マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第66話

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ダンジョン内にある"銀蘭"の拠点にイリスを入れてもらう件について、俺の実力を測るために同行する監視員として"銀蘭亭"の従業員であるニナが指名された。


「私が、ですか?」

「ええ。第4区の拠点まで同行し、モーズさんの実力に問題がなければイリスさんの受け入れ手続きをして欲しいの」

「それは……」


俺がイリスに手を出す機会を減らすために自身の身体を使う彼女ではあったが……命の危険があるダンジョンへ、しかも危険度の高い第3区を通過するとなれば流石に消極的な顔を見せる。


「……」

クイクイ


それをわかっていたシャーリーさんは耳を貸せというジェスチャーでニナを呼び、それに応じたニナが耳を寄せると小声で何かを囁いた。


「…………わかりました。では準備を」


何を言われたのかはわからないが、ニナはシャーリーさんの言葉に今回の業務命令を請けることにしたようだ。

ダンジョンへ深く入るほど入念な準備が必要なので、すぐに準備を始めようとする彼女だったが……それをシャーリーさんが止めた。


「必要な物はこちらで用意しておくわ。その前に予定の方を決めておきましょう」


そう言った彼女がこちらへ向き直って俺に聞いてくる。


「モーズさん、ご予定の方は?」

『もう1人同行する予定の聖職者がいるので、彼女の派遣手続きを出来たらになりますね』

「聖職者の方も女性ですか……まぁ、いいでしょう。では予定が決まったらニナにお伝え下さい。それまでに準備していても問題ない物は先に準備しておきますので」


食料品などの使用期限がある物は、予定が決まってから用意するのだろう。


『ええ、わかりました』


それに俺が頷くと、シャーリーさんは席を立つ。


「では、これで失礼します」


そう言って彼女は部屋を出ようとすると……チラッとこちらへ振り返る。


「……」


おそらくイリスへ目を向けたようだが頭部を覆う兜で確かなことはわからず、すぐに前へ向き直った彼女はお付きの2人を伴って部屋を出ていった。


「どうかしたのかしら?」


そんな彼女に疑問の表情を浮かべるイリスだったが、とりえずは部屋に残ったニナを含めて今後の話を進めることにする。


『さあな。まぁ、それは置いておくとして……ニナ、予定が決まったら準備はすぐに出来るのか?』

「ええ。元々ある程度は確保してありますし、無くても私1人分ぐらいの物資は商店で買えばいいでしょうからどうにでもなると思います」

『だよな。じゃあ予定が決まったらイリスから伝えてもらうって事でいいか?』

「承知しました」


ニナはイリスが滞在している"銀蘭亭"の従業員であるし、会う機会は必ずあるだろうからとそう提案して"銀蘭"の事務所を出ることにした。



俺とイリスはダンジョン前の広場へ戻ると、ダンジョンの入口近くにある救護テントの方を見る。

当然、セリアを探しているのだが……


「居ないわね。あれだけの報酬が貰えるのなら他の派遣依頼は受けないほうが良いって言ってたから、指名されないように宿舎の方で待機してるのかしら?」


別にそこまで考えて利益を等分したわけではないが、等分した事による収入でセリアは俺以外の派遣依頼を請けないことに決めたらしい。

先日、俺と別れた後にそれを聞いていたイリスは救護テントに彼女が居ないことを不自然だとは思わなかったようだ。

俺もそれを聞いて納得しかけたが、そもそもセリアが指名される可能性は彼女の"小回復"という称号でかなり小さいし、待機しているだけで手当が出るここに居ないのは微妙にもったいないのではないかとも思う。

