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しおりを挟むそろり、そろりと、三人分だろうか、足音が扉のあちら側、すぐそこで止まる。
思わずごくりと唾を大きく飲み込んでしまい、手の平にじっとりと汗をかいているのを感じる。
シャムルちゃんを背に、扉が開いた瞬間攻撃できるように片手に魔力を溜めておく。二人で息を殺して古い木製の扉を見つめる中、キィ――・・・と音を立ててゆっくりと扉が開いた。
室内に飛び込んでくる黒い影たち。ダダダと雪崩れ込むように入ってきた者たちに向かい、攻撃魔法を放とうとした瞬間、その先頭に見覚えのありすぎる顔を見て安堵というより唖然とする。
「っ!スレイ先生っ!?」
「「先生っっ!!」」
先頭にいたのはなんとスレイ先生だったのだ。俺の顔を見るなり固まってしまった先生の後ろには、セオドアとヴェータがおり、二人とも泣きそうな顔をしてこちらを凝視していた。そして俺の後ろのシャムルの姿を確認するとそちらの方に駆け寄って行き、安否の確認をし出した。安心しきったシャムルちゃんがセオドアとヴェータに囲まれて、うぇんうぇんと泣き声を上げている。ずっと張り詰めていたものが切れたようだ。
セオドアもヴェータも捕縛隊の隊服を着ておりいつもより少しだけ大人びて見えるが、シャムルの無事を喜ぶ表情はまだ子どもで、隊服が所々解れていたり泥がついて汚れていたりしている所を見ると、必死になって俺たちのことを探してくれたのだろうとジンときた。
それにしても・・・・・・目の前で固まってしまったスレイ先生は一体どうなされたのだろうか・・・・・・。あっ、そういえば、スレイ先生俺の眼鏡なし+青毛姿を見るのは初めてなのかも・・・・・・いやでも眼鏡なしは前に街で会ったときに見ているはずだし・・・。やっぱり、俺の髪色が俺の顔に合っていないんじゃないのか。『こっ、これは変だ。ヤベぇ笑っちまう・・・でもなんかフォローしたほうがいいよな?』みたいな感じで頭の中がパニック状態になっているのかもしれない。
後ろからシャムルを泣き止ませたセオドアとヴェータがこちらに視線を向け、『そう言えば先生、髪の色が――』と疑問を口にする。だからそれを今シャムルちゃんに説明しようと思っていたのだけどね。
「あの、スレイせん――っヒ!」
目を見開いて固まっているスレイ先生のことが心配になってきたので顔の前で手を振りながら声をかけると、スレイ先生がいきなりその場で跪き、突然の慣れない状況に俺は小さく悲鳴を上げて飛び退いた。
なっ、なんだ!?どうしていきなり跪いてんの、スレイ先生っ!!?こんなっ、姫に傅く騎士のような、まるで女性にプロポーズするようなスレイ先生の動作に動悸が激しくなる。背後でも生徒たち三人の息を飲む気配が背中に伝わってきた。
まるで白馬に乗った王子様からのプロポーズを受ける姫のような気持ちになって胸をときめかせ、胸に手を当てていると、俯いていたスレイ先生がガバリと顔を上げ口をクワッと開き――
「やはり、やはりゼッツ様でしたか!!救出が遅れてしまい、大変、大変申し訳ございませんでした!!」
そう、声を張ったのだ。
心なしか、目に涙が滲んでいるように見える。うわぁ・・・・・・せんせのガラス玉みたいに綺麗なお目々に涙がキラリ・・・・・・
と、そんなことを考えている場合じゃない。うん、先生は今確かに俺に向かって『ゼッツ様』と・・・・・・
・・・・・・ん?ゼッツ様って、誰?
「え・・・・・・と、その“ゼッツ様”っていうのは・・・・・・」
なんだか状況がわからずそこまで言うと、スレイ先生はうっ!と眉間に指を食い込ませおいおいと泣き始めた。『ああお労しや・・・・・・ゼッツ様・・・・・・』なんて、零している。
俺は後ろにいるセオドア、ヴェータ、シャムルちゃんとともに、首を傾げていた。
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