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57 佐藤と朝霧と宮城と平田
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立ち上がってぺこりと頭を下げると、その人がもう一歩近付いた。
おそらく、俺たちより少し年上だろう。朝霧と並ぶほど背が高くて、ガタイもいい。二人して接近されると、圧迫感がすごい。
「佐藤って、朝霧の佐藤だよな?! マジで仲良いんだ?!」
「朝霧の『ルームシェア相手の』佐藤です。仲は……普通だと思いますが……」
変なところを省力しないでいただきたい。念を押すように強調しておいたけど、気付いてもらえただろうか。
だけど、まさか俺の名前を知っている人がいるとは思わなかった。一体どこ情報なんだ。
困惑顔が伝わったか、マッチョ先輩が体育会系らしい笑みを浮かべる。
「悪い、まさか会えると思わなかったからさ。むしろ実在したんだな! イマジナリーフレンドとかじゃなくて良かったよ! 俺も朝霧と同じアクアチームだから、よろしく! 俺、平田ね」
「あっ、こちらこそ! 佐藤 直です。今日は宮城さんの取材に同行させてもらうので、お邪魔かとは思いますが、よろしくお願いします」
「そうなの? そう言えば昨日そんなこと言ってたか。まさか『あの佐藤』が来るとは思わなかったわー。俺のことも取材する?」
平田さん……この朝霧にも話しかけるくらいだし、話し好きなんだろうな。けど、あの、そろそろ朝練に行った方がいいんじゃないだろうか。
隣で足止めを食らっている朝霧の、イライラゲージが徐々に貯まっている気がするから。
「今日はアクアチーム全体の取材だと聞いてます。すみません、朝練前に呼び止めてしまいまして」
「全然! 朝練つってもただのトレーニングだし」
早く行った方がいいのでは、と平田さんを促してみたつもりだけど、全然伝わってない。
「そもそも朝練は自由参加だから。俺、別に今日トレしなくてもいいからさ、なんか質問とかある? 朝練の間、時間あるよ。俺も色々聞きたいしな!」
めっちゃぐいぐい来る……宮城さんばりに押しの強い人だ。
まあ、分かるよ。朝霧の話を聞きたいんだろう。あの朝霧がどうルームシェアしてんのかって、俺がチームメイトでも気になるわ。
ただ今回、俺はただのオマケなわけで、勝手に平田さんと話し込むわけにもいかない。
どうしたもんかと思っていた時、慣れた力強さで腕を引かれた。
「ちょっ……朝霧?!」
「……平田さん、取材するのは宮城さんなんで。佐藤は、関係ないです」
行くぞ、と言わんばかりにぐいと方向転換させられ、ちょっと慌てた。
お前はいいかもしれねえけど、俺初対面!! 失礼だろ!
呆気にとられた平田さんが、『マジ……?』と小さく呟いて追って来る。
「え……すげえ。朝霧が他人を構ってる?! スキンシップが……!」
目を丸くしている平田さんを見て、俺は何とも言えない顔で朝霧を見上げた。
お前……チームメイトにどんな人だと思われてんの?
朝霧って結構構ってくるし、スキンシップ多い方だと思うんだけど。
とりあえず、見上げたその顔は無表情だけど、機嫌が悪いことだけは伝わって来る。
「ごめんな、朝練の時間潰して」
俺のせいというより平田さんのせいだと思うけど。一応小声で詫びを入れると、ハッとこちらを向いた。
「いや……別に。そんなこと気にしてない」
苦笑して緩んだ表情に、少し安堵した。一日密着なのに、初っ端も初っ端で不機嫌になられちゃ居心地悪いったらないしな。
「あれっ、佐藤くんもう来てたんだ! あはは、その二人と並ぶとますます可愛らしく見えるよ」
ジムで写真を撮っていた宮城さんが、こっちを見るなりそう言ってカメラを向けた。
「み、宮城さん! 俺まで入っちゃうじゃないですか!」
「いいじゃない、使うか使わないかは別として、そういうショットがあるのも楽しいかもしれないし。今思ったけど、一般人が混じってると体格差もよく分かって面白いよ。これ案外いいかもね」
「……じゃあ宮城さんが入ってくださいよ。俺が撮ります」
「うーん、佐藤くんの方が若いし、体格差っていうなら……ね? ほら……やっぱり、ね?」
また『ね?』が始まった。
どうせ、どうせ俺は小さいし貧弱ですよ!! 宮城さんだって小さくはないけど、まあ普通ってとこじゃねえか!
