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73 困らない朝霧
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「美味い? お前の作った棒棒鶏」
「そんな料理、俺は聞いたことなかった」
わざとらしく料理名を強調すると、朝霧が不服そうに言った。
そんなわけないだろ。結構中華でよく出てくるぞ。
「ナオは食わないのか」
「食うけど……先投稿すませてから。全部食うなよ?!」
微かな動揺を悟られまいと、スマホの画面に集中した。
朝霧は本当にナオ呼びを定着させるつもりか……俺の方が慣れないんだけど。
「棒棒鶏も投稿するのか」
「そりゃあな」
「俺が作ったけど、いいのか」
「おかげで映えは逃したんだけどな!」
本来、混ぜる前の姿で撮影予定だったんだけども。
まあ、気楽なSNSだしそういう時があってもいいだろう。
棒棒鶏を頬張って食べる朝霧から、小気味よいきゅうりの咀嚼音が聞こえてくる。じわっと口内に唾液が溢れ、俺も慌てて投稿をすませて小皿に取り分けた。
箸で掴んだひとくちの中に、きっちりミニトマトも入れて、ゴマの香りにトマトも参加する贅沢さ。
噛みしめる鶏肉ときゅうりの食感の差こそ、この料理の醍醐味だよな。
これも、アスリート飯に良さそうだ。
疲れていても、夏場の暑い時期でも、自然に箸が伸びそう。
「そう言えば、宮城さん何か言ってた? お前の画像どれ使うとか」
「さあ? 何でもいいって伝えてる」
「お前……もうちょっと気にしろよ?! 変なのだったらどうすんだよ!」
「変なのってどんなのだ」
言われてしばし考える。
俺だったら掲載されて嫌なもの……そもそも、実物より良く写ってないやつは全部イヤだけどな?!
「白目剥いてるとか……」
「それをわざわざ掲載するのか?」
「じゃ、じゃあ変な角度だとか……」
「変ってなんだ」
そうですね! 朝霧くんどんな角度で撮ってもイケメンでしたね!!
クソ、だから気にならないのか……?!
「掲載する画像は、宮城さんが選ぶだろ。なら、わざわざおかしなものにはしないと思うが」
「そりゃそうだけど! 結構な信頼度だな!」
面白くないと思っている俺が面白くない。
宮城さんはベテランだから、朝霧の言うことに何らおかしなことはないのに。
「……ちなみに、お前にサンドウィッチ食わせた時の画像も、あるんだぞ? それ使われたらどうすんだよ」
本当は、もう俺の手元にあるんだけど。でも、少し不貞腐れてそう言ってやった。お前も多少焦ればいいんだ。
「俺は困らない。むしろ、使えばいい」
「は?! あれを?! つうか、アレ宮城さんにも見られるってことだぞ?!」
「望むところだ」
朝霧が、にやっと不敵に笑った。
う、嘘だろ……あれを見られてノーダメージだなんて。
完敗だ……。朝霧が見られて困るものなんて、ないんだろうか。
打ちひしがれているうちに、大皿の棒棒鶏がなくなっていた。
お前……もう少し遠慮して食えよ!
