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28 潰したい
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俺のじっとりした視線もどこ吹く風で、朝霧はスマホ画面に見入っている。
一応言っておくが、それ消せよ? 絶対消せよ?!
「朝霧もやってみろ」
「俺が?」
「嫌そうな顔をするな! 俺だって撮ったんだぞ! 何枚か撮って、それを宮城さんに持っていけ」
「ああ……」
渋々スマホを構えた朝霧が、唐揚げをつまみ上げる。どうやら完全に俺の画像を手本に撮るらしい。素直というか何と言うか……。
そこまで拒否しないのは、ちゃんとアルコール効果が出ている影響な気がする。
「こら、上げんのは目線だけ、顎上げたら印象が全然……」
言ってるそばから簡単にパシャリと一枚撮って、唐揚げを口に放り込んだ。
もっとちゃんとキメて撮れよ……。
「とりあえずさ、どんな角度がいいかわかんねえから、あっちこっちから撮ってみろよ! いいか、色んなやつをまずは10枚だ!」
そう言ってやったら、右手で食ったり飲んだりしつつ、本当に適当に左手で撮っている。お前なあ……世の一般人がどんだけ時間かけて自撮りしてると思ってんだ……!
しかし朝霧の自撮りにかまけていると俺の飯がなくなる。俺も慌ててビール片手に食事に参戦したのだった。
――テーブルの上が寂しくなった頃、ふと見ると、役目は終わったとばかりにテーブルの片隅に置かれているスマホ。
「は? おいおいおい、何放置してんだよ!」
「もう撮ったぞ」
「撮ったじゃねえよ! 確認しろ、編集しろ!!」
思わず引ったくってロックを解除させると、息巻いて画像欄を開いた。
当然ながら、見切れたものが4割。
しかし……
「なんでこんな芸術点が高いんだ……?」
見切れてようが、画面配置がおかしかろうが、画角がデタラメだろうが……何なんだ、この計算しつくされた絵画のような画像たちは。
自然体がいいんだろうか? それともこの薄暗い室内が?
決してイケメンなら全てが許されるわけでは……ない……そんな、無情なことがあってたまるか……と、思いたい。
「それでいいか?」
「知らねえ!」
「なんで怒ってんだ」
軽く笑った朝霧が、いつの間にか開けていたビール缶を呷って飲み干した。
スッと次のビールに伸ばした手の先に、スッとスパークリングワインを割り込ませてみる。
こっちの方が度数が高いから。こっちにしたまえよ。
「……お前、俺を酔わせたいのか?」
「うっ? いや、まあ……? たまには、いっぱい飲むのもいいだろ?!」
「別に、俺は構わないが」
唇を引いて、余裕の笑みが浮かぶ。
朝霧は素直にスパークリングワインを引き寄せ、躊躇なくプルタブを引き起こした。
どことなく気怠い仕草は、大分酔いがまわってるんじゃないだろうか。
そりゃなあ、強いのばっか飲ませてるし。
朝霧が出していた飯を全部食ったので、もう食うな! とチーズばっかり目の前に並べてやった。
おかげで若干物足りないので、冷や飯でチャーハンを作る。どうせこれもお前が食うだろうけどな!
「これ、割りと美味い」
「どれ? そうなのか。俺も飲む」
そう言えば、俺あんまり飲んでねえなとスパークリングワインを手に取った。
お、本当だ、これなら俺も飲める。
「飲むな、もうちょっと起きてろ」
「う、うるせー! 飲むイコール寝るじゃねえわ!」
寄越せ、と向けられた手を無視してワインを手元に確保し、チャーハンを皿に盛った。
これは俺の分だからな?!