まぁ、指名される可能性がないわけではないので、それを避けるために自らその可能性を潰しているのかも知れないが。

どちらにせよダンジョン進行についての打ち合わせで会う必要があるからと、救護テントでセリアの居所を聞くことにする。


「セリアですか?2日前に自分の家へ帰ってからは見てませんね」


救護テントの女性にセリアの居場所を聞いてみると、首を傾げながらそんな答えが返された。

教会の寄宿舎に部屋を持つセリアだが実家は街の中にあり、2日に1度はそちらへ帰っているのだそうだ。

聖職者の中には毎日自分の家に帰る通勤型の人もいるそうで、それ自体はそこまでおかしなことではないらしい。

ただ、そうなると今日はここに来ているはずなのだが……

俺からの派遣依頼を請けるのなら会うのはここになるだろうし、派遣の依頼があったとしても先約があると言って断ればいいのだからここに来ていないのは不自然である。

その疑問をイリスにぶつけてみると、彼女はクリっと頭を傾けた。


「そっか、モーズからの依頼を受けるためにはここに来るはずよね。教会の宿舎にも居ないのならご実家のほうに居るんでしょうけど、詳しい場所は聞いてないのよね」


セリアの実家は、この街の北東の方とだけしか聞いていないらしい。

なので救護テントの女性に詳しい住所を聞いてみるが……彼女も詳しくは知らないし、それを知っていても俺達とセリアの関係を知らないので教えられないとのことだった。

それはそうだろうな。

ただ、派遣の実績があり本人の報告書も良い内容であれば教会で聞けるかもしれないとのことで、早速俺達は教会へ向かう。




「少々お待ちを。えーっと……ああ、今後は貴方からの依頼を最優先で請けると書いてありますね。安定した高い実力をお持ちだからとも書いてありますが……それだけですか?」


聖職者の派遣を申し込む受付でセリアの家の場所を尋ねてみると、彼女の報告書を確認した受付の女性がこちらを……というか、俺を訝しげな目で見てくる。

おそらく、俺がセリアを誑かしているのではないかと疑っているのだろう。

報告書には高待遇だったことも書かれており、彼女の回復能力の低さからここまで高待遇なのは不自然なので……その高待遇は容姿によるもので、俺が彼女の身体を狙っているのでは?と思うのは自然なことである。

どちらかというと狙われているのは俺の方なので、疑いを晴らすべくセリアに会わなければならない事情を説明した。


「打ち合わせですか……そうは言っても個人の家をお教えするのはちょっと問題が」


その返答にイリスが尋ねる。


「なら、普通はどうやって連絡をつけるんですか?」

「教会を通して、というのが普通ですね。回復能力が低くとも貴重な聖職者だということに違いはありませんし、もしもの事があっては教会の威光を貶めることにもなりますので」


聖職者に何かがあれば外部からは教会の影響力が落ちていると思われ、それによって教会の評価も落ちるということだろう。

ならばと教会を通して連絡をしようとしたところ、視界外からそのセリアの声が聞こえてきた。


「お、おはようございます……」


その気不味そうな挨拶に俺達が返事をすると、彼女はやはり気不味そうな顔で以前打ち合わせをした別館へ案内する。




「今日遅かったのは実家から来たからか?」

「それはその……それもあるのですが、想定外の事が起こりまして……」


移動中に俺の声についての説明をし、目的の部屋に入った。

話す内容を可能な限り外部に漏らさないためか、俺達は奥の席に座らされる。


「想定外って?」


姿と声を"コージ"に戻した俺がそう尋ね、それに対してセリアは言いづらそうに答えた。


「貴方に同行するのなら、今後はダンジョンに滞在する時間が長くなると思いまして。それを私が家を空けている間に母の介護を頼んでいる方へ伝えて、仕事の時間を増やしてもらおうとしたのですが……そうなると当然、報酬の方も増やす必要があります」

「まぁ、そうだろうな。でも前回の金もあるだろうし、今後も同じかそれ以上に渡すつもりだから問題はないんじゃないか?」

「あ、はい。そう思って報酬の値上げで話はまとまったのですが……問題はその後でして」

「何があったの?」


イリスの質問にセリアは困ったように返す。


「はい。その方は老齢の女性なのですが、母の事は秘密にしてもらっておりまして。その方のご家族に何をして収入を得ているのかと怪しまれたようで」


その女性が豪遊していたわけではないが、やはり要所要所でお金を使う機会はどうしてもあり、次第にその出所を気にされるようになっていったという。


「それで?」

「その方のご家族が、その方を尾行して私の家まで来てしまったのです。そこでその方だけでは大変だろうと、ご家族の方も分担するとおっしゃったのですが……こちらとしてはそういうわけにもいかず、しばらく押し問答になってしまいまして。とりあえずは今まで通り、その方だけに母の介護をお願いすることになりましたが」


