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ヴォルプリエの夜編
82話:魔女の躾
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「無事復活できた様ね、アデリナ」
「はい。お久しぶりです、グリゼルダ様」
アデリナはドレスの裾を掴んで、優雅にお辞儀した。
「相変わらず礼儀正しい良い子ね。それに比べ、お前は本当にダメな子」
「くっ」
リリーは握った拳を震わせ、上から見下ろしてくるグリゼルダを激しく睨んだ。
「アデリナの固有魔法『負の運命を正の運命に軌道修正出来る』は、本当に神がかっている素晴らしい魔法なの。お前に使わせるのはしのびない。アデリナ、この場は私に任せなさい」
「判りました、グリゼルダ様」
頓着せずにアデリナは下がった。
もとよりグリゼルダが介入してくることは、ロッティから説明されていた。
(タブン、激オコしてそうな感じかな…。何をするのかちょっと楽しみ)
距離をとったアデリナは、好奇心満々の目を2人に向けた。
「リリー、何がそんなに不満なの?あなたの魔法は素晴らしいものだと、長いあいだずっと言い続けてきているのに」
「素晴らしくなんかないわよ!お菓子が作れて誰トクなの?お菓子なんて誰でも作れるじゃない」
リリーは吠えるように怒鳴った。
「私はお菓子、作れないわ」
「あなたは料理なんてしないじゃない!」
「そう。だから、お菓子をいっぱい作って、ってよくお願いしたでしょう。お菓子の城も欲しいから作ってって」
「城サイズなんて、食べきる前に腐ってカビるわよ!」
「大丈夫よ、カイザーが食べちゃうから」
「拙は残飯処理係じゃないぞー」
天に垂れ込める黒い雲を割るようにして、人型姿のカイザーがひらりと降りてきた。
4枚の翼をはためかせ、グリゼルダの後ろに留まった。
「遅いわよ」
「拙はフィンリーと一緒に、世界中を飛び回ってたんだぞー。ゼルダはなんもしてなかったじゃん」
「私はこれからよ」
グリゼルダはリリーのほうへ向き直る。
「あなたは魔法にどんな夢を見ていたのか判らない。他の魔女たちの魔法と比べて自分を卑下し、あなたの魔法がどれほど素晴らしいものなのか理解しようともしない」
「何度も言わせないで!ドコが素晴らしいのよ!」
「一口にお菓子と言っても、味も種類も人の数ほどある。あなたは誰かの作ったお菓子を再現してると思っているようだけど、新たに生み出しているものなのよ。
あなたの匙加減で、甘さも、素材も、カロリーも全部調節できる。そしてお菓子の頂点に立てるほどの、美味しいお菓子を作り出せるわ。
お菓子という方面限定にはなるけど、これも創造の魔法よ」
「そ、創造…」
「健康な人だけじゃなく、病人にも美味しく食べられるお菓子を作り出せる。子供にも大人にも老人にも、美味しいお菓子が作り出せる。
人間たちはあなたのお菓子を感謝して、常に大人気。
考えてもみなさい、病気や怪我をしなきゃロッティの出番はない、占いなんて毎日するようなものじゃないからアデリナも常時必要ではない。物ばっかり作っても必要なきゃフィアンメッタの出番はない」
「毎日戦争が起きるわけじゃないから、ゼルダの出番も全然ナイ」
「そうよ」
グリゼルダは髪の毛を一本抜いて、黄金の杖に変えた。
「人々に愛される魔法、魔女たちを笑顔に出来る魔法。これほど素晴らしい魔法がそんなに転がってると思っている?」
黄金の杖の先を、リリーに向ける。
「幼気な人間の女の子の心に付け入って、とんでもない悪事を世界に向けて企てた。さすがに今回はやり過ぎ。もう、半殺しの目にあわせるだけじゃ足りないわね。
骨身に染み渡る程躾て、それで暫くの間封印しましょう」
「なっ!」
固まっていたリリーは、慌ててその場を逃げ出そうとした。しかし、
「ダメだよリリー、お仕置きタイムだ」
カイザーは4枚の翼を大きく羽ばたかせた。すると、リリーの周りに水晶と硝子が檻のように取り囲んだ。
「拙の固有魔法なんて、『水晶と硝子を生み出せる』だよ。こっちのほうがくだらない魔法だと思うんだけど」
「まあ、奇麗でいいじゃない、見た目が」
「ほらね…ゼルダ向けの魔法なんだ。お菓子のほうが何千倍もイイヨ。おなかがすいたらすぐお菓子出せて食べられて」