抱え込むようにしてスプーンを突っ込み、塩気の強いそれに満足する。
ほぼ肉とネギしか入ってないチャーハンでも、これは酒が進む。
いつの間にか、チーズまで一掃した朝霧が、じっと俺を見ていた。
「お前ってさー、全然顔色変わらねえのな。つまんねえ」
「佐藤は、すぐ赤くなるな。面白いぞ」
「うるせー! お前、いちいち喧嘩売ってんのか?!」
「売ったら、買うか?」
「いらねえ! クーリングオフするわ!」
「それだと、もう買ってるな」
安くしとくぞ、なんて流し目で笑ってワインを飲む朝霧を、じいっと見つめる。
酔ってる……よな?
なんか、いつもと雰囲気違うし。口数多いし。
酔ったら、こんな風なのか。
……なんか……なんか。落ちつかねー。
ふいに伸びてきた手に、思わずビクッと身体を引いた。
カチャンと鳴った音を気にするでもなく、その手が俺のスプーンを奪う。
すげえ大盛りにすくい取ったスプーンを、思い切り身を乗り出した朝霧が、ばくっと口に入れた。
「あっ……、お……れのだって!」
酒で距離感がバグってるんだろうか。
目の前で、皿に視線を向けている端正な顔。
持ち上がったまぶたが、間近く俺と視線を絡めた。
――怖い。
咄嗟にそう浮かんで、思わず苦笑した。
……確かに、ちょっとそう思ってる。
もしかしてコイツ、普段抑えてんだろうか。この、肉食獣じみた気配を。
朝霧君、飲ませた俺が悪かったから、早く潰れてくれ。
「……食ってもいいか?」
そんなことを考えていたから。そのセリフに飛び上がってしまい、訝しげな顔をされた。
お前、全然分かってねえと思うけど、マジで怖いからな。
「これは俺の!」
せめてもの虚勢を張ってスプーンを取り返し、カラカラになった喉にワインを流し込む。
不服そうな朝霧がちら、とフライパンの方に首を回した。まあ、残ってる分くらい食ってもいいぞ。
頷くと、いそいそフライパンの元へ向かって、そのまま木べらでかき込んでいる。
お前……ワイルドにもほどがあるだろ。
一方の俺は、朝霧との距離が空いたことで、ほっと息を吐いて力を抜いた。
一応言っておくが、それ消せよ? 絶対消せよ?!
「朝霧もやってみろ」
「俺が?」
「嫌そうな顔をするな! 俺だって撮ったんだぞ! 何枚か撮って、それを宮城さんに持っていけ」
「ああ……」
渋々スマホを構えた朝霧が、唐揚げをつまみ上げる。どうやら完全に俺の画像を手本に撮るらしい。素直というか何と言うか……。
そこまで拒否しないのは、ちゃんとアルコール効果が出ている影響な気がする。
「こら、上げんのは目線だけ、顎上げたら印象が全然……」
言ってるそばから簡単にパシャリと一枚撮って、唐揚げを口に放り込んだ。
もっとちゃんとキメて撮れよ……。
「とりあえずさ、どんな角度がいいかわかんねえから、あっちこっちから撮ってみろよ! いいか、色んなやつをまずは10枚だ!」
そう言ってやったら、右手で食ったり飲んだりしつつ、本当に適当に左手で撮っている。お前なあ……世の一般人がどんだけ時間かけて自撮りしてると思ってんだ……!
しかし朝霧の自撮りにかまけていると俺の飯がなくなる。俺も慌ててビール片手に食事に参戦したのだった。
――テーブルの上が寂しくなった頃、ふと見ると、役目は終わったとばかりにテーブルの片隅に置かれているスマホ。
「は? おいおいおい、何放置してんだよ!」
「もう撮ったぞ」
「撮ったじゃねえよ! 確認しろ、編集しろ!!」
思わず引ったくってロックを解除させると、息巻いて画像欄を開いた。
当然ながら、見切れたものが4割。
しかし……
「なんでこんな芸術点が高いんだ……?」
見切れてようが、画面配置がおかしかろうが、画角がデタラメだろうが……何なんだ、この計算しつくされた絵画のような画像たちは。
自然体がいいんだろうか? それともこの薄暗い室内が?
