佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

文字の大きさ
28 / 164

28 潰したい

しおりを挟む
俺のじっとりした視線もどこ吹く風で、朝霧はスマホ画面に見入っている。
一応言っておくが、それ消せよ? 絶対消せよ?!

「朝霧もやってみろ」
「俺が?」
「嫌そうな顔をするな! 俺だって撮ったんだぞ! 何枚か撮って、それを宮城さんに持っていけ」
「ああ……」

渋々スマホを構えた朝霧が、唐揚げをつまみ上げる。どうやら完全に俺の画像を手本に撮るらしい。素直というか何と言うか……。
そこまで拒否しないのは、ちゃんとアルコール効果が出ている影響な気がする。

「こら、上げんのは目線だけ、顎上げたら印象が全然……」

言ってるそばから簡単にパシャリと一枚撮って、唐揚げを口に放り込んだ。
もっとちゃんとキメて撮れよ……。

「とりあえずさ、どんな角度がいいかわかんねえから、あっちこっちから撮ってみろよ! いいか、色んなやつをまずは10枚だ!」

そう言ってやったら、右手で食ったり飲んだりしつつ、本当に適当に左手で撮っている。お前なあ……世の一般人がどんだけ時間かけて自撮りしてると思ってんだ……!

しかし朝霧の自撮りにかまけていると俺の飯がなくなる。俺も慌ててビール片手に食事に参戦したのだった。



――テーブルの上が寂しくなった頃、ふと見ると、役目は終わったとばかりにテーブルの片隅に置かれているスマホ。

「は? おいおいおい、何放置してんだよ!」
「もう撮ったぞ」
「撮ったじゃねえよ! 確認しろ、編集しろ!!」

思わず引ったくってロックを解除させると、息巻いて画像欄を開いた。
当然ながら、見切れたものが4割。
しかし……

「なんでこんな芸術点が高いんだ……?」

見切れてようが、画面配置がおかしかろうが、画角がデタラメだろうが……何なんだ、この計算しつくされた絵画のような画像たちは。
自然体がいいんだろうか? それともこの薄暗い室内が?
決してイケメンなら全てが許されるわけでは……ない……そんな、無情なことがあってたまるか……と、思いたい。

「それでいいか?」
「知らねえ!」
「なんで怒ってんだ」

軽く笑った朝霧が、いつの間にか開けていたビール缶を呷って飲み干した。
スッと次のビールに伸ばした手の先に、スッとスパークリングワインを割り込ませてみる。
こっちの方が度数が高いから。こっちにしたまえよ。

「……お前、俺を酔わせたいのか?」
「うっ? いや、まあ……? たまには、いっぱい飲むのもいいだろ?!」
「別に、俺は構わないが」

唇を引いて、余裕の笑みが浮かぶ。
朝霧は素直にスパークリングワインを引き寄せ、躊躇なくプルタブを引き起こした。
どことなく気怠い仕草は、大分酔いがまわってるんじゃないだろうか。
そりゃなあ、強いのばっか飲ませてるし。

朝霧が出していた飯を全部食ったので、もう食うな! とチーズばっかり目の前に並べてやった。
おかげで若干物足りないので、冷や飯でチャーハンを作る。どうせこれもお前が食うだろうけどな!

「これ、割りと美味い」
「どれ? そうなのか。俺も飲む」

そう言えば、俺あんまり飲んでねえなとスパークリングワインを手に取った。
お、本当だ、これなら俺も飲める。

「飲むな、もうちょっと起きてろ」
「う、うるせー! 飲むイコール寝るじゃねえわ!」

寄越せ、と向けられた手を無視してワインを手元に確保し、チャーハンを皿に盛った。
これは俺の分だからな?!
抱え込むようにしてスプーンを突っ込み、塩気の強いそれに満足する。
ほぼ肉とネギしか入ってないチャーハンでも、これは酒が進む。

いつの間にか、チーズまで一掃した朝霧が、じっと俺を見ていた。

「お前ってさー、全然顔色変わらねえのな。つまんねえ」
「佐藤は、すぐ赤くなるな。面白いぞ」
「うるせー! お前、いちいち喧嘩売ってんのか?!」
「売ったら、買うか?」
「いらねえ! クーリングオフするわ!」
「それだと、もう買ってるな」

安くしとくぞ、なんて流し目で笑ってワインを飲む朝霧を、じいっと見つめる。
酔ってる……よな? 
なんか、いつもと雰囲気違うし。口数多いし。
酔ったら、こんな風なのか。

……なんか……なんか。落ちつかねー。

ふいに伸びてきた手に、思わずビクッと身体を引いた。
カチャンと鳴った音を気にするでもなく、その手が俺のスプーンを奪う。
すげえ大盛りにすくい取ったスプーンを、思い切り身を乗り出した朝霧が、ばくっと口に入れた。

「あっ……、お……れのだって!」

酒で距離感がバグってるんだろうか。
目の前で、皿に視線を向けている端正な顔。
持ち上がったまぶたが、間近く俺と視線を絡めた。

――怖い。

咄嗟にそう浮かんで、思わず苦笑した。
……確かに、ちょっとそう思ってる。
もしかしてコイツ、普段抑えてんだろうか。この、肉食獣じみた気配を。
朝霧君、飲ませた俺が悪かったから、早く潰れてくれ。

「……食ってもいいか?」

そんなことを考えていたから。そのセリフに飛び上がってしまい、訝しげな顔をされた。
お前、全然分かってねえと思うけど、マジで怖いからな。

「これは俺の!」

せめてもの虚勢を張ってスプーンを取り返し、カラカラになった喉にワインを流し込む。
不服そうな朝霧がちら、とフライパンの方に首を回した。まあ、残ってる分くらい食ってもいいぞ。
頷くと、いそいそフライパンの元へ向かって、そのまま木べらでかき込んでいる。
お前……ワイルドにもほどがあるだろ。

一方の俺は、朝霧との距離が空いたことで、ほっと息を吐いて力を抜いた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...