広い肩をすくめる。
「今日は『六花の聖夜』だ。ロッティとメイブ、そしてあの人間の女の子のおかげで世界は平和。リリーを封じ込めたら『ヴォルプリエの夜』も終わりだよ。
さあ、ちゃちゃっとヤッチャイナヨ、ゼルダ」
「ええ。
『魔女の躾』」
黄金の杖の先から、物凄い勢いで水流が溢れだし、リリー・キャボットを飲み込んでしまった。
”原初の大魔女”グリゼルダ・バルリングのみが使える『魔女の躾』。その名の通り、魔女たちを躾るための魔法だ。
水の牢獄に閉じ込め、魔法も魔力も封じ込める。そして悪行の数々を一つ残らず思い出させる。犯した悪行の数だけ呼吸を止め苦しめるが、死なないようになっている。
責め苦は身体の隅々まで、心にも魂にも刻み込んた。
水牢の中でリリーは悶え苦しんだ。顔を赤くさせ青くさせ、足をばたつかせ、手で水をもがく。
「”盗聴の魔女”エブリン・ユニアックが、『魔女の躾』に処されるところを見て以来だの。
そら、フィアンメッタからの届け物じゃ」
スウッとコンセプシオンが姿を現した。
「ご苦労様、コンセプシオン」
差し出された手に、コンセプシオンは『アーティファクト・ダムドカヴェア』を置く。
「良きタイミングだったわね」
「見計らっておった。喋り倒してるときに出てきたら、座がシラケると思って」
「ツンデレのくせに気が利いてるわ。カイザーにも見習ってほしい」
「ええー、拙だって常に気を使ってるじゃん」
ぶーぶー文句を並べるカイザーをスルーして、グリゼルダは『アーティファクト・ダムドカヴェア』をリリーに向けた。
「特注で作らせた『アーティファクト・ダムドカヴェア』、封印専用の箱よ」
ずっと冷たい表情をしていたグリゼルダの目元が、ふわっと和らいだ。
「あなたはもっと自分と向き合う時間が必要。だから、この中でしっかり向き合って、沢山考えて悩みなさい。あなたの固有魔法は、けっしてくだらないものじゃない。素晴らしい魔法なの。
いつかあなたが本心から改心したら、この箱は黄金色になる。そうしたら出してあげるわ」
『アーティファクト・ダムドカヴェア』は蓋を開けた。そして『魔女の躾』の水牢に包まれていたリリーを、ゴゴゴゴッと音を立てて飲み込んでしまった。
「封印完了」
蓋が閉じられ、『アーティファクト・ダムドカヴェア』は沈黙した。
「はい。お久しぶりです、グリゼルダ様」
アデリナはドレスの裾を掴んで、優雅にお辞儀した。
「相変わらず礼儀正しい良い子ね。それに比べ、お前は本当にダメな子」
「くっ」
リリーは握った拳を震わせ、上から見下ろしてくるグリゼルダを激しく睨んだ。
「アデリナの固有魔法『負の運命を正の運命に軌道修正出来る』は、本当に神がかっている素晴らしい魔法なの。お前に使わせるのはしのびない。アデリナ、この場は私に任せなさい」
「判りました、グリゼルダ様」
頓着せずにアデリナは下がった。
もとよりグリゼルダが介入してくることは、ロッティから説明されていた。
(タブン、激オコしてそうな感じかな…。何をするのかちょっと楽しみ)
距離をとったアデリナは、好奇心満々の目を2人に向けた。
「リリー、何がそんなに不満なの?あなたの魔法は素晴らしいものだと、長いあいだずっと言い続けてきているのに」
「素晴らしくなんかないわよ!お菓子が作れて誰トクなの?お菓子なんて誰でも作れるじゃない」
リリーは吠えるように怒鳴った。
「私はお菓子、作れないわ」
「あなたは料理なんてしないじゃない!」
「そう。だから、お菓子をいっぱい作って、ってよくお願いしたでしょう。お菓子の城も欲しいから作ってって」
「城サイズなんて、食べきる前に腐ってカビるわよ!」
「大丈夫よ、カイザーが食べちゃうから」
「拙は残飯処理係じゃないぞー」
天に垂れ込める黒い雲を割るようにして、人型姿のカイザーがひらりと降りてきた。
4枚の翼をはためかせ、グリゼルダの後ろに留まった。
「遅いわよ」
「拙はフィンリーと一緒に、世界中を飛び回ってたんだぞー。ゼルダはなんもしてなかったじゃん」
「私はこれからよ」
グリゼルダはリリーのほうへ向き直る。
「あなたは魔法にどんな夢を見ていたのか判らない。他の魔女たちの魔法と比べて自分を卑下し、あなたの魔法がどれほど素晴らしいものなのか理解しようともしない」
「何度も言わせないで!ドコが素晴らしいのよ!」