決してイケメンなら全てが許されるわけでは……ない……そんな、無情なことがあってたまるか……と、思いたい。
「それでいいか?」
「知らねえ!」
「なんで怒ってんだ」
軽く笑った朝霧が、いつの間にか開けていたビール缶を呷って飲み干した。
スッと次のビールに伸ばした手の先に、スッとスパークリングワインを割り込ませてみる。
こっちの方が度数が高いから。こっちにしたまえよ。
「……お前、俺を酔わせたいのか?」
「うっ? いや、まあ……? たまには、いっぱい飲むのもいいだろ?!」
「別に、俺は構わないが」
唇を引いて、余裕の笑みが浮かぶ。
朝霧は素直にスパークリングワインを引き寄せ、躊躇なくプルタブを引き起こした。
どことなく気怠い仕草は、大分酔いがまわってるんじゃないだろうか。
そりゃなあ、強いのばっか飲ませてるし。
朝霧が出していた飯を全部食ったので、もう食うな! とチーズばっかり目の前に並べてやった。
おかげで若干物足りないので、冷や飯でチャーハンを作る。どうせこれもお前が食うだろうけどな!
「これ、割りと美味い」
「どれ? そうなのか。俺も飲む」
そう言えば、俺あんまり飲んでねえなとスパークリングワインを手に取った。
お、本当だ、これなら俺も飲める。
「飲むな、もうちょっと起きてろ」
「う、うるせー! 飲むイコール寝るじゃねえわ!」
寄越せ、と向けられた手を無視してワインを手元に確保し、チャーハンを皿に盛った。
これは俺の分だからな?!
抱え込むようにしてスプーンを突っ込み、塩気の強いそれに満足する。
ほぼ肉とネギしか入ってないチャーハンでも、これは酒が進む。
いつの間にか、チーズまで一掃した朝霧が、じっと俺を見ていた。
「お前ってさー、全然顔色変わらねえのな。つまんねえ」
「佐藤は、すぐ赤くなるな。面白いぞ」
「うるせー! お前、いちいち喧嘩売ってんのか?!」
「売ったら、買うか?」
「いらねえ! クーリングオフするわ!」
「それだと、もう買ってるな」
安くしとくぞ、なんて流し目で笑ってワインを飲む朝霧を、じいっと見つめる。
酔ってる……よな?
なんか、いつもと雰囲気違うし。口数多いし。
酔ったら、こんな風なのか。
……なんか……なんか。落ちつかねー。
ふいに伸びてきた手に、思わずビクッと身体を引いた。
カチャンと鳴った音を気にするでもなく、その手が俺のスプーンを奪う。
すげえ大盛りにすくい取ったスプーンを、思い切り身を乗り出した朝霧が、ばくっと口に入れた。
「あっ……、お……れのだって!」
酒で距離感がバグってるんだろうか。
目の前で、皿に視線を向けている端正な顔。
持ち上がったまぶたが、間近く俺と視線を絡めた。
――怖い。
咄嗟にそう浮かんで、思わず苦笑した。
……確かに、ちょっとそう思ってる。
もしかしてコイツ、普段抑えてんだろうか。この、肉食獣じみた気配を。
朝霧君、飲ませた俺が悪かったから、早く潰れてくれ。
「……食ってもいいか?」
そんなことを考えていたから。そのセリフに飛び上がってしまい、訝しげな顔をされた。
お前、全然分かってねえと思うけど、マジで怖いからな。
「これは俺の!」
せめてもの虚勢を張ってスプーンを取り返し、カラカラになった喉にワインを流し込む。
不服そうな朝霧がちら、とフライパンの方に首を回した。まあ、残ってる分くらい食ってもいいぞ。
頷くと、いそいそフライパンの元へ向かって、そのまま木べらでかき込んでいる。
お前……ワイルドにもほどがあるだろ。
一方の俺は、朝霧との距離が空いたことで、ほっと息を吐いて力を抜いた。
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