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15 隠し撮り
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パシャ、と響いた音に、あぐらを組んで洗濯を畳んでいた朝霧が振り向いた。
俺は、何食わぬ顔でスマホをポケットに入れる。
「……なんだ?」
「何でもない」
「じゃあ何で撮った?」
こっそり撮ろうと思ったけど、やっぱバレるよな。開き直った俺は、堂々と朝霧の近くまで行くと、もう一枚撮った。
「おい、なんで撮る?」
「ロリダのチョコのために」
「何の話だ」
こっちの話なんで、お気になさらず。朝霧の警戒を解くよう俺もリビングに座り込んで、適当な雑誌に手を伸ばした。
不審げな顔をしつつ朝霧が横を向いた瞬間、サッとスマホを取り出して……
ガチッとその手を掴まれた。くそ、ギリギリ射程外にいたはずなのに……アスリートの反射神経半端ない。
「ちょっと朝霧君、どういうつもり~?」
「それはこっちのセリフだな」
「うわっ、ちょっと」
スマホごと腕を引き寄せられ、ずずーっと簡単に尻が滑っていく。馬鹿力め!
「あ、こら消すな消すな! 俺のロリダが!」
「だから何だ、ロリダって」
スマホを取り上げられた俺は、一応手を伸ばしたものの、朝霧のリーチで遠ざけられたら全然届かない。というか朝霧の手から取り返せる気はしない。
渋々カバンに手を伸ばし、ロリダのチョコを取り出した。
「朝霧くぅん、あーん。……おい、出すなよ? 高級チョコだから」
「……高級チョコなら普通に食いたい」
朝霧の口に無理矢理チョコを突っ込むと、すげえ迷惑そうな顔でこっちを見ている。
「食ったな? それは報酬の前払いだ。七瀬さんにお前の写真を送らねばならない」
「なんで七瀬さんに?」
「知らねえよ、もしかしたらアレだ、仕事に使うかもしれねえし?」
主に仕事中の癒やしとして。
適当なことを言ったのに、朝霧はそうかと頷いた。
「なら、普通に撮れ」
「あれ? 朝霧って写真とか平気なタイプ?」
「別に……雑誌とか、撮影とか結構ある」
あ、ああ~! そっか、こいつ結構有名人だった! 撮影ぐらい慣れてるわ!
「お前、普段そんなに写真撮られんの?」
「そんなにはない。会社のHPとか……」
「あー、アスリートのページあったな」
そのまま自社HPを確認すると、確かにアスリートページに活動内容的な定期報告が上がっている。
あと、選手紹介があるから、朝霧も載っている。
「お前、愛想わる~」
「よく言われる」
「なんでこんな表情硬いの」
「いつも通りだ」
写真になると、他の人が爽やかな笑顔だけに無表情が目立つな。
たまに載っている練習風景も、おそらく人気選手をメインで撮りたいんだろうなという意思が感じられる。感じられるけれど、朝霧の表情が硬いもんだから、なんかこうピリピリオーラ漂う写真で微妙になってしまう。まあね、練習風景なんだからそういうもんかもしれないけど。
「へー、水着の写真ってあんま載ってないんだな」
プール写真の場合は基本遠景というか、個別でアップにしないように配慮しているらしい。
女性選手への配慮だろうか。朝霧だと、水着姿があるだけですげえ話題になりそうだと思ったんだけど。
「『大事に使う』と言っていた」
「ははっ! 出し惜しみしてんだ。まあこのHPって大してアクセスねえし、ここに使うのは勿体ない気はするよな」
「何が勿体ないんだ」
無頓着な朝霧君には分かんないかもしれないねえ。だけど、広報の一員としては大いに頷ける。
価値はしっかり高めてしかるべき時に出さなくては。
「それは、何に使う写真なんだ」
「知らねえって、何かの参考とか? 何気ない普段の様子がいいって言ってたから、こっち向くな。何かに使う時には声かかるんじゃねえ?」
言いながら取り返したスマホでパシャリとやる。こういうのは、少しずつが効果的なんだ。いきなりたくさん渡してはいけない。朝霧の顔が分かるかどうか、くらいでいいだろう。
撮れ高を確認して画像の補正などしていた時、パシャリと音がした。
「あ?! お前、なんで俺を撮るんだよ!」
「佐藤が俺を撮るから」
「俺は七瀬さんに渡す必要があんの! 朝霧が俺の写真撮ってどうすんだよ!」
「……七瀬さんに渡す?」
「突き返されるわ!!」
可哀想なオレの画像! そんな酷い目に合わさないで!
消してやろうと飛びかかると、朝霧がスッと後ろに身体を倒れ込ませて俺の顔を掴んだ。……で、パシャリ。
「おおおお前! 今の画像絶対誰にも見せんな?! 絶対だぞ?!」
こんな不自然な腹筋崩壊体勢だというのに、朝霧は俺を押しやったまま、撮った画像に吹き出している。
「佐藤にもやる」
「いりませんけどぉ?!」
そう言いつつ手を振り払い、通知音の鳴ったスマホを慌てて確認した。
「野郎……」
そこにはバッチリと、朝霧の手で頬を潰され、変顔を晒す俺の画像が。
「これを七瀬さんに」
「見せんな!! 俺の画像じゃロリダもらえねえよ?!」
「別にロリダはいらん」
「じゃあ消せ!!」
散々押し問答したあげく、結局、朝霧の画像を撮ってもいい代わりに、俺の画像も消されることなく朝霧のスマホに保存されてしまった。
くそ、人質をとられてしまった……風呂とか撮ってやろうと思ったのがバレたんだろうか。
もしかしてこれ、毎回俺の写真も……? そんな恐ろしい考えが浮かんで、慌てて思考のすみに追いやったのだった。
俺は、何食わぬ顔でスマホをポケットに入れる。
「……なんだ?」
「何でもない」
「じゃあ何で撮った?」
こっそり撮ろうと思ったけど、やっぱバレるよな。開き直った俺は、堂々と朝霧の近くまで行くと、もう一枚撮った。
「おい、なんで撮る?」
「ロリダのチョコのために」
「何の話だ」
こっちの話なんで、お気になさらず。朝霧の警戒を解くよう俺もリビングに座り込んで、適当な雑誌に手を伸ばした。
不審げな顔をしつつ朝霧が横を向いた瞬間、サッとスマホを取り出して……
ガチッとその手を掴まれた。くそ、ギリギリ射程外にいたはずなのに……アスリートの反射神経半端ない。
「ちょっと朝霧君、どういうつもり~?」
「それはこっちのセリフだな」
「うわっ、ちょっと」
スマホごと腕を引き寄せられ、ずずーっと簡単に尻が滑っていく。馬鹿力め!
