ムッツリ眼鏡、転生したらモブのボスになりました(汗)

狼蝶

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「シャムルっ!先に逃げろっ――
「おっとと、ざーんねんでしたぁ!!逃がさねぇよ!」

 奴は俺の手を振り払い、反対に俺の細腕(奴のに比べてだぞ!)を掴むと濃い闇魔力を流してきた。男の言ったことの意味はわからないが、奴の意識がこちらへ向いたので、シャムルちゃんを先に逃がそうと指示をとばす。身体が硬直していたようだがシャムルちゃんが震える足で立ち入り口に向かって走り出した直後、のっそりと入り口から大きな影が出現した。

「ニニック・・・・・・!!」

 流れ込んでくる闇の魔力を俺の中の光の魔力で相殺させながら、入り口に立ち塞がる存在を睨み付ける。シャムルに視線で俺の後ろへ戻れと合図する。シャムルは怯えながらもコクリと頷き、素早くニニックから離れた。ニニック・・・・・・お前どんだけシャムルちゃんに執着しているんだっ!!?

「ニセモノめっ!ニセモノっ!ニセモノっ!消えろっっ!!お前なんかっっ!!」

 ニニックに意識を奪われていると、目の前にいる男の俺の手を掴む力が強くなる。バキッと不穏な音が鳴り、痛みが襲ってきた。魔力は相変わらず相殺できているが、もともと大きいこいつの手はなかなか引き剥がすことができない。
 クッソ・・・・・・!!しかもこいつ、何か俺に恨みでもあるらしい。目は血走り、俺の苦痛に歪む顔がすごく嬉しそうだ。いやん、悪趣味!!

「なぁ・・・・・・、その、ニセモノってのは・・・・・・何だよ」

 少しでも腕を握る力が弱くならないものかと思い、意識を逸らそうと気になっていた話題をぶつけると、つかつかと近づいてきたニニックがまるで見下すように笑った。

「お前は正真正銘の偽物だろぉ~?」
「はっ・・・どういう、ことだっ!?」
「ほら、いい加減名乗ってやれよ」
「はい、長様・・・・・・」

 ニニックにそう命令されると目の前の男が素直にそれに返し、一層憎々しげに俺を見た。

「オレの名はサドイ。オレこそがサドイ=ドルトレンだ」

 ひ、ひゃーーー!!!これは、これはシャムルちゃんに聞かせたくなかった!!確かに俺は偽物だ。俺が偽物だって、シャムルちゃんにバレちゃったじゃないのっっ!!どうしてくれんのよっ!
 シリアスが吹っ飛んだ俺の中で、咄嗟に『あー・・・サドイさんでございましたか。どうも・・・』みたいな間抜けな返しが思い浮かんだが、後ろにシャムルちゃんがいる今そんなアホな姿を見せられるわけがない。

「前回は何故か俺の魔法が効かなかったが・・・・・・今回は逃げられないぜ?」

 サドイ(自分で言うのもなんか変だな)に片方の腕を押さえつけられ、身動きができないままニニックに手の平を向けられ魔法を発動される。
 どす黒い魔力の玉のようなものがどんどん大きくなり、周りの空気を吸い込んでいるのか風がそちらの方に吹いていく。
 うーん・・・禍々しい・・・・・・。

「喰らえっ!!」

 ニニックが叫ぶと同時にその汚い色が混ざり合った玉が俺に向かって飛んできた。魔法を放ったニニックは唇の端を引き上げ勝ち誇ったような顔をしている。
 が、ざんねーん!

 俺は剛速球で来た闇の玉に手を翳し、掌からちょうどそれと相殺できそうなくらいの光の魔力を取り出して綺麗に相殺させたのだ。俺は魔力調節は大の得意なのだ!!
 一瞬『は?』みたいな顔をしたニニックは、二発目、三発目と同じような魔法を打ってくる。俺はサドイに対抗しながらそれを次々に抹消させるので、ニニックの顔が段々怒りに赤くなっていった。

 なんかいい加減サドイウザくなってきたな・・・・・・。押さえつけられるのが地味に嫌というか・・・・・・。と言うわけで、ニニックが自分の力不足で苛ついているのを尻目に目の前のサドイを光魔法を纏わせた拳でぶん殴ると、盛大に後ろのロッカーにブチ当たって気絶した。

「オイッ何事だっっ!!」

 今の物音か、既にこの場所から発せられる不穏な空気を察知してか、サドイが倒れた直後ぐらいに更衣室に数人の男たちが雪崩れ込んでくる。おそらく異変を嗅ぎつけた捕縛隊員たちだろう。

「お前っ、モブ族かっ!?今――ッ!!

 ニニックに向かって来た隊員のうち、二人が闇の魔力を被りその動きを止める。二人はまるで時が止まったかのようにビクリとも動けなくなった。それを見て、新人なのかモブ族を初めて見たのか怯えてしまった残りの者たちは、『うわぁああ!!!』と叫んで走って逃げてしまった。

「クソックソックソッ!!!何故だ!?何故お前に俺の攻撃が効かない!!?俺の方が上なのにっ、俺の方がお前よりも優れているのにっっ!!クソォオオオオオ!!!」

「せんせいっ!!」

 狂ったように咆哮を上げるニニックの悍ましい姿に、後ろのシャムルは完全に怯えきってしまい、涙の混じった声で俺に必死にしがみついてきた。震えがこちらにも伝わってくる。
 そろそろシャムルちゃんの精神衛生上良くないよな・・・・・・と思い、俺はサドイを倒した時のように右の拳に光の魔力を纏わせる。そして頭を抱えて叫んでいるニニックに近づこうとした時、

「もういい!悪魔、お前にこの身体全てくれてやる。その変わり、目の前にいるこいつを必ず殺せ!!陵辱した後でも良い!好きにしろ!!」

『ヒェヒェッ・・・・・・了解』

「グワァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 地を這うような声が『了解』と告げた瞬間、ニニックが明らかに先ほどまでの怒りの咆哮とは違い苦しんでいるような様子で酷く叫びだした。喉が裂かれるような、血の出るような声色だ。
 先ほどのは先ほどので狂気を感じていたが、今は近づくのさえ憚られる感じである。見たくはないが身体が動かずただその様子を見ていると、部屋中の闇魔力の濃度が格段に高くなったのを感じる。思わずシャムルちゃんを庇いつつ後ろに下がってしまった。

「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

 地に響く叫びを発しながら、下げていた上体をゆっくりと上げていくニニック。そして気味の悪い沈黙が訪れ、立ち上がった彼は顔全体を覆っていた両手を下げていった。

「ヒヒヒッ!!これが人間を乗っ取る感覚かぁ・・・・・・。悪くねェな・・・・・・」

 背後でシャムルちゃんが身震いしたのがわかったが、同時に俺も大きく身震いをしていた。だって・・・ニニックの顔が・・・・・・、ぶちゅぶちゅに肉が盛り上がり、目は爛々と光り口が裂けて、史上最高に醜いものに変化を遂げていたからだ。

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