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42 確信犯
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「……まだか」
「まだに決まってんだろ。つうか待ってなくていいんだよ、帰れよ」
ああ、口を開くと内容物が出て来そう。
うっ……さすがに食いすぎた。
「食いすぎだ。ほどほどに食えばいいだろ」
「言われなくてもわかってんだよ! それができれば、苦労しねえわ!」
お前に分かるか?! ほどほどじゃ、一皿で終わっちまう切なさが!
ブッフェに来て、そりゃないだろ?!
スイーツをひとつも食わずに帰るなんてできるか?!
ひと口ずつもらう作戦でなんとか粘って、結構な料理数を食べたと思う。
だけど、ここへ来て存在を主張する、スイーツ。
ああ、美しく着飾った貴婦人のごとく煌びやかなスイーツ。
それなのに、どうしてああも重量級なんだろうか。
砂糖とバターの理不尽な暴力の前に、俺はもう瀕死だ。
……美味かったけど。
しれっと涼しい顔している朝霧は、俺の何倍食ったのか。くそ羨ましい……。
こうしてただ空を見上げているオレが一体何をしているかと言うと、必死に内臓を働かせているのだ。
見えないかもしれないが、今、俺の消化管は死に物狂いで働いている。
ちなみにショッピングエリアでグッタリしているのはさすがに恥ずかしいので、人通りの少ないガーデンエリアにやって来ている。
この寒空の下、敢えて花も咲かないガーデンエリアにいるのは、周りなんか目に入ってないカップルくらいだ。
「お前さ、こういう時、後でめっちゃ運動すんの? 太ったりしたらダメなんだろ?」
「そこまで気にしたことはないが……何となく、消費しようとは思うな」
「俺も、さすがに太るからなんかしなきゃな……」
「水泳は、カロリー消費が高いぞ」
「泳ぎ続けたらの話だろ」
25メートル泳いでは休憩する場合、多分消費カロリーは大したことないのでは。
もっと楽に消費する方法はないものか。
「楽なものはないぞ。なら……緑戸駅から家まで歩くか?」
「は?! 夜になるわ! 何キロあるんだよ?!」
「10キロくらいだろ? そんなにかからん。日が暮れそうなら、走ればいい」
「絶対嫌だ」
くだらない話をしながら、胃腸の応援を続けているのに、中々楽にならない。
あー寒い。
飯を食ったおかげか、冷えると言うほどではないけれど、当たり前に外は寒い。だというのに、また若いカップルが店内から外へ出て来た。
俺たちに見向きもせずに、木陰のベンチに腰掛ける。
かたや、春に花の咲くだろうパーゴラの下、寒空のベンチに男二人。
ああ……何やってんだろうな。
……君らは気にならないだろうが、俺は気になるんだよ! 視界に入らない場所に行ってくれよ?!
なるべく視線を逸らしているものの、どうしたって目に入る。
ましてや、片方がこてん、と膝枕で横になったりしたら。
うわあ……完全に二人の世界だ。
どうする、場所を変えるか。
ちら、と朝霧を見上げると、こちらを向いた朝霧がちょっと首を傾げ――
何か思い当たったように口角を上げた。
そして、ぽんぽんと叩いた。自分の膝を。
一瞬意味が分からず、ハッと気が付いて。
「ばっっ――!!」
思わず大声を出しかけて、自分の口を押さえた。
「ば、馬ッ鹿じゃねえの?! お前、何考えてんだよ?! するわけねえだろ?!」
「佐藤もしてほしいのかと」
にやっと笑うその顔、絶対そんなこと思ってなかっただろ。
完全に100%確信犯だろ!!
「誰が!!」
「ああ、俺が横になる方か?」
「絶ッ対しねえよ?!」
思わず立ち上がって距離をとる。
こいつ、本当にやりかねねえ。なんなんだよ、お前のそのノリ。
よく分かんねえとこで、すげえノッてくる。
「そうか。動けるなら、そろそろ帰るか」
「……ああ」
なんか、うまく誘導された気がしてならない。
立ち上がってしまった手前、またあのカップルを視界に収めるのも嫌で、渋々重い腹を抱えて帰路につくことにする。
「ほら」
「……?」
朝霧が手を差し出すから、何を渡されるのだろうと何気なく手の平を出した。
思わないだろ、まさかあのノリが続いているなんて。
「ふっ……!!」
ちょっと驚いた朝霧が、堪えきれずに吹き出しつつ、ぐっと握る。
そう、俺の手を。
「んなっ――?!」
「素直だな」
「ち、ちちち、違うって分かってんだろ?! 離せ!!」
やめろ、マジでやめろ!!
人目が、一応あるんだぞ?!