それで今朝は家を出るのが遅くなったのか。

しかし……


「何故秘密にしてるんだ?それでは怪しまれてもおかしくはないし、頼んでいるのが老齢の女性なら体力的にそのご家族と負担を分散したほうが良いんじゃないか?」

「それは……」


俺の指摘にセリアは言い淀むが、意を決して口を開く。

それによって俺とイリスは顔を見合わせることになった。


「その……母の症状は手足が石になってしまうというものでして」

「「っ!?」」


俺達の驚いた様子に、セリアは慌てて言葉を続ける。


「あっ、もちろん他の人に感染ったりはしませんので!ほら、先日裸をお見せしましたけど、そういった部分はなかったでしょう?」


セリアはそう言いながら袖や裾を捲り上げ、その白い肌を見せつけてきた。

それを見たイリスがセリアに問う。


「ということは……それ、病気ではなく呪いよね?」

「……おそらく」

「……」


その返答にイリスは気不味そうな顔をした。

解呪のマジックアイテムが手に入ったとして、それはイリスが持ち帰る予定だからだと思われる。

聞いた限りではセリアの母は貴族でもないし、そのマジックアイテムを購入したことが知られても問題はない。

しかし、売りに出されていたとしても安い物ではないだろうから、セリアがそれを購入するには相当な苦労が必要になるだろう。

イリスの態度はそれを気にしてのものらしい。

イリスの分が手に入っても俺は魔石を稼ぐためにダンジョンへ入るわけだし、イリスがこの街から去った後もセリアに魔石の回収作業をさせて稼がせてもいいのだが……目標額がわからないと報酬の調整もできないし、そもそも在庫があるのかを確認する必要もある。

解呪のマジックアイテムを秘密裏に入手しようとしているのは"貴族が何者かに狙われて呪われた"という事実を隠すためなので、イリスが去った後になら調べてみてもいいか。



しかしまぁ、イリスが解呪したいと言っている貴族の女性と同じ呪いとはな。

呪われたということは、誰かに狙われたのか?

