ムッツリ眼鏡、転生したらモブのボスになりました(汗)

狼蝶

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「はぁーー・・・・・・」

 週末、人通りの多い街道を一人、重い溜息を吐きながらたらたらと歩く。心はどんよりと暗く、今なら馬に蹴られた方が頭がすっきりして良いかもしれない、と冗談にもできないことを思ってしまう。
 あ゛~気が重い・・・・・・。みんなに言いたくない・・・・・・。俺が、モブ族みたいな存在だってこと。

 ・・・・・・はぁ~~・・・・・・

 週の中頃、教師寮の俺宛てに眼鏡修理屋から俺の眼鏡の修理が終わった旨を知らせる手紙が届いた。引換券としてのその手紙を手に持ち、俺は休日である今日修理屋に向かって歩いている。
 言いたくないよぅ言いたくないよぅ!と思いながら危なげな足取りで歩いていると、目の前から馬車が走ってきて大急ぎでそれを避ける。

「キャァッ」
「すいませんっ!」

 突然道の端に寄ったからか店の前にいた人とぶつかってしまい、俺はすぐに頭を下げて謝罪をした。
 すると頭の上から『アラッ・・・?』と可愛らしいが、どこかで聞いたことのあるような声が聞こえてきて、顔を上げてみるとそこには見覚えのある鮮やかな赤紫色の長髪が。

「やっぱり!以前にもお逢いしましたよね!?」
「ああ!その節も、大変申し訳ございませんでした・・・・・・」

 彼女は、前回街道を歩いていた際にぶつかってしまった相手であった。あの時も俺からぶつかってしまったので、再び頭を下げると彼女が優しい声で『頭を上げてくださいませ』と慌てだす。

「本当に、二度も私の不注意で・・・・・・」
「だったら、この後お時間ございます?」

 いやでも・・・と俯きがちでいると、彼女は口元に笑みを浮かべ俺に非を感じさせないような雰囲気の中でお茶に誘ってきたのだった。

 まず俺は当初の目的である修理屋へ赴き、修理済みの眼鏡を受け取ると店員に礼を言って早速それをかけてみた。
 ふぁーーーー!!!久しぶりのクリアな世界!見える!世界がはっきり見えるってこんなに素晴らしいことなんだ!!
 と改めて感動する。本当に今の今まで不便だったのだ。そして眼鏡をかけた状態で初めて、修理屋まで付き合ってくれた彼女の方に目を向けると、そこにはすんげぇ美人さんがいた。
 え・・・俺この人と歩いていたの?って思いたくなるくらい美人。まず目に入る見事な髪はもちろんのこと、ぱっちりとしておりその中に銀河が住んでいるみたいな瞳は美しく、見つめたら魂を持って行かれそうで怖くもある。ひたすらに美人だが、どこかで見たことがあるような気もしてくる。が、それは俺の中の存在しないはずの記憶かもしれないので、変なことは口走らないようお口をチャックすることにした。

「ドルトレン様は何をされている方なの?」
「お恥ずかしながら、教師を・・・」
「まぁ!もしかして、王都一と言われるあの学園の教師様ではなくて?」
「そうです」
「まぁまぁ!!さぞ優秀でいらっしゃるんでしょうね」
「ははは・・・私なんか、まだまだ若輩者です」

 ジュィリーさんというらしい彼女御用達の洒落た店で、アフタヌーンティーを嗜む。カップを持つ指が綺麗だし、彼女の紅茶を口に含む所作一つ一つが絵になる。どこか良い所出のお嬢様かとも思うが、話に彼女について訪ねる隙がなく、暗に探られて欲しくないことが伝わってきた。
 特に何の問題もなくその場を終え彼女と連れだって街を歩いていると、彼女は当たり前のように俺に腕を絡ませ身体をピトリと合わせてきたので、俺は内心『ヒィァッ』と奇声を上げた。
 じょ、じょ女性とこんなに至近距離で接する機会なんて前世と今世合わせてもなかったし、そもそも今はっきりわかったが俺は女性にはまっったく興味なーい!
 いつも男の肌を感じて安心していたからか、逆に底知れぬ恐怖が沸いてきた。もうこれは・・・・・・ドロンやな。

「馬車までお送り致しますね」
「えっ・・・嫌ですわ!もう少しだけっ、もう少しだけ私と一緒にいて!」

 紳士さを努めてエスコートするように歩き出すと、彼女は一瞬固まった後駄々をこね始めた。面倒くせぇーーと思ったが、彼女の必死に俺を引き留めようとする姿にそれ以上拒絶できずむぐぐとなる。だが、自意識過剰かもしれないものの彼女が俺と親しくなりたいと思っているのも感じたので、俺はなるべく波風が立たないようにこの場から立ち去りたかった。
 俺にはセオドアにヴェータ、それにアカとシャムルちゃんがいるからな!(←めっちゃクズ男みたい)

「申し訳ありません。この後も用事があるので」

 有無を言わさないよう、そして幼子に言い聞かすようゆっくりと拒絶を表すと、彼女は諦めた様にそっと手を離した。そしてこちらがギョッとするような睨みを向けてきたと思ったら、今までとは違うキツい声色で『私っ、貴方のこと諦めなくてよ!!』と言って人混みの中に消えていったのだった。

『こわっ・・・・・・』直後、俺は口元だけでそう呟いた。(スレイ先生の胸元に泣きつきたい)


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