「佐藤くん、ジャケット脱いで後ろ向いて! 朝霧君と平田君も並んで! ああ、二人もパーカー脱いで!」
「え……すげえ嫌なんですけど」
「まあまあ、後ろ姿なんだからいいじゃない!」
渋々俺を真ん中に、でかい二人と並べられた。
何の気なしに朝霧を見上げると、何やら言いたげな顔をしている。
外だと、家の中よりさらに無口に磨きがかかっているような……。
「ナオくんほっそー?! 普段ゴツイ野郎ばっか見てるから、不安になる細さ!」
「そう……ですかね。割と普通だと思いますよ……」
平田さんが大げさに驚くもんだから、筋力が女子並み、と言われた記憶が蘇って意気消沈する。
撮影後すぐさまジャケットを羽織ると、じとりと宮城さんに視線をやった。
「宮城さんもマシン使ってる所、朝霧と並んで撮りましょうか。何ならシャツも脱いで撮ったらいいじゃないですか」
「撮ってもいいけど、僕じゃ面白くないんだって。佐藤くんほどにはねえ~」
なぜか含み笑いした宮城さんが、これ見よがしにジャケットを脱いでみせた。
あれ……? なんか、思ったより……。
「宮城さんって、思ったより太――」
「太ってないからね?! 筋肉! これ筋肉だから!!」
慌てた宮城さんが、ぺちぺち自分の上腕を叩いてみせる。完全に疑いの目で触ってみると、なるほど、しっかり弾力があって固い。
宮城さんって顔が完全にインテリだから、絶対そんなことないと思ったのに……!
愕然と宮城産の……いや、宮城さんの肉質を確認していると、得意満面だった宮城さんがハッと笑みを消し、慌てて俺を押しとどめた。
「あっ……さ、佐藤くん、そのくらいにしておこっか! よし、撮影は自然体でやりたいし、一旦離れよう!」
「はい。じゃあ、朝霧また――朝霧?」
「……ああ」
他所を向いていた朝霧が、スッと表情を戻して視線を合わせた。
軽く手を挙げた朝霧をちらちら振り返りつつ、離れていく宮城さんを追う。
なんか今、一瞬すげえ目してなかった……?
~~~~~~~~~~~~~~~
読んで下さってありがとうございます!
そろそろ先行しているエブリスタさんに追いつきそうなので、更新不規則になると思われます。
なるべく二日空きくらいで更新がんばりたいと思います!
おそらく、俺たちより少し年上だろう。朝霧と並ぶほど背が高くて、ガタイもいい。二人して接近されると、圧迫感がすごい。
「佐藤って、朝霧の佐藤だよな?! マジで仲良いんだ?!」
「朝霧の『ルームシェア相手の』佐藤です。仲は……普通だと思いますが……」
変なところを省力しないでいただきたい。念を押すように強調しておいたけど、気付いてもらえただろうか。
だけど、まさか俺の名前を知っている人がいるとは思わなかった。一体どこ情報なんだ。
困惑顔が伝わったか、マッチョ先輩が体育会系らしい笑みを浮かべる。
「悪い、まさか会えると思わなかったからさ。むしろ実在したんだな! イマジナリーフレンドとかじゃなくて良かったよ! 俺も朝霧と同じアクアチームだから、よろしく! 俺、平田ね」
「あっ、こちらこそ! 佐藤 直です。今日は宮城さんの取材に同行させてもらうので、お邪魔かとは思いますが、よろしくお願いします」
「そうなの? そう言えば昨日そんなこと言ってたか。まさか『あの佐藤』が来るとは思わなかったわー。俺のことも取材する?」
平田さん……この朝霧にも話しかけるくらいだし、話し好きなんだろうな。けど、あの、そろそろ朝練に行った方がいいんじゃないだろうか。
隣で足止めを食らっている朝霧の、イライラゲージが徐々に貯まっている気がするから。
「今日はアクアチーム全体の取材だと聞いてます。すみません、朝練前に呼び止めてしまいまして」
「全然! 朝練つってもただのトレーニングだし」
早く行った方がいいのでは、と平田さんを促してみたつもりだけど、全然伝わってない。
「そもそも朝練は自由参加だから。俺、別に今日トレしなくてもいいからさ、なんか質問とかある? 朝練の間、時間あるよ。俺も色々聞きたいしな!」
めっちゃぐいぐい来る……宮城さんばりに押しの強い人だ。
まあ、分かるよ。朝霧の話を聞きたいんだろう。あの朝霧がどうルームシェアしてんのかって、俺がチームメイトでも気になるわ。
ただ今回、俺はただのオマケなわけで、勝手に平田さんと話し込むわけにもいかない。
どうしたもんかと思っていた時、慣れた力強さで腕を引かれた。
「ちょっ……朝霧?!」
「……平田さん、取材するのは宮城さんなんで。佐藤は、関係ないです」
行くぞ、と言わんばかりにぐいと方向転換させられ、ちょっと慌てた。
お前はいいかもしれねえけど、俺初対面!! 失礼だろ!
