置で宙に腰を掛けて、優雅に脚を組んだ。
 背後に控えていたカイザーは、日傘をポンッと出現させると、主人グリゼルダに陽射しがかからないように翳した。

「ようやく『フェニックスの羽根』を見つけ出せました。グリゼルダ様の情報のおかげでもあります。しかし、この『フェニックスの羽根』は”不平等を愛する魔女”の持ち物なのだそうで…」

 ロッティは悔しさを滲ませ、着ているつなぎを両手でギュッと握りしめた。

「勝手に持ち出せば、”不平等を愛する魔女”の報復を、盗賊団とこの一帯に住む人々が受けることになってしまいます」
「かまわないじゃない」
「えっ」

 光の加減で透明にも見えるグリゼルダのアイスブルーの瞳が、冷たい輝きを放ってロッティを見下ろす。

「所詮は盗賊。悪党だわ。そして悪事で得た富を享受している住人達も同罪。リリーにちょちょいっと掃除してもらえば、被害を被る人たちが減って平和になるでしょう」

 素っ気ないグリゼルダの物言いに、ロッティは凄むような眼差しを突き付けた。

「一理ありますが、横暴すぎます。”不平等を愛する魔女”が干渉しなければ、彼らもここまで大きくはできなかったでしょう。それに、ここいら一帯は不作の地。人間たちのしていることに、魔女が関わるべきじゃない」

 白か黒じゃダメなのだ。

「魔女が人間の恐怖の対象になってはいけない、そうおっしゃったのはグリゼルダ様ですよ」
「そうね…そう」
「自分の発言には責任持たないとね、ゼルダ」
「お黙り」

 グリゼルダは不愉快そうに目を細めた。
 その時、カイザーのほっぺに貼りついて黙っていたメイブが、グリゼルダの膝の上に降り立った。

「ぴよぴよぴよ」
訳:[お願いしますグリゼルダ様、どうか”不平等を愛する魔女”を説得してください]
「まあメイブ…」

 見上げてくるメイブのうるうるとした瞳を見て、グリゼルダは困ったように口を曲げた。
 離すまいとメイブが大事に抱えている『フェニックスの羽根』を見て、グリゼルダは小さく肩を落とした。

「ちょっと待っていなさいね」
「ぴよ!」

 後ろからカイザーがメイブをつまみ上げると、下に居るフィンリーに思いっきり投げつけた。

「ぴよおおおお」
「あわわわわ」

 なるべく優しくキャッチして、フィンリーはぷんぷん怒ってカイザーに怒鳴り散らした。

「雑に扱うんじゃねえ!メイブたんは物じゃないぞごるぁあああ!」
「ははは。ナイスキャッチ坊主。メイブは頑丈だから問題ない」

 両手を腰に当ててカイザーは笑った。

「カイザーも待ってなさい」

 そう言いおいて、グリゼルダは瞬時に姿を消した。

「大丈夫かい?メイブたん」
「ぴ…ぴよおお…」
訳:[目が回りましたが…大丈夫なのです…]

 フィンリーの掌の上で伸びながら、メイブはぐるぐると目を回していた。

「ゼルダは数分で戻ってくるよ。なに、心配ない。ゼルダはロッティとメイブが好きだから」
「はぁ…。そうだと良いけどね」

 ロッティは露骨に頬を膨らませた。

「基本的にゼルダはリリーが嫌いなんだ。昔っから言うことを訊かないし、人間に対して残酷だしね」
「そうなんだ」
「そうだよ。拙も嫌いだ、あの跳ねっ返りは」

 カイザーはロッティの前に降り立ち、肩をそびやかした。

「昔何度かゼルダの命令で半殺しにしてやったけど、ちっとも懲りないんだ。性格の悪さに磨きがかかってるね」
「…半殺しって…」

 その時の様子を想像して、ロッティの顔がげんなりと沈んだ。

「よいしょ」
「うわっ」

 突然レオンの目の前にグリゼルダが現れた。

「戻ったわ」
「お帰りゼルダ」
「あら、あなた随分とすっきりした表情かおをしているわね。以前会ったときは思い詰めていた感じだったけど」

 レオンに小さく微笑んで、グリゼルダはロッティに振り向いた。

「羽根はあなたに差し上げるって。自由にお使いなさい」
「…えええええっ!?」

 ロッティは仰天してグリゼルダの顔を凝視した。

「一体何の魔法を使って脅したんですか」
「魔法なんて使ってないわ。それに、脅してないわよ。ただ、事情を説明して、礼儀正しくお願いをしたの」

 その場がシンっと静まり返る。当然誰も「礼儀正しくお願いをした」の部分を信じていない。

「なんてお願いしたんだい?」

 沈黙を破り、カイザーが確信を突く。

「最近血を見てないから、あなたの血で満足しようかしら?って言っただけよ」
「あーあ、それは脅しって言うんだよゼルダ」
「まあ失礼ね、野蛮な行為は好まなくってよ」

 本気で心外だと表情かおに書いて、グリゼルダは眉をひそめた。

(グリゼルダ様の固有魔法は『通らない攻撃はなく突破できない強固な守り』、略して『無敵』。そりゃ”不平等を愛する魔女”だって、否とは言えないわよ…)

 ロッティは疲れたように薄笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

わたしのねがう形

Dizzy
ファンタジー
村が襲われ、すべてを失った少女ユアは、傷ついた心と体を抱えながら森の奥深くにたどり着く。そこで、ひっそりと佇む儚げな少女と出会う。彼女もまた、ただ静かに痛みを抱えていた。 異なる過去を背負う二人は、戸惑いながらも手を取り合い、“でこぼこコンビ”として共に歩み始める。街へ向かい、ハンターとしての第一歩を踏み出すことで、失われた日常と絆を取り戻そうとする。 傷ついた者同士がつなぐ小さな手と、そこから生まれる希望の物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...