「あ、こら消すな消すな! 俺のロリダが!」
「だから何だ、ロリダって」
スマホを取り上げられた俺は、一応手を伸ばしたものの、朝霧のリーチで遠ざけられたら全然届かない。というか朝霧の手から取り返せる気はしない。
渋々カバンに手を伸ばし、ロリダのチョコを取り出した。
「朝霧くぅん、あーん。……おい、出すなよ? 高級チョコだから」
「……高級チョコなら普通に食いたい」
朝霧の口に無理矢理チョコを突っ込むと、すげえ迷惑そうな顔でこっちを見ている。
「食ったな? それは報酬の前払いだ。七瀬さんにお前の写真を送らねばならない」
「なんで七瀬さんに?」
「知らねえよ、もしかしたらアレだ、仕事に使うかもしれねえし?」
主に仕事中の癒やしとして。
適当なことを言ったのに、朝霧はそうかと頷いた。
「なら、普通に撮れ」
「あれ? 朝霧って写真とか平気なタイプ?」
「別に……雑誌とか、撮影とか結構ある」
あ、ああ~! そっか、こいつ結構有名人だった! 撮影ぐらい慣れてるわ!
「お前、普段そんなに写真撮られんの?」
「そんなにはない。会社のHPとか……」
「あー、アスリートのページあったな」
そのまま自社HPを確認すると、確かにアスリートページに活動内容的な定期報告が上がっている。
あと、選手紹介があるから、朝霧も載っている。
「お前、愛想わる~」
「よく言われる」
「なんでこんな表情硬いの」
「いつも通りだ」
写真になると、他の人が爽やかな笑顔だけに無表情が目立つな。
たまに載っている練習風景も、おそらく人気選手をメインで撮りたいんだろうなという意思が感じられる。感じられるけれど、朝霧の表情が硬いもんだから、なんかこうピリピリオーラ漂う写真で微妙になってしまう。まあね、練習風景なんだからそういうもんかもしれないけど。
「へー、水着の写真ってあんま載ってないんだな」
プール写真の場合は基本遠景というか、個別でアップにしないように配慮しているらしい。
女性選手への配慮だろうか。朝霧だと、水着姿があるだけですげえ話題になりそうだと思ったんだけど。
「『大事に使う』と言っていた」
「ははっ! 出し惜しみしてんだ。まあこのHPって大してアクセスねえし、ここに使うのは勿体ない気はするよな」
「何が勿体ないんだ」
無頓着な朝霧君には分かんないかもしれないねえ。だけど、広報の一員としては大いに頷ける。
価値はしっかり高めてしかるべき時に出さなくては。
「それは、何に使う写真なんだ」
「知らねえって、何かの参考とか? 何気ない普段の様子がいいって言ってたから、こっち向くな。何かに使う時には声かかるんじゃねえ?」
言いながら取り返したスマホでパシャリとやる。こういうのは、少しずつが効果的なんだ。いきなりたくさん渡してはいけない。朝霧の顔が分かるかどうか、くらいでいいだろう。
撮れ高を確認して画像の補正などしていた時、パシャリと音がした。
「あ?! お前、なんで俺を撮るんだよ!」
「佐藤が俺を撮るから」
「俺は七瀬さんに渡す必要があんの! 朝霧が俺の写真撮ってどうすんだよ!」
「……七瀬さんに渡す?」
「突き返されるわ!!」
可哀想なオレの画像! そんな酷い目に合わさないで!
消してやろうと飛びかかると、朝霧がスッと後ろに身体を倒れ込ませて俺の顔を掴んだ。……で、パシャリ。
「おおおお前! 今の画像絶対誰にも見せんな?! 絶対だぞ?!」
こんな不自然な腹筋崩壊体勢だというのに、朝霧は俺を押しやったまま、撮った画像に吹き出している。
「佐藤にもやる」
「いりませんけどぉ?!」
そう言いつつ手を振り払い、通知音の鳴ったスマホを慌てて確認した。
「野郎……」
そこにはバッチリと、朝霧の手で頬を潰され、変顔を晒す俺の画像が。
「これを七瀬さんに」
「見せんな!! 俺の画像じゃロリダもらえねえよ?!」
「別にロリダはいらん」
「じゃあ消せ!!」
散々押し問答したあげく、結局、朝霧の画像を撮ってもいい代わりに、俺の画像も消されることなく朝霧のスマホに保存されてしまった。
くそ、人質をとられてしまった……風呂とか撮ってやろうと思ったのがバレたんだろうか。
もしかしてこれ、毎回俺の写真も……? そんな恐ろしい考えが浮かんで、慌てて思考のすみに追いやったのだった。
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