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窓から差し込む晴れやかな光。
スズメたちが生命の賛歌を奏でる、冴え冴えとした冬の朝。
「……くそ」
すっかり明るい室内でのろのろと身体を起こし、爽やかな空気から隠れるように顔を覆った。
……やってしまった。
これでもう、あいつの中で俺は酒に弱いやつ確定。
残念なことに記憶はしっかり残っている。いっそ、もっとたくさん飲んで記憶を飛ばしておけばよかった。いや、朝霧がいるとそれができないんだよな。
正直、俺もあの程度であんだけ酔うと思ってなくてビックリだわ。
もしかして俺、結構弱いのか……?
失意に足取りも重くキッチンへ向かい、片付け終わった光景を見て再び凹む。
今日が休みだという、気の緩みがあったからだろうか。
きっと疲れていたから……とは言えない定時帰りが今は辛い。
普段飲み会ではビールが基本だったし、色々飲んだチューハイがダメだったんだろうか。
ひとり悶々としながら、コーヒーをすすった。
朝霧も休みのはずだが、当然ながらいない。
アスリートってやつは本当にストイックだ。いや、朝霧がストイックなのか。
……それに比べて俺は、なんて再びネガティブに傾く気分が煩わしい。
もう一度ため息をついたところで、隣の席に座るカバンに気がついた。
ばらまかれていた中身は、まとめてカバンの上に置いてある。
寝落ちする直前の記憶を思い出し、再び両手で顔を覆った。
「チョコチョコって何言ってんだよ俺……! そこまでチョコに執着ねえわ!」
めちゃくちゃスイーツ好き女子みたいになってんじゃねえか!
違うんだ! たまたま、酔っ払いの脳内に直近の出来事がインプットされていただけで!
くそ、どうすんだ……朝霧が同情の目でいっぱいチョコ買ってきたら。
赤面を誤魔化すように、ロリダのチョコを口に放り込んだ。
コーヒーに染まった口の中へ、上品な洋酒の香りと甘みが広がっていく。
うん、まあチョコは普通に好きだ。朝霧が勘違いして買ってくるなら、それはそれでやぶさかではない。
しかしやはり高級品は違う。
一粒で上向いた機嫌に、単純な自分が少々情けない気もしつつ、冊子を手に取った。
昨日七瀬さんがくれた資料。表紙の洒落た英字は『ナチュラル・フィット』と読むんだろうか。デザイン的に、明らかに夏号だろう。多分、女性向けの健康志向や美容系の雑誌だ。
家電特集でも組まれていたかな、と何気なく表紙の特集タイトルに目を走らせ、引きつった。
『健康美を磨く、アスリートのヒント 競泳:朝霧 涼 選手』
一気に喉が干上がった。
息を詰めて該当ページを開いた途端、飛び込んでくる見慣れた横顔。
「うっそだろ七瀬さん……参考ってコッチかよ!! こんなもん朝霧に見られたら――」
自分が特集されている雑誌を大事に持っている同居人の男……嫌すぎる!!
ど、どうする? 捨てるのもさすがに……! 捨ててあるのを発見される方が、なんか嫌だ。
雑誌を手に一人焦って、はたと気がついた。
この雑誌、カバンの上に乗ってたよな……??
「ひいぃ?! ヤバい、どうしよ、これはマズいぞ?!」
つまり、つまりは既に朝霧に見られたということで……!!
いや、朝霧のことだ、自分の掲載誌だと気付いてないかもしれない。
いやいや、芸能人でもなし、いくら朝霧でも特集された雑誌なんてそうそうないはず、自分が載っている雑誌を覚えていないことなんてあるか?!
無意識に、既に空のカップを呷った。
だ、大丈夫、さらっと言えばいい。七瀬さんから無理矢理押しつけられたと、上司を生け贄にすれば良い。
……そうだ、仕事だ。
実際、これは広報課の仕事だったんだろう。俺が持っていることに、何らおかしなことはない。
少し落ち着いて、改めて誌面を見下ろした。
プールやジムをバックに、スポーツウェア姿の朝霧のカットが、これでもかと並んでいる。
「……無愛想じゃね?」
普通こういうのって、クールでイケメン! を押し出しつつも、最後にこう……笑顔だとか、ちょっと印象を変えるカットを入れる構成にすべきじゃねえ?