恨めしい視線を送りつつ、取り分けていた分まで食われないよう、手元に引き寄せておいた。
自分の分を確保したところで、先に天津飯だ。
とっくに食い終わっている朝霧が、興味津々で俺の器を眺めていた。
「天津飯、すげえ。どうやって作るんだ」
「どうってお前、一部始終見てただろ……」
「見ても分からん」
じゃあ言ってもわかんねえよ、と笑う。
そもそも、作り方に興味があったわけじゃないんだろう。ただじっと器の中を見ている。
「あーもう、作ればいいんだろ!」
渋々立ち上がって、冷蔵庫から卵を取り出した。
「つうか餡はここにあるから、自分で作れよ!」
「作れるのか?」
嬉し気な朝霧が、俺の手元を覗きにやって来た。
うーん、作れるかどうかというと、ちょっと難しいかもしれない。まず卵を上手に割れない朝霧くんには。
「卵を溶いて、いい感じに焼くだけだ」
「割るのも溶くのも焼くのも難しいが」
「……まあ、お前にはな」
作らせるのは諦めて、手早く仕上げて飯の上に乗せてやると、朝霧が得意げに自分で餡をかけた。
……うん、上手、上手。お前は幼児か。
「このスプーンが、家にあるのがすごい」
「ああ、レンゲ? そうか?」
「俺は持ってない」
「お前は持ってないだろうな……」
箸で代用できるから、フォークすら持ってなさそうだし。
「実家にもない」
「お前が知らないだけじゃねえ? 中華って結構家庭でも作るだろ」
言いながら互いに一杯目と二杯目の天津飯を食べていると、朝霧が思い出したように口を開いた。
「今度大会の後、中華食いに行くらしい。だから、その日はナオの飯を食べられない」
「食べられないってなんだ。その日の飯はいらんって普通に言え」
残念そうに言うな。店で食う中華の方が美味いに決まってるだろ。
そう思いつつ、気分が上がるのはどうしようもない。
「あ、つうか大会なの? 今度っていつ?」
「次の日曜」
「今度じゃねえ?! もう明後日じゃねえか! 言えよ!」
「今言った」
だったら今日のメニューも中華を避けたんだけど?!
そもそも大会を把握してなかった俺も悪いけどさ!
「お前さ、予定教えてくれよ! 大会とか大事なものは特に! 調整とか、いるんじゃねえの?」
「別に、次のは大したやつじゃない」
「でも大会だろ?!」
朝霧は迫る俺に表情を緩めてスマホを取り出し、手招いた。
俺も慌ててスマホのスケジュールを開いて隣へつく。
気軽にスマホごと渡され、コイツ本当に警戒心ゼロだなと思う。スケジュールなんて、割と見られたらヤバイものあるだろうに。
……こいつにはないけどな!
「そんな料理、俺は聞いたことなかった」
わざとらしく料理名を強調すると、朝霧が不服そうに言った。
そんなわけないだろ。結構中華でよく出てくるぞ。
「ナオは食わないのか」
「食うけど……先投稿すませてから。全部食うなよ?!」
微かな動揺を悟られまいと、スマホの画面に集中した。
朝霧は本当にナオ呼びを定着させるつもりか……俺の方が慣れないんだけど。
「棒棒鶏も投稿するのか」
「そりゃあな」
「俺が作ったけど、いいのか」
「おかげで映えは逃したんだけどな!」
本来、混ぜる前の姿で撮影予定だったんだけども。
まあ、気楽なSNSだしそういう時があってもいいだろう。
棒棒鶏を頬張って食べる朝霧から、小気味よいきゅうりの咀嚼音が聞こえてくる。じわっと口内に唾液が溢れ、俺も慌てて投稿をすませて小皿に取り分けた。
箸で掴んだひとくちの中に、きっちりミニトマトも入れて、ゴマの香りにトマトも参加する贅沢さ。
噛みしめる鶏肉ときゅうりの食感の差こそ、この料理の醍醐味だよな。
これも、アスリート飯に良さそうだ。
疲れていても、夏場の暑い時期でも、自然に箸が伸びそう。
「そう言えば、宮城さん何か言ってた? お前の画像どれ使うとか」
「さあ? 何でもいいって伝えてる」
「お前……もうちょっと気にしろよ?! 変なのだったらどうすんだよ!」
「変なのってどんなのだ」
言われてしばし考える。
俺だったら掲載されて嫌なもの……そもそも、実物より良く写ってないやつは全部イヤだけどな?!
「白目剥いてるとか……」
「それをわざわざ掲載するのか?」
「じゃ、じゃあ変な角度だとか……」
「変ってなんだ」
そうですね! 朝霧くんどんな角度で撮ってもイケメンでしたね!!
