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92 帰宅
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「お疲れー、運転ご苦労!」
「ああ」
俺なんか助手席に座ってただけなのに、疲れた気がする。
車を降りて伸びをすると、そそくさ愛しのマイホーム……ならぬ賃貸へ向かった。
旅行は好きだけど、なんかこう……家が近づくにつれ、早く扉を開けて飛び込みたくなってくる俺って、やっぱインドア派なのかな。
「あ~~帰って来た!」
さっさと上着を脱いで、ごろんとこたつ布団の上に寝転がった。
最高だな、家は。日帰りだったのに、すっかり旅行してきたような気分だ。
帰り道で適当に飯もすませたし、もうあとは風呂入って寝るだけ。
ごろごろ転がっていると、ばふりと上着が降って来た。
「そこで寝るな、風邪ひく」
「大丈夫、寝ても妖精さんが運んでくれるから」
「お前……嫌がるくせに」
そうだけど、よくよく考えたら便利なだけで、別に困ることもないし。朝霧が他人に言いふらすとは思えないし。
今後は妖精さんを頼るようにしようかな。
「風呂は?」
「んーお前先に行っていいよ」
「その間に寝るだろ」
風呂は明日朝入ればいいし……もう半分おやすみモードになってる俺は、適当な返事を返して温まり始めたこたつに潜り込もうとした。
途端、凄い勢いで身体が引かれ、次いでふわっと空中に浮いた。
一瞬の浮遊感と落下の重力。
思いっきり目を見開いて固まった身体。
ドッドッド、激しい鼓動が体の中いっぱいに響いていた。
「ナオ、反射的に手を着くとか、身体を捻るとか、しないと危ない」
視界の中に、面白そうな顔をした朝霧が大きく映っている。
ガッチガチに固まって止まっていた呼吸を再開させ、無駄と知りつつ思い切りその胸元を押しやった。
「猫じゃねえんだよ! そんなことできるか! し、死ぬかと思った……!! 何やってんだよ?!」
「目が覚めるかと」
「永遠の眠りに落ちるかと思ったわ!!」
俺がこんなビックリすると思わなかったんだろう……いやいや、子どもじゃねえんだよ?! 成人男性が寝入り端にほいっと投げ上げられたら、死ぬほどビビるわ!
べしべし叩いて安定した地面に足を下ろすと、心地よい眠気はすっかりどこかへ行ってしまっていた。
「別にあのまま寝ても良かったのに……」
「なら、寝に行け。ここで寝るな」
「今は目が覚めたの! 覚めたら寝るの勿体ねえじゃん」
「どっちだ……」
不貞腐れながらスマホ画面を開き、今日撮った写真を眺めた。
既に俺と朝霧がルームシェアしていることは公になっているから、俺の方は規格メインの投稿になる。朝霧の方はいつも通りだけど。
だから、料理以外のこういう投稿もいいかな。ただ朝霧が写っているものは、一応宮城さんに了承を得ることになっている。
どっちかっつうと朝霧側で投稿する画像になるだろうし、良さそうなのは宮城さんに送っておこうかな。
俺の方は景色とか……って、全然撮ってねえ! 朝霧ばっかだ……極端にもほどがある。
あ、と思い出して風呂に行こうかとしている朝霧を呼び止めた。
「朝霧、スマホ見せて。俺側で投稿できそうなのねえかな?」
「……お前は顔を見せないんだろ?」
「出さねえよ! けど、切り取ったりして、使えるモンがあるかもだろ」
決して、俺側の画像が朝霧しかいないとは言うまい。
「見られても困らないだろ? ロック解除して置いてけよ」
「見られても困らないが、お前は消すだろう」
……チッ、バレたか。
素知らぬ顔をする俺をじろりとやって、朝霧が壁を背にどかりと腰を下ろして手招きする。
差し出されたスマホを手に取ろうとしたら、ひょいとかわされた。
「なんだよ?!」
「お前に持たせると危ない。ここで見ろ」
「信用ねえな?!」
「あると思うか」
朝霧がスマホを離さないので、渋々回り込んで背後からの監視のもと、画面を操作する。
絶対消してやると思った女子高生画像は、なんというか男二人だとそこまでキャピッと感が出ないので、まあいいかと流せる程度……だろうか。
俺のビックリ顔がたまらなく嫌だけどな!
「なんかお前、結構撮って――え、これいつ?!」
順番に見て行こうと思ったところで、もう一枚、やたらと距離の近いツーショット。
こんなもん撮られた覚えねえけど?!
「見れば分かるだろ」
焦りながらよくよく見ると、俺は目を閉じている。
これ、あれか! お祈りの時の……お前、こんな至近距離で撮ってたの?!
知らぬうちに撮られたそれが、妙に恥ずかしくて。
素早く消去してやろうと……まあ、無理だよな!!