しかも、隠し撮りですか? レベルに視線がこちらを向いていないものばかり。
分かる、分かるとも。きっと、真正面からの視線はキツすぎたんだろう。これなら、ギリギリ『……怒ってます?』という雰囲気はない。あくまで、クールでストイックの範囲内だ。
苦労したんだろうな、担当さん。
笑わない朝霧に半泣きになっている方々が目に見えるよう。
女性誌にあの強面はなくていい。キリッ、というレベルではないからな。
逆に、男性誌ならアリかもしれないな。甘いマスクのイケメンってさあ、腹立つし。
その点、朝霧は普段甘い雰囲気がない分――
ない、か?
ふと引っかかってしまった。
あいつ、緩んだ顔は結構……。
俺はまた空のカップに手を伸ばして、苦笑した。
朝霧は、笑うぞ。
案外世話好きで、おせっかいで、無頓着で、俺をからかっていらつかせたりもする。
誌面からバチバチに感じるストイックさだけじゃない、アスリートじゃない朝霧。
そこが見えないのは、何となく不満だった。
「ふむ……」
もし、俺が朝霧を使った広報・PRを考えるならどうするか。
俺はキッチン家電担当だから、朝霧を使うならミキサーのPRなんてどうだろう。
ヘルシージュースのレシピとセットにして、朝霧の健康的……と言うにはやりすぎな身体を存分に活かしてもらって。
ただ、問題はひとつ。
ジュース片手に、無表情で突っ立つ朝霧しか思い浮かべられない。
爽やかな笑みとか、無理無理。
ウチがトレーニング機器や下着メーカーだったら、もっと活躍できたろうに。
「朝霧……」
ちょっとため息を吐いた。
こんなにいい素材のくせに、なんて使いにくいヤツなんだ。
「なんだ?」
呼んでねえよ、ただの――
ピタリ、と俺の呼吸まで止まった。
静かな低い声。今、ここで聞くはずのない……。
スズメたちが生命の賛歌を奏でる、冴え冴えとした冬の朝。
「……くそ」
すっかり明るい室内でのろのろと身体を起こし、爽やかな空気から隠れるように顔を覆った。
……やってしまった。
これでもう、あいつの中で俺は酒に弱いやつ確定。
残念なことに記憶はしっかり残っている。いっそ、もっとたくさん飲んで記憶を飛ばしておけばよかった。いや、朝霧がいるとそれができないんだよな。
正直、俺もあの程度であんだけ酔うと思ってなくてビックリだわ。
もしかして俺、結構弱いのか……?
失意に足取りも重くキッチンへ向かい、片付け終わった光景を見て再び凹む。
今日が休みだという、気の緩みがあったからだろうか。
きっと疲れていたから……とは言えない定時帰りが今は辛い。
普段飲み会ではビールが基本だったし、色々飲んだチューハイがダメだったんだろうか。
ひとり悶々としながら、コーヒーをすすった。
朝霧も休みのはずだが、当然ながらいない。
アスリートってやつは本当にストイックだ。いや、朝霧がストイックなのか。
……それに比べて俺は、なんて再びネガティブに傾く気分が煩わしい。
もう一度ため息をついたところで、隣の席に座るカバンに気がついた。
ばらまかれていた中身は、まとめてカバンの上に置いてある。
寝落ちする直前の記憶を思い出し、再び両手で顔を覆った。
「チョコチョコって何言ってんだよ俺……! そこまでチョコに執着ねえわ!」
めちゃくちゃスイーツ好き女子みたいになってんじゃねえか!
違うんだ! たまたま、酔っ払いの脳内に直近の出来事がインプットされていただけで!
