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140 ささやかな欲求
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「なあ、どこのサービスエリア寄る? 昼飯の事考えると……必然的にこの辺りになるか? 混んでなけりゃの話だけど」
「この時間でも、混むのか」
「だって正月早々だぞ?」
それを見込んで、早朝というか深夜というか……そんな時間に出たわけだけど。
まだ暗い高速道路に、車影は少ない。
なんか、すげえ静かだ。
車のエンジン音が、こんなに聞こえる。
……いいな。こういうの。
随分早起きの、この気怠さも。
顔を動かさないように、そっと隣の男を窺った。
いつも変わらぬ精悍な男前。
右手をハンドルに、ゆったりシートに体を預けて。
力の抜けた左手が、腿の上にある。
ふっと浮かんだ考えに、思わず窓の外へ視線を移した。
……さすがに、それはない。
ちょっと、朝霧の雰囲気に引っ張られすぎだ。
バレないように息を吐くと、ふわ、と髪に何かが触れて肩が跳ねた。
「……悪い。眠いか? 寝ていいぞ。道はナビで分かる」
「いや、さすがに運転させて寝てんのは、ちょっとなあ」
「気にするな。俺も好きにする」
……何を? なんて引っかかってしまったのは、気にしすぎだろうか。
いや、でも、お前……つい先日ああいう……。
いやいや、普通は好きに過ごすって意味だろ。これは俺が深読みしすぎで……!
一瞬のうちに色々考えてしまった俺は、朝霧がにやついていることに気が付いて、カッと顔を熱くした。
クソ、引っかかった……わざと変な言い方しやがった。
「お前、性格悪いよな……」
「そうか? お前には素直だと思うが」
「素直と性格良いは、比例しねえってよく分かった」
笑う朝霧の手が、俺の髪を撫でたままなんだけど。
不貞腐れて、後頭部で潰してやった。
「触んな、勝手に」
「今は、いいだろ」
「なんでだよ……意味わかんねえ」
「お前を怖がらせない」
……それは、そう。
後頭部をすり抜けた手が、するりと首を撫でても。
左側へ滑って撫で上げ、耳に触れて俺を暴れさせても。
怖くはない。
だって、運転中だし。
「やめろ! も、とりあえずやめろ!!」
「ダメか」
「ダメに決まってんだろ?!」
やめろ、俺が、俺の方が……!
ぞくぞくする身体に堪らず、好き放題する左手を捕まえて、朝霧を睨みつけた。
正面を向いたままの朝霧が、ちら、と俺を見て笑う。
「いい方法がある」
「……何だよ」
絶対、絶対いい方法じゃねえと思いつつ、一応聞いてやる。
「お前の右手で、俺の手をしっかり押さえていればいい。寝ても、大丈夫だ」
「……」
ほらな、ろくでもない。
どうぞ、と言わんばかりに大きく開いた手の平が、ちょいちょいと指で招く。
こいつは、本当に……。
俺をからかう朝霧の、腹の立つ顔。
鼻を明かしてやろうと思ったのと、それと――
「――ッ」
ビクっと、跳ねた朝霧に思わず会心の笑みを向けた。
「確かに? お前の手は動かねえようにしといた方が、よさそうだ」
さらにぐっと握り込んでやったら、面白いほど狼狽えた朝霧が、事故りそうで笑えない。
両手の塞がった朝霧は、顔を隠すことも、逸らすこともできねえからな。
なんでお前、このくらいでそんな顔すんの。
普段、俺に何してるか分かってんの?