クソ、だから気にならないのか……?!
「掲載する画像は、宮城さんが選ぶだろ。なら、わざわざおかしなものにはしないと思うが」
「そりゃそうだけど! 結構な信頼度だな!」
面白くないと思っている俺が面白くない。
宮城さんはベテランだから、朝霧の言うことに何らおかしなことはないのに。
「……ちなみに、お前にサンドウィッチ食わせた時の画像も、あるんだぞ? それ使われたらどうすんだよ」
本当は、もう俺の手元にあるんだけど。でも、少し不貞腐れてそう言ってやった。お前も多少焦ればいいんだ。
「俺は困らない。むしろ、使えばいい」
「は?! あれを?! つうか、アレ宮城さんにも見られるってことだぞ?!」
「望むところだ」
朝霧が、にやっと不敵に笑った。
う、嘘だろ……あれを見られてノーダメージだなんて。
完敗だ……。朝霧が見られて困るものなんて、ないんだろうか。
打ちひしがれているうちに、大皿の棒棒鶏がなくなっていた。
お前……もう少し遠慮して食えよ!
恨めしい視線を送りつつ、取り分けていた分まで食われないよう、手元に引き寄せておいた。
自分の分を確保したところで、先に天津飯だ。
とっくに食い終わっている朝霧が、興味津々で俺の器を眺めていた。
「天津飯、すげえ。どうやって作るんだ」
「どうってお前、一部始終見てただろ……」
「見ても分からん」
じゃあ言ってもわかんねえよ、と笑う。
そもそも、作り方に興味があったわけじゃないんだろう。ただじっと器の中を見ている。
「あーもう、作ればいいんだろ!」
渋々立ち上がって、冷蔵庫から卵を取り出した。
「つうか餡はここにあるから、自分で作れよ!」
「作れるのか?」
嬉し気な朝霧が、俺の手元を覗きにやって来た。
うーん、作れるかどうかというと、ちょっと難しいかもしれない。まず卵を上手に割れない朝霧くんには。
「卵を溶いて、いい感じに焼くだけだ」
「割るのも溶くのも焼くのも難しいが」
「……まあ、お前にはな」
作らせるのは諦めて、手早く仕上げて飯の上に乗せてやると、朝霧が得意げに自分で餡をかけた。
……うん、上手、上手。お前は幼児か。
「このスプーンが、家にあるのがすごい」
「ああ、レンゲ? そうか?」
「俺は持ってない」
「お前は持ってないだろうな……」
箸で代用できるから、フォークすら持ってなさそうだし。
「実家にもない」
「お前が知らないだけじゃねえ? 中華って結構家庭でも作るだろ」
言いながら互いに一杯目と二杯目の天津飯を食べていると、朝霧が思い出したように口を開いた。
「今度大会の後、中華食いに行くらしい。だから、その日はナオの飯を食べられない」
「食べられないってなんだ。その日の飯はいらんって普通に言え」
残念そうに言うな。店で食う中華の方が美味いに決まってるだろ。
そう思いつつ、気分が上がるのはどうしようもない。
「あ、つうか大会なの? 今度っていつ?」
「次の日曜」
「今度じゃねえ?! もう明後日じゃねえか! 言えよ!」
「今言った」
だったら今日のメニューも中華を避けたんだけど?!
そもそも大会を把握してなかった俺も悪いけどさ!
「お前さ、予定教えてくれよ! 大会とか大事なものは特に! 調整とか、いるんじゃねえの?」
「別に、次のは大したやつじゃない」
「でも大会だろ?!」
朝霧は迫る俺に表情を緩めてスマホを取り出し、手招いた。
俺も慌ててスマホのスケジュールを開いて隣へつく。
気軽にスマホごと渡され、コイツ本当に警戒心ゼロだなと思う。スケジュールなんて、割と見られたらヤバイものあるだろうに。
……こいつにはないけどな!
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