佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

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ま、まあ確かに? こうやって同居してんだからな。
今の朝霧にとって、一番近しいのは……そうか、俺か。

なんか、当たり前と言えば当たり前のことを、改めて思い知った気がした。

ちら、と見上げた朝霧は、3つめ……いや4つめ? のバーガーをもりもり食っている。
なんとなく、雑誌を引き寄せ朝霧のページを開いた。
こんな、クールでストイックで、この世にすら興味なさそうなアスリートが。
ここに掲載されている男が、今、目の前でバーガー食ってる。

「見るな」

雑誌を見て、朝霧を見……ようとして顔面を鷲掴まれた。

「ちょっ……」

振り払った手は案外すんなり離れて行ったけれど、俺の手元にはもう雑誌がなかった。
自分の椅子の背に雑誌を隠した朝霧が可笑しくて、声をあげて笑う。

「七瀬さんに渡す写真とか気にしねえのに? なんでこれはそんな嫌がんだよ」
「俺はこんなじゃない」
「お前はこんなだよ、何言ってんだ」

むくれる朝霧が珍しくて、つい話題を掘り下げたくなる。
正直、朝霧のカットはどれも抜群にいい。凛とした空気感が伝わって、背筋の伸びる感じすらする。
何が気に入らないのかサッパリだ。

ふいに朝霧がテーブルに片手をつくと、ぐっとこちらへ身を乗り出した。
怒った……のか?
急な接近に思わず身を固くすると、朝霧の手が俺の横をすり抜け、ポケットから何か抜き取っていった。

「あ……お前、勝手に!」

慌てて伸ばした手がガシリと掴まれ、難なく指紋認証をクリア。
ええ……何なのこの力業。次から暗証番号にしようか。

「何だっつうんだよ! 勝手に見んな!」
「俺の画像を見るだけだ」
「口で言えよ! 実力行使すんな!」

取り返そうとする俺の猛攻を簡単にいなしながら、長い指がスイスイ画面を操作する。
た、多分マズいものはないはず……大丈夫、大丈夫だよな?!
さすがに見られるような場所に、アハンなものはなかったはず!!

「飯が多いな……」
「こ、この! 勝手に見るなら、朝霧のスマホも寄越せよ!」

視線は画面に固定しつつ、朝霧がゴトン、と無造作に俺の前にスマホを置いた。

「え? ……いいの? ロック解除は?」
「かかってない」
「は?! かけろよ?!」

ま、マジでいいのかな……こいつ一応、スキャンダルとかになっちゃうようなヤツなんだけど。
どうしよ、社内不倫の証拠とか掴んじゃったら……。
とか考えつつ、俺は胸を高鳴らせながら素早くスマホを操作する。

甘いぜ朝霧君、お前は画像欄しか見ないだろうが、俺が同じだとは思うなよ?
まずは連絡のやりとり……俺だな。俺と会社しかねえな。
SNS……やってねえな。
ゲームすら入ってねえ。つうかアプリがほとんどねえな?!

こういうムッツリは、動画履歴こそ……『100m自由形 〇〇大会』『200m自由形 〇〇選手』……。
いや、Webだ。Web検索履歴を辿れば……『酒 弱い なぜ』『チューハイ 何本 酔う』『ウズラ うまい 名前』。

俺の額に青筋が浮かぶ。この野郎、検索履歴でも俺を馬鹿にしやがる……! 酒に弱い理由なんて俺が聞きたいわ!
はああ、朝霧君、君にはがっかりだ。コイツ、マジで何を糧に日々生きてんだ。
あと、あとは……もう画像くらいしか……。
まったく期待のできない画像欄を一応開いてみる。
何か分からんデジタルな数字、俺、俺、数字、数字、俺……。

何なんだお前は。この数字はどうせタイムとかだろ。俺と水泳しかねえのか。
舌打ちして毒づきかけて、ハッと気がついた。

「おまっ……朝霧!」
「なんだ?」
「ロック……かけろ。絶対」

鬼気迫る俺の雰囲気に、朝霧が首を傾げる。
だって、これ……見られた場合、死ぬのって俺じゃねえ?! 朝霧も死ぬかもしれねえけど、まず俺が死ぬわ!!

「画像欄、俺ばっかじゃねえか! 連絡取ってんのも俺!」
「確かに?」

しかもそのやり取り、『今日は何食いたい?』とか、『洗剤がない』『洗濯のだよな? OK』とか……ダメだ、これはダメなやつ。見ようによってはアレだ。同棲カップルのソレ。

やばいやばいやばい! 俺がスキャンダル誌に載る!!

「とりあえず、俺の画像を消――あ!」
「ダメだ」

この際、人質になっている俺の画像を片っ端から消してやろうと意気込んだ矢先、ひょいとスマホを取り上げられた。代わりに俺のスマホが返却される。

「なんでだよ! お前も嫌だろ?! 俺ばっかだぞ!」
「別に。なら、お前も俺の消すか?」
「うっ……でも、七瀬さんに……」

しかし、しかしだ。ロリダのチョコのために身は売れない。

「じゃあ……俺が消したら、お前も全部消すか?」
「いや?」
「なんでだよ!!」

地団駄踏む俺を見る朝霧は、大変楽しそうだ。
こいつは結構性格悪いよな! 世間はそういうところもきちんと見るべきだ!


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