「…………ナオ」
「何だよ」
「すげえ汗かく」
真冬にお前、何言ってんだ。
乙女みたいなことを言い出した朝霧に、思い切り吹き出した。
でも、離してやらない。
お前の手、捕まえとかなきゃだしな。
「目ぇ覚めていいんじゃね?」
「……絶対寝ない」
すげえ、一石二鳥だ。
なんだかんだ、絶対に手を動かさない朝霧が可笑しい。
嫌なら、手を引けばいい。俺、お前みたいに力ねえから。
でかい手だ。
彼女とは比べようもない、その感触。
固くて、ゴツゴツして、相変わらず荒れている。
「お前、ハンドクリームは?」
「塗ってない」
「せっかくもらったんだから、ちゃんと塗れよ」
「ああ……」
どこか上の空で返事をする朝霧を眺めて、握り込んだ自分の手を見て。
ひそかに笑う。
お前、墓穴を掘ったな。
上手い具合に叶った俺のささやかな欲求に、たまらなく満足した。
さすがに、ない、と思ったんだけどな。
……触りてえな、とか。
「この時間でも、混むのか」
「だって正月早々だぞ?」
それを見込んで、早朝というか深夜というか……そんな時間に出たわけだけど。
まだ暗い高速道路に、車影は少ない。
なんか、すげえ静かだ。
車のエンジン音が、こんなに聞こえる。
……いいな。こういうの。
随分早起きの、この気怠さも。
顔を動かさないように、そっと隣の男を窺った。
いつも変わらぬ精悍な男前。
右手をハンドルに、ゆったりシートに体を預けて。
力の抜けた左手が、腿の上にある。
ふっと浮かんだ考えに、思わず窓の外へ視線を移した。
……さすがに、それはない。
ちょっと、朝霧の雰囲気に引っ張られすぎだ。
バレないように息を吐くと、ふわ、と髪に何かが触れて肩が跳ねた。
「……悪い。眠いか? 寝ていいぞ。道はナビで分かる」
「いや、さすがに運転させて寝てんのは、ちょっとなあ」
「気にするな。俺も好きにする」
……何を? なんて引っかかってしまったのは、気にしすぎだろうか。
いや、でも、お前……つい先日ああいう……。
いやいや、普通は好きに過ごすって意味だろ。これは俺が深読みしすぎで……!
一瞬のうちに色々考えてしまった俺は、朝霧がにやついていることに気が付いて、カッと顔を熱くした。
クソ、引っかかった……わざと変な言い方しやがった。
「お前、性格悪いよな……」
「そうか? お前には素直だと思うが」
「素直と性格良いは、比例しねえってよく分かった」
笑う朝霧の手が、俺の髪を撫でたままなんだけど。
不貞腐れて、後頭部で潰してやった。
「触んな、勝手に」
「今は、いいだろ」
「なんでだよ……意味わかんねえ」
「お前を怖がらせない」
……それは、そう。
後頭部をすり抜けた手が、するりと首を撫でても。
左側へ滑って撫で上げ、耳に触れて俺を暴れさせても。
怖くはない。
だって、運転中だし。
「やめろ! も、とりあえずやめろ!!」
「ダメか」
「ダメに決まってんだろ?!」
やめろ、俺が、俺の方が……!
ぞくぞくする身体に堪らず、好き放題する左手を捕まえて、朝霧を睨みつけた。
正面を向いたままの朝霧が、ちら、と俺を見て笑う。
「いい方法がある」
「……何だよ」
絶対、絶対いい方法じゃねえと思いつつ、一応聞いてやる。
「お前の右手で、俺の手をしっかり押さえていればいい。寝ても、大丈夫だ」
「……」
ほらな、ろくでもない。
どうぞ、と言わんばかりに大きく開いた手の平が、ちょいちょいと指で招く。
こいつは、本当に……。
俺をからかう朝霧の、腹の立つ顔。
鼻を明かしてやろうと思ったのと、それと――
「――ッ」
ビクっと、跳ねた朝霧に思わず会心の笑みを向けた。
「確かに? お前の手は動かねえようにしといた方が、よさそうだ」
さらにぐっと握り込んでやったら、面白いほど狼狽えた朝霧が、事故りそうで笑えない。
両手の塞がった朝霧は、顔を隠すことも、逸らすこともできねえからな。
なんでお前、このくらいでそんな顔すんの。
普段、俺に何してるか分かってんの?
「…………ナオ」
「何だよ」
「すげえ汗かく」
真冬にお前、何言ってんだ。
乙女みたいなことを言い出した朝霧に、思い切り吹き出した。
でも、離してやらない。
お前の手、捕まえとかなきゃだしな。
「目ぇ覚めていいんじゃね?」
「……絶対寝ない」
すげえ、一石二鳥だ。
なんだかんだ、絶対に手を動かさない朝霧が可笑しい。
嫌なら、手を引けばいい。俺、お前みたいに力ねえから。
でかい手だ。
彼女とは比べようもない、その感触。
固くて、ゴツゴツして、相変わらず荒れている。
「お前、ハンドクリームは?」
「塗ってない」
「せっかくもらったんだから、ちゃんと塗れよ」
「ああ……」
どこか上の空で返事をする朝霧を眺めて、握り込んだ自分の手を見て。
ひそかに笑う。
お前、墓穴を掘ったな。
上手い具合に叶った俺のささやかな欲求に、たまらなく満足した。
さすがに、ない、と思ったんだけどな。
……触りてえな、とか。
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