くそ、どうすんだ……朝霧が同情の目でいっぱいチョコ買ってきたら。
赤面を誤魔化すように、ロリダのチョコを口に放り込んだ。
コーヒーに染まった口の中へ、上品な洋酒の香りと甘みが広がっていく。
うん、まあチョコは普通に好きだ。朝霧が勘違いして買ってくるなら、それはそれでやぶさかではない。
しかしやはり高級品は違う。
一粒で上向いた機嫌に、単純な自分が少々情けない気もしつつ、冊子を手に取った。
昨日七瀬さんがくれた資料。表紙の洒落た英字は『ナチュラル・フィット』と読むんだろうか。デザイン的に、明らかに夏号だろう。多分、女性向けの健康志向や美容系の雑誌だ。
家電特集でも組まれていたかな、と何気なく表紙の特集タイトルに目を走らせ、引きつった。
『健康美を磨く、アスリートのヒント 競泳:朝霧 涼 選手』
一気に喉が干上がった。
息を詰めて該当ページを開いた途端、飛び込んでくる見慣れた横顔。
「うっそだろ七瀬さん……参考ってコッチかよ!! こんなもん朝霧に見られたら――」
自分が特集されている雑誌を大事に持っている同居人の男……嫌すぎる!!
ど、どうする? 捨てるのもさすがに……! 捨ててあるのを発見される方が、なんか嫌だ。
雑誌を手に一人焦って、はたと気がついた。
この雑誌、カバンの上に乗ってたよな……??
「ひいぃ?! ヤバい、どうしよ、これはマズいぞ?!」
つまり、つまりは既に朝霧に見られたということで……!!
いや、朝霧のことだ、自分の掲載誌だと気付いてないかもしれない。
いやいや、芸能人でもなし、いくら朝霧でも特集された雑誌なんてそうそうないはず、自分が載っている雑誌を覚えていないことなんてあるか?!
無意識に、既に空のカップを呷った。
だ、大丈夫、さらっと言えばいい。七瀬さんから無理矢理押しつけられたと、上司を生け贄にすれば良い。
……そうだ、仕事だ。
実際、これは広報課の仕事だったんだろう。俺が持っていることに、何らおかしなことはない。
少し落ち着いて、改めて誌面を見下ろした。
プールやジムをバックに、スポーツウェア姿の朝霧のカットが、これでもかと並んでいる。
「……無愛想じゃね?」
普通こういうのって、クールでイケメン! を押し出しつつも、最後にこう……笑顔だとか、ちょっと印象を変えるカットを入れる構成にすべきじゃねえ?
しかも、隠し撮りですか? レベルに視線がこちらを向いていないものばかり。
分かる、分かるとも。きっと、真正面からの視線はキツすぎたんだろう。これなら、ギリギリ『……怒ってます?』という雰囲気はない。あくまで、クールでストイックの範囲内だ。
苦労したんだろうな、担当さん。
笑わない朝霧に半泣きになっている方々が目に見えるよう。
女性誌にあの強面はなくていい。キリッ、というレベルではないからな。
逆に、男性誌ならアリかもしれないな。甘いマスクのイケメンってさあ、腹立つし。
その点、朝霧は普段甘い雰囲気がない分――
ない、か?
ふと引っかかってしまった。
あいつ、緩んだ顔は結構……。
俺はまた空のカップに手を伸ばして、苦笑した。
朝霧は、笑うぞ。
案外世話好きで、おせっかいで、無頓着で、俺をからかっていらつかせたりもする。
誌面からバチバチに感じるストイックさだけじゃない、アスリートじゃない朝霧。
そこが見えないのは、何となく不満だった。
「ふむ……」
もし、俺が朝霧を使った広報・PRを考えるならどうするか。
俺はキッチン家電担当だから、朝霧を使うならミキサーのPRなんてどうだろう。
ヘルシージュースのレシピとセットにして、朝霧の健康的……と言うにはやりすぎな身体を存分に活かしてもらって。
ただ、問題はひとつ。
ジュース片手に、無表情で突っ立つ朝霧しか思い浮かべられない。
爽やかな笑みとか、無理無理。
ウチがトレーニング機器や下着メーカーだったら、もっと活躍できたろうに。
「朝霧……」
ちょっとため息を吐いた。
こんなにいい素材のくせに、なんて使いにくいヤツなんだ。
「なんだ?」
呼んでねえよ、ただの――
ピタリ、と俺の呼吸まで止まった。
静かな低い声。今、ここで聞くはずのない……。
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