佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

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75 先の予定

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俺だったら、朝霧をどこに連れて行きたいかな。
冬と言えばスキーやスノーボード? 朝霧、やったことなくても上手そうだ。
だけど、俺の勝手な願望としては、休みの日は休ませたい。だってアイツあんなハードな練習を毎日とか……普通に死なねえ?
たまにはゆっくり、のんびりするって楽しさを教えてやりたいよな!

「なら、温泉とか、いいかもな。あっ……でも、その……男女だと風呂が別だから、気を付けねえとダメなんだぞ。一緒に楽しめねえから、そこはフォローがいるからな」

彼女、か。
……少し笑って、朝霧を見上げた。次は、きっと長続きするって保証してやるよ。

朝霧を温泉に入れて、美味い飯食わせて、あとは、なんだ。綺麗な景色でも見せてやれたら、いいな。
俺が計画たててやるから。
……誰かに、お前が持ち掛ければいいよ。
せっかくの休みなんだから、目いっぱい楽しめるように考えてやる。

「温泉か……いいな」
「だよな! ちょっと遠くまで足伸ばして、あっ! 東北の方ならイケるんじゃねえ?! 雪見温泉!!」
「雪の中の風呂?」
「そう! テレビでしか見たことなくて、俺いつか――。よし、俺が宿を選ぶ! お前、先に行って感想聞かせろ」

急いで、スマホの検索画面に視線を移動した。
テレビで見たあの景色。お前にも、見せてやりたいと思ってつい口にした。
……いいな。
誰と行くんだろな。
初めてだろ? どんな顔、するんだろな。
しまったな。
お前が見る時、そこに俺がいないとは。

いいな。
言わなきゃよかった。
言わなきゃよかったよ。
俺、行きたかったんだ。いつか。
もう、行かねえかも。
だって、浮かぶじゃねえか、お前が。

「ナオ」
「え、何だよ」

ほぼ隣にいるってのに、朝霧が俺の椅子をズズっと力業で引き寄せた。

「なんでそんな顔をする」
「何、俺、なにも、別に……」

顔に、出てた? ひゅっと息を呑んで動きが止まる。
間近く覗き込む瞳に、取り繕っていた笑みが崩れて、視線を逃しながら顔をこわばらせた。

「先に行くってなんだ? お前は?」
「だから、俺は……お前が行った後で」
「……誰と」

急に、低くなった声。
ちりっと、炎が肌を掠めるような気配を感じた。
怒ってる……?

「俺と行くって言っただろ」
「いや、だから……お前は時間ねえから、今のうちに……その、『誰か』誘った方がいいって言っただろ?!」

話、聞いてなかったのかよ?! 
つい上げた顔を、ぐっと覗き込まれた。
逃げようもない、当たり前のように俺の頭を固定する大きな手。
まっすぐ俺を見つめる瞳に、捕まった。

「ナオ、俺と行こう。他のヤツと行くな」

……ぽかん、と口が開いた。
お、お前、そんな簡単に……。
俺、俺だって――

「いい、けど……」

反射的に出た言葉に、朝霧は満足そうに笑った。
お前、お前……俺を誘ってどうする。
冷えていた体に、さあっと熱が戻ってくる。
……いいのか。そうか。

重苦しかったものがなくなって、そして――、無性に腹が立った。
なんだったんだ。
俺、なんのために色々考えて……。
腹立つ、あんな簡単に言いやがって。

「俺、もうお前のスケジュール把握したからな」
「ああ」
「知らねえぞ、勝手に予定入れてやる。もしお前に予定入っても、関係ないからな」
「ああ。お前以外の予定はない」

……そうかもしれねえけど。言い方!
だから、誰か誘うようにしろって言ったんだけど。
お前の楽しみが、増えたらいいと思って。

何か攻撃材料はないだろうか。ふいっと視線を逸らして不貞腐れていると、大きな手に頭を撫でられた。

「……楽しみだ」

……そうかよ。
目にしてしまった表情が、あまりに言葉通りで。

「ふん、俺が計画たてるんだから、絶対楽しいに決まってるだろ!」
「ああ」

そう言ってやっても、やっぱり朝霧は同じ顔をしていて。
いいんだな? 俺、楽しみにしていても。

「もう、キャンセルはきかないからな」
「お前こそ」

そうか。
朝霧を見上げて、その顔を確認して。
俺の口元にも、やっと笑みが浮かんだのだった。
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