「消すな」
「いいだろ別に! なんで残したがるんだよ?!」
「残したい」
ガチっと掴まれた腕は、当然ビクともしない。
むっと振り返って、はたと気が付いた。
背後に朝霧。その左手がスマホ、右手で俺の右腕。
つまり俺、朝霧の中にいる。
「お前、近いんだよ……!」
「何が」
何ら気にしていない顔で答えられると、なんか……俺だけ気にしているようで、それはそれで気まずい。
俺だって、何も考えてない。何も、意識してない。
平気な表情を取り繕って、画面の方へ意識を持って行った。
「ああ」
俺なんか助手席に座ってただけなのに、疲れた気がする。
車を降りて伸びをすると、そそくさ愛しのマイホーム……ならぬ賃貸へ向かった。
旅行は好きだけど、なんかこう……家が近づくにつれ、早く扉を開けて飛び込みたくなってくる俺って、やっぱインドア派なのかな。
「あ~~帰って来た!」
さっさと上着を脱いで、ごろんとこたつ布団の上に寝転がった。
最高だな、家は。日帰りだったのに、すっかり旅行してきたような気分だ。
帰り道で適当に飯もすませたし、もうあとは風呂入って寝るだけ。
ごろごろ転がっていると、ばふりと上着が降って来た。
「そこで寝るな、風邪ひく」
「大丈夫、寝ても妖精さんが運んでくれるから」
「お前……嫌がるくせに」
そうだけど、よくよく考えたら便利なだけで、別に困ることもないし。朝霧が他人に言いふらすとは思えないし。
今後は妖精さんを頼るようにしようかな。
「風呂は?」
「んーお前先に行っていいよ」
「その間に寝るだろ」
風呂は明日朝入ればいいし……もう半分おやすみモードになってる俺は、適当な返事を返して温まり始めたこたつに潜り込もうとした。
途端、凄い勢いで身体が引かれ、次いでふわっと空中に浮いた。
一瞬の浮遊感と落下の重力。
思いっきり目を見開いて固まった身体。
ドッドッド、激しい鼓動が体の中いっぱいに響いていた。
「ナオ、反射的に手を着くとか、身体を捻るとか、しないと危ない」
視界の中に、面白そうな顔をした朝霧が大きく映っている。
ガッチガチに固まって止まっていた呼吸を再開させ、無駄と知りつつ思い切りその胸元を押しやった。
「猫じゃねえんだよ! そんなことできるか! し、死ぬかと思った……!! 何やってんだよ?!」
「目が覚めるかと」
「永遠の眠りに落ちるかと思ったわ!!」
俺がこんなビックリすると思わなかったんだろう……いやいや、子どもじゃねえんだよ?! 成人男性が寝入り端にほいっと投げ上げられたら、死ぬほどビビるわ!
べしべし叩いて安定した地面に足を下ろすと、心地よい眠気はすっかりどこかへ行ってしまっていた。
「別にあのまま寝ても良かったのに……」
「なら、寝に行け。ここで寝るな」
「今は目が覚めたの! 覚めたら寝るの勿体ねえじゃん」
「どっちだ……」
不貞腐れながらスマホ画面を開き、今日撮った写真を眺めた。
既に俺と朝霧がルームシェアしていることは公になっているから、俺の方は規格メインの投稿になる。朝霧の方はいつも通りだけど。
だから、料理以外のこういう投稿もいいかな。ただ朝霧が写っているものは、一応宮城さんに了承を得ることになっている。
どっちかっつうと朝霧側で投稿する画像になるだろうし、良さそうなのは宮城さんに送っておこうかな。
俺の方は景色とか……って、全然撮ってねえ! 朝霧ばっかだ……極端にもほどがある。
あ、と思い出して風呂に行こうかとしている朝霧を呼び止めた。
「朝霧、スマホ見せて。俺側で投稿できそうなのねえかな?」
「……お前は顔を見せないんだろ?」
「出さねえよ! けど、切り取ったりして、使えるモンがあるかもだろ」
決して、俺側の画像が朝霧しかいないとは言うまい。
「見られても困らないだろ? ロック解除して置いてけよ」
「見られても困らないが、お前は消すだろう」
……チッ、バレたか。
素知らぬ顔をする俺をじろりとやって、朝霧が壁を背にどかりと腰を下ろして手招きする。
差し出されたスマホを手に取ろうとしたら、ひょいとかわされた。
「なんだよ?!」
「お前に持たせると危ない。ここで見ろ」
「信用ねえな?!」
「あると思うか」
朝霧がスマホを離さないので、渋々回り込んで背後からの監視のもと、画面を操作する。
絶対消してやると思った女子高生画像は、なんというか男二人だとそこまでキャピッと感が出ないので、まあいいかと流せる程度……だろうか。
俺のビックリ顔がたまらなく嫌だけどな!
「なんかお前、結構撮って――え、これいつ?!」
順番に見て行こうと思ったところで、もう一枚、やたらと距離の近いツーショット。
こんなもん撮られた覚えねえけど?!
「見れば分かるだろ」
焦りながらよくよく見ると、俺は目を閉じている。
これ、あれか! お祈りの時の……お前、こんな至近距離で撮ってたの?!
知らぬうちに撮られたそれが、妙に恥ずかしくて。
素早く消去してやろうと……まあ、無理だよな!!
「消すな」
「いいだろ別に! なんで残したがるんだよ?!」
「残したい」
ガチっと掴まれた腕は、当然ビクともしない。
むっと振り返って、はたと気が付いた。
背後に朝霧。その左手がスマホ、右手で俺の右腕。
つまり俺、朝霧の中にいる。
「お前、近いんだよ……!」
「何が」
何ら気にしていない顔で答えられると、なんか……俺だけ気にしているようで、それはそれで気まずい。
俺だって、何も考えてない。何も、意識してない。
平気な表情を取り繕って、画面の方へ意識を持って行った。
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