呆気にとられた平田さんが、『マジ……?』と小さく呟いて追って来る。
「え……すげえ。朝霧が他人を構ってる?! スキンシップが……!」
目を丸くしている平田さんを見て、俺は何とも言えない顔で朝霧を見上げた。
お前……チームメイトにどんな人だと思われてんの?
朝霧って結構構ってくるし、スキンシップ多い方だと思うんだけど。
とりあえず、見上げたその顔は無表情だけど、機嫌が悪いことだけは伝わって来る。
「ごめんな、朝練の時間潰して」
俺のせいというより平田さんのせいだと思うけど。一応小声で詫びを入れると、ハッとこちらを向いた。
「いや……別に。そんなこと気にしてない」
苦笑して緩んだ表情に、少し安堵した。一日密着なのに、初っ端も初っ端で不機嫌になられちゃ居心地悪いったらないしな。
「あれっ、佐藤くんもう来てたんだ! あはは、その二人と並ぶとますます可愛らしく見えるよ」
ジムで写真を撮っていた宮城さんが、こっちを見るなりそう言ってカメラを向けた。
「み、宮城さん! 俺まで入っちゃうじゃないですか!」
「いいじゃない、使うか使わないかは別として、そういうショットがあるのも楽しいかもしれないし。今思ったけど、一般人が混じってると体格差もよく分かって面白いよ。これ案外いいかもね」
「……じゃあ宮城さんが入ってくださいよ。俺が撮ります」
「うーん、佐藤くんの方が若いし、体格差っていうなら……ね? ほら……やっぱり、ね?」
また『ね?』が始まった。
どうせ、どうせ俺は小さいし貧弱ですよ!! 宮城さんだって小さくはないけど、まあ普通ってとこじゃねえか!
「佐藤くん、ジャケット脱いで後ろ向いて! 朝霧君と平田君も並んで! ああ、二人もパーカー脱いで!」
「え……すげえ嫌なんですけど」
「まあまあ、後ろ姿なんだからいいじゃない!」
渋々俺を真ん中に、でかい二人と並べられた。
何の気なしに朝霧を見上げると、何やら言いたげな顔をしている。
外だと、家の中よりさらに無口に磨きがかかっているような……。
「ナオくんほっそー?! 普段ゴツイ野郎ばっか見てるから、不安になる細さ!」
「そう……ですかね。割と普通だと思いますよ……」
平田さんが大げさに驚くもんだから、筋力が女子並み、と言われた記憶が蘇って意気消沈する。
撮影後すぐさまジャケットを羽織ると、じとりと宮城さんに視線をやった。
「宮城さんもマシン使ってる所、朝霧と並んで撮りましょうか。何ならシャツも脱いで撮ったらいいじゃないですか」
「撮ってもいいけど、僕じゃ面白くないんだって。佐藤くんほどにはねえ~」
なぜか含み笑いした宮城さんが、これ見よがしにジャケットを脱いでみせた。
あれ……? なんか、思ったより……。
「宮城さんって、思ったより太――」
「太ってないからね?! 筋肉! これ筋肉だから!!」
慌てた宮城さんが、ぺちぺち自分の上腕を叩いてみせる。完全に疑いの目で触ってみると、なるほど、しっかり弾力があって固い。
宮城さんって顔が完全にインテリだから、絶対そんなことないと思ったのに……!
愕然と宮城産の……いや、宮城さんの肉質を確認していると、得意満面だった宮城さんがハッと笑みを消し、慌てて俺を押しとどめた。
「あっ……さ、佐藤くん、そのくらいにしておこっか! よし、撮影は自然体でやりたいし、一旦離れよう!」
「はい。じゃあ、朝霧また――朝霧?」
「……ああ」
他所を向いていた朝霧が、スッと表情を戻して視線を合わせた。
軽く手を挙げた朝霧をちらちら振り返りつつ、離れていく宮城さんを追う。
なんか今、一瞬すげえ目してなかった……?
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読んで下さってありがとうございます!
そろそろ先行しているエブリスタさんに追いつきそうなので、更新不規則になると思われます。
なるべく二日空きくらいで更新がんばりたいと思います!
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