それを他人に知られれば様々な憶測から距離を置かれるだろうし、それで秘密にしていたのだろう。

にしても……そんな偶然があるのだろうか。

気になった俺はセリアに聞く。


「セリア、それはいつそうなったんだ?」

「っ!?」


質問の意図を察したイリスが息を呑んだ。

同じ呪いであれば、犯人も同じである可能性は十分大きい。

もしもそれが同一人物の犯行なら……どちらかがテストで、どちらかが本番だったと思われる。

どちらも本番だった可能性はなくもないが、それを置いておくにしても犯人に繋がる手がかりがあれば今後の犯行を防げるはずだ。

イリスが目的の女性を解呪できても、再び同じ犯人に狙われる可能性がないとも限らないしな。


「ど、どうなの?いつ?」


やや焦ったように聞くイリスへ、セリアは目を閉じて思い出すように頭を傾けた。


「えーっと……暑くなる前でしたから3、4ヶ月前ですね」

「っ!」


それを聞いてイリスは目を鋭くする。

これは……イリスのほうが後か。

そうなると同一犯だった場合はイリスの件が本命で、セリアの母は実験台として巻き込まれた可能性が大きくなるな。


「え?あの……その時期が何か?」

「いえ、似たような話を聞いたことがあるから少し気になっただけよ」

「は、はあ……」


その様子に戸惑うセリアへ、イリスは鋭くしていた目を緩めて申し訳無さそうにしながらも、自分の件との関連性は伏せて答えた。

そこでイリスが口を閉じたので、俺は解呪のマジックアイテムについて遠回しに聞いてみる。

イリスの目的が解呪のマジックアイテムだと知られるのは……色々と不都合が起きるかもしれないからな。


「セリア、呪いを解く方法は探さなかったのか?」

「もちろん探しましたが、衛兵に訴え出るとしても犯人は既に街を出ていると思いまして……」


まぁ、セリアの母親が実験台だとすれば結果が分かり次第離れるだろう。

それを知らなくても、結構な重罪らしい罪を犯した者が犯行現場である土地に長く留まるとは考えにくい。


「それに母の体裁を気にして呪われたことを口外したくなかったので、解呪のマジックアイテムも密かに探しました。でも……」

「今のところは見つかっていない、と。それで自分の治癒魔法に賭けたのか」

「ええ……」


そう言葉を引き継いだ俺にセリアは頷くと座る場所を椅子から床に変え、申し訳無さそうにこんな事を言い出した。


「それでその……先日、魔法の触媒を少ししかお持ちしなかったのは、罰として従属する契約をすることで同行する機会を無理矢理増やそうとしたからでして……申し訳ありませんでした」

「ほう」


俺はそれについて詳しい話を聞く。

単純に持ってくる触媒の数を減らしただけでは次に残りを全部持ってこいと言われるだけで、その次にも全部持ってこなければ諦められてダンジョンへ同行する話はそこで打ち切られる可能性が大きい。

そうなれば能力を成長させる機会は大手のカンパニーに身を委ねることでしか得られず、大勢の男を相手にすることとなるであろうそれは母親に止められていた。

教会の威光で手を出されにくい聖職者とはいえ、目的があって自らというのであれば……普段は手を出せない立場の相手だけあって、間違いなく多くの男がを希望するだろうからな。

ならばと考えたのが俺に従属することであり、そのためにわざと魔法の触媒を少ししか持ってこなかったのだそうだ。

初日に俺が1人で十分な量の魔石を稼いできたのを見ていて、相手が1人で済むのならばと考えていたらしい。

わざとやらかして強固な関係を狙う、か。

関係を絶たれる可能性のほうが大きかったはずだが……上手く行けばただの同行者よりは深い関係になれるだろうし、その可能性に賭けたのかな。

聖職者を必要としていなかった俺に対しては、そのほうが上手く行くかもしれないと考えたようだ。

まんまとハメられたわけだし、今後は気をつけるとしよう。


「あの、本当にいつでもお相手しますので、契約の解除だけはご容赦いただけると……」


黙り込んでそんな事を考えていた俺にセリアは不安を覚えたのか、そう言いながらすり寄ってきて膝に手を掛けてきた。

その視線から何をしようとしているのかを察するが、それに応じるかどうかはともかく1つ確認をしておくことがある。


「何故、今の段階で白状したんだ?ヤることをヤッてからのほうが可能性は小さかっただろうに」


肉体関係を持ってからであれば、多少なりとも情が湧いていただろうからな。

その質問に対し、セリアは自嘲気味に答えた。


「それは……ここまでやっておいて言うのも何ですが、余地をすべて潰してしまうのは気が咎めまして。まぁ、あくまでも私の気が楽になるからですし、最悪なっても母には内緒で大手のカンパニーに取り入ればいいことですから」


何と言うか、断る余地を残そうとしたのはイリスに似ているな。

まぁ、イリスの方はヤッてからでも断れる感じではあったが。

それはさておき、セリアの処遇をどうするかだが……俺はそれを本人に伝える。


「まぁ、別にいいか。ダンジョンの中で見せたとおり、1人増えたぐらいならどうとでもなるからな」


根っからの悪人というわけでもなく、イリスと行動を共にするのなら護衛の負担もそこまで増えはしないだろう。

魔力の消費量は増えるだろうけど、そのぶん稼げば済む話だ。

触媒の件についても、小出しにとは言え全部持ってくるつもりではあったようだしな。

俺のその裁定にセリアは頭を下げる。


「……ありがとうございます」

「あ、だからといって似たような境遇の人を呼び込むなよ?これはイリスもな」

「ええ」
「はい」


2人が増やすとは思わないが、他にも同様の事例があるかもしれず関わりかねない。

そうなると俺は増やしてしまう可能性があるから言っておいたという部分もあったりする。

一応の忠告へ2人は同時に了承し、とりあえずこの件は一段落着いたので……俺は本題である、"銀蘭"の拠点に滞在してもらう件について話をしたのだった。
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