「一口にお菓子と言っても、味も種類も人の数ほどある。あなたは誰かの作ったお菓子を再現してると思っているようだけど、新たに生み出しているものなのよ。
あなたの匙加減で、甘さも、素材も、カロリーも全部調節できる。そしてお菓子の頂点に立てるほどの、美味しいお菓子を作り出せるわ。
お菓子という方面限定にはなるけど、これも創造の魔法よ」
「そ、創造…」
「健康な人だけじゃなく、病人にも美味しく食べられるお菓子を作り出せる。子供にも大人にも老人にも、美味しいお菓子が作り出せる。
人間たちはあなたのお菓子を感謝して、常に大人気。
考えてもみなさい、病気や怪我をしなきゃロッティの出番はない、占いなんて毎日するようなものじゃないからアデリナも常時必要ではない。物ばっかり作っても必要なきゃフィアンメッタの出番はない」
「毎日戦争が起きるわけじゃないから、ゼルダの出番も全然ナイ」
「そうよ」
グリゼルダは髪の毛を一本抜いて、黄金の杖に変えた。
「人々に愛される魔法、魔女たちを笑顔に出来る魔法。これほど素晴らしい魔法がそんなに転がってると思っている?」
黄金の杖の先を、リリーに向ける。
「幼気な人間の女の子の心に付け入って、とんでもない悪事を世界に向けて企てた。さすがに今回はやり過ぎ。もう、半殺しの目にあわせるだけじゃ足りないわね。
骨身に染み渡る程躾て、それで暫くの間封印しましょう」
「なっ!」
固まっていたリリーは、慌ててその場を逃げ出そうとした。しかし、
「ダメだよリリー、お仕置きタイムだ」
カイザーは4枚の翼を大きく羽ばたかせた。すると、リリーの周りに水晶と硝子が檻のように取り囲んだ。
「拙の固有魔法なんて、『水晶と硝子を生み出せる』だよ。こっちのほうがくだらない魔法だと思うんだけど」
「まあ、奇麗でいいじゃない、見た目が」
「ほらね…ゼルダ向けの魔法なんだ。お菓子のほうが何千倍もイイヨ。おなかがすいたらすぐお菓子出せて食べられて」
広い肩をすくめる。
「今日は『六花の聖夜』だ。ロッティとメイブ、そしてあの人間の女の子のおかげで世界は平和。リリーを封じ込めたら『ヴォルプリエの夜』も終わりだよ。
さあ、ちゃちゃっとヤッチャイナヨ、ゼルダ」
「ええ。
『魔女の躾』」
黄金の杖の先から、物凄い勢いで水流が溢れだし、リリー・キャボットを飲み込んでしまった。
”原初の大魔女”グリゼルダ・バルリングのみが使える『魔女の躾』。その名の通り、魔女たちを躾るための魔法だ。
水の牢獄に閉じ込め、魔法も魔力も封じ込める。そして悪行の数々を一つ残らず思い出させる。犯した悪行の数だけ呼吸を止め苦しめるが、死なないようになっている。
責め苦は身体の隅々まで、心にも魂にも刻み込んた。
水牢の中でリリーは悶え苦しんだ。顔を赤くさせ青くさせ、足をばたつかせ、手で水をもがく。
「”盗聴の魔女”エブリン・ユニアックが、『魔女の躾』に処されるところを見て以来だの。
そら、フィアンメッタからの届け物じゃ」
スウッとコンセプシオンが姿を現した。
「ご苦労様、コンセプシオン」
差し出された手に、コンセプシオンは『アーティファクト・ダムドカヴェア』を置く。
「良きタイミングだったわね」
「見計らっておった。喋り倒してるときに出てきたら、座がシラケると思って」
「ツンデレのくせに気が利いてるわ。カイザーにも見習ってほしい」
「ええー、拙だって常に気を使ってるじゃん」
ぶーぶー文句を並べるカイザーをスルーして、グリゼルダは『アーティファクト・ダムドカヴェア』をリリーに向けた。
「特注で作らせた『アーティファクト・ダムドカヴェア』、封印専用の箱よ」
ずっと冷たい表情をしていたグリゼルダの目元が、ふわっと和らいだ。
「あなたはもっと自分と向き合う時間が必要。だから、この中でしっかり向き合って、沢山考えて悩みなさい。あなたの固有魔法は、けっしてくだらないものじゃない。素晴らしい魔法なの。
いつかあなたが本心から改心したら、この箱は黄金色になる。そうしたら出してあげるわ」
『アーティファクト・ダムドカヴェア』は蓋を開けた。そして『魔女の躾』の水牢に包まれていたリリーを、ゴゴゴゴッと音を立てて飲み込んでしまった。
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