騒ぐと注目される……!! 俺は肩を震わせる朝霧から手を取り返そうと、静かに奮闘したのだった。
「まだに決まってんだろ。つうか待ってなくていいんだよ、帰れよ」
ああ、口を開くと内容物が出て来そう。
うっ……さすがに食いすぎた。
「食いすぎだ。ほどほどに食えばいいだろ」
「言われなくてもわかってんだよ! それができれば、苦労しねえわ!」
お前に分かるか?! ほどほどじゃ、一皿で終わっちまう切なさが!
ブッフェに来て、そりゃないだろ?!
スイーツをひとつも食わずに帰るなんてできるか?!
ひと口ずつもらう作戦でなんとか粘って、結構な料理数を食べたと思う。
だけど、ここへ来て存在を主張する、スイーツ。
ああ、美しく着飾った貴婦人のごとく煌びやかなスイーツ。
それなのに、どうしてああも重量級なんだろうか。
砂糖とバターの理不尽な暴力の前に、俺はもう瀕死だ。
……美味かったけど。
しれっと涼しい顔している朝霧は、俺の何倍食ったのか。くそ羨ましい……。
こうしてただ空を見上げているオレが一体何をしているかと言うと、必死に内臓を働かせているのだ。
見えないかもしれないが、今、俺の消化管は死に物狂いで働いている。
ちなみにショッピングエリアでグッタリしているのはさすがに恥ずかしいので、人通りの少ないガーデンエリアにやって来ている。
この寒空の下、敢えて花も咲かないガーデンエリアにいるのは、周りなんか目に入ってないカップルくらいだ。
「お前さ、こういう時、後でめっちゃ運動すんの? 太ったりしたらダメなんだろ?」
「そこまで気にしたことはないが……何となく、消費しようとは思うな」
「俺も、さすがに太るからなんかしなきゃな……」
「水泳は、カロリー消費が高いぞ」
「泳ぎ続けたらの話だろ」
25メートル泳いでは休憩する場合、多分消費カロリーは大したことないのでは。
もっと楽に消費する方法はないものか。
「楽なものはないぞ。なら……緑戸駅から家まで歩くか?」
「は?! 夜になるわ! 何キロあるんだよ?!」
「10キロくらいだろ? そんなにかからん。日が暮れそうなら、走ればいい」
「絶対嫌だ」
くだらない話をしながら、胃腸の応援を続けているのに、中々楽にならない。
あー寒い。
飯を食ったおかげか、冷えると言うほどではないけれど、当たり前に外は寒い。だというのに、また若いカップルが店内から外へ出て来た。
俺たちに見向きもせずに、木陰のベンチに腰掛ける。
かたや、春に花の咲くだろうパーゴラの下、寒空のベンチに男二人。
ああ……何やってんだろうな。
……君らは気にならないだろうが、俺は気になるんだよ! 視界に入らない場所に行ってくれよ?!
なるべく視線を逸らしているものの、どうしたって目に入る。
ましてや、片方がこてん、と膝枕で横になったりしたら。
うわあ……完全に二人の世界だ。
どうする、場所を変えるか。
ちら、と朝霧を見上げると、こちらを向いた朝霧がちょっと首を傾げ――
何か思い当たったように口角を上げた。
そして、ぽんぽんと叩いた。自分の膝を。
一瞬意味が分からず、ハッと気が付いて。
「ばっっ――!!」
思わず大声を出しかけて、自分の口を押さえた。
「ば、馬ッ鹿じゃねえの?! お前、何考えてんだよ?! するわけねえだろ?!」
「佐藤もしてほしいのかと」
にやっと笑うその顔、絶対そんなこと思ってなかっただろ。
完全に100%確信犯だろ!!
「誰が!!」
「ああ、俺が横になる方か?」
「絶ッ対しねえよ?!」
思わず立ち上がって距離をとる。
こいつ、本当にやりかねねえ。なんなんだよ、お前のそのノリ。
よく分かんねえとこで、すげえノッてくる。
「そうか。動けるなら、そろそろ帰るか」
「……ああ」
なんか、うまく誘導された気がしてならない。
立ち上がってしまった手前、またあのカップルを視界に収めるのも嫌で、渋々重い腹を抱えて帰路につくことにする。
「ほら」
「……?」
朝霧が手を差し出すから、何を渡されるのだろうと何気なく手の平を出した。
思わないだろ、まさかあのノリが続いているなんて。
「ふっ……!!」
ちょっと驚いた朝霧が、堪えきれずに吹き出しつつ、ぐっと握る。
そう、俺の手を。
「んなっ――?!」
「素直だな」
「ち、ちちち、違うって分かってんだろ?! 離せ!!」
やめろ、マジでやめろ!!
人目が、一応あるんだぞ?!
騒ぐと注目される……!! 俺は肩を震わせる朝霧から手を取り返そうと、静かに奮闘したのだった。
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