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95 PCと座椅子
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「とりあえず聞くけど、お前PCにこだわりとかある?」
「ない」
「だろうな。何に使うか、だけど……ひとまず動画見たりするくらいか。けど、朝霧チャンネルを本体に残すなら結構な容量食うぞ。クラウドと外部だけでいいなら別だけど。Core i5くらいの性能でいけるか……? もうちょっとあった方がいい?」
「何を言ってるか分からん」
お前……本当に水泳以外何もできねえやつだな?! そのスマホはどうやって買ったんだ。でも、見れば結構古い。彼女に持たされた、とか言いそうなので聞かないことにする。
「ゲームとかしねえよな? 編集もお前はしないだろうし。メーカーにこだわり……あるわけねえな。つうかお前、営業内勤だろ? PC家で使わねえの? 持ってないと不便だろ」
「昔は持ってた。仕事は会社ですませる」
持ち帰り仕事とか、ないわけ? まあ……営業内勤ってあれかな? 個人情報とかある感じ? 自宅でできる仕事が少ないのかもだけど。
「まあ……この辺りじゃねえ? 提出書類とか、PC持ってた方が便利だろ? 本当に動画見るだけなら、いらねえとは思うけど」
左からずいっと寄って覗き込む朝霧と、俺が重なる。
避けてやろうとしたものの、背中から回った腕が、マウスを握った。
……そうすると、俺の逃げ場がなくなるわけですが。
普通、俺の前を通ってマウス握らねえ?
お前が気にしないなら、俺だって気にする必要、ない……よな。
少し息を吐いて、後ろにもたれ掛かってやった。
ちょうど、右の肩口あたりだろうか。
ぴく、とした朝霧が、俺の顔を覗き込んでいる気がする。
「こんなところに、いい背もたれがあったな。……嫌なら退けろよ、狭いんだよ」
「嫌じゃない」
軽口を叩けば、相当近い位置から吹き込まれる返事。
大丈夫、背中だから……鼓動は悟られない、はず。
ふいに、背中の朝霧がごそりと大きく身じろぎした。
そして、腰に回った腕が当たり前のようにずいと俺の位置を動かして。
「おい……!!」
「もたれていいぞ」
「そういうことじゃない……!!」
さすがに、どうなんだお前……?!
完全に朝霧を座椅子とする体勢に、やはり狼狽しているのは俺だけ。
スクロールされ始めた画面を見て、必死に平常心を取り繕う。
知らねえからな、お前、これ普通の人が見たらとんでもねえと思うぞ。もう言わねえからな。
そっと力を抜いた身体が、完全に朝霧の中に沈む。
朝霧の顎が、顔の横にある。
大きく膨らんで、沈む身体で、俺の身体も持ち上がっては、沈む。
本当に、でかいな。朝霧の両腕が、余裕をもって俺の左右から出ている。
じわじわ、背中から浸食してくる温かさから逃げ出したくて、逃げられない。
「こんなにあるのか」
耳元と、背中から直接伝わる声に、思いのほかびくっと飛び上がってしまった。
朝霧が、訝し気にこちらをのぞき込む。
やめろ、そうするともう、本当に顔が触れそう。
「ナオ? 寝てるか?」
「寝てねえわ!!」
端正な顔に両手を突っ張って、思い切り引き離してやった。
くすくす笑う朝霧の振動が、きっちり背中に伝わってくる。
「どれがいい? なんでこんなに値段が違うんだ」
「スペックが違うからだよ! ストレージもな!」
「分からん。お前が選んでくれ」
「怖えわ! 高価な買い物だぞ、自分で選べよ」
もし思ったのと違っても朝霧が文句言うとは思えないけど、それでも、俺の方が勝手に責任を感じる。そもそも、俺もそこまで詳しくないし。一般人程度の知識しかないんだからな!
「どれでもいい」
「あっそ! なら、一番高いの買えば?! 絶対不足しねえだろ」
「そうか」
「待て待て待て?!」
本当に最高値から選ぼうとするから、大慌てでその手を掴んで止めた。
くそ、結局俺がある程度選ばなきゃ無理か。
朝霧に必要な内容なら、10万以内で選べると思うけど……。
渋々いくつか候補をチョイスして、時折質問しながら絞っていく。それにしたって、予算どうでもいいとか、どういうことだよ。お前、本当に金貯めてるよな……貯まってるというべきか。
物欲のないやつだ、一体歴代の彼女はこいつに何をプレゼントしたのだろうか。
プレゼント、でふと画面に目が留まった。
『クリスマス特集』……朝霧チャンネルで撮影して、すっかり終わった気分になっていた。そういや、今週だ。
「クリスマスか。お前、どうすんの?」
「どう、とは」
「出かけたりする?」
彼女がいないのは、知ってるけど。だけど、多分候補はごまんといるわけで。
ちょっと今の時期、目立ちすぎるとは思うけど。
「どこへ行きたい?」
「…………お前、それ俺と行くって言ってる?」
「違うのか」
「俺はどこも行かねえよ?! 混むし、彼女いねえし!」
「なら、家だな」
……なんか、噛みあってなくね? お前、俺と過ごす前提で話してないか?
頭に『?』をたくさん浮かべながら、そこはかとなく、朝霧がいることに弾む心を感じて腹が立つ。
ケーキ、いるよな。他、何を作ろう。せっかくだから、酒も解禁するか。
そうだ、SNS投稿用のクリスマス朝霧を撮ってやろう。サンタ帽でも被せてさ。飾りつけだって必要だよな?! クリスマスツリーとか、電飾とか。
「ない」
「だろうな。何に使うか、だけど……ひとまず動画見たりするくらいか。けど、朝霧チャンネルを本体に残すなら結構な容量食うぞ。クラウドと外部だけでいいなら別だけど。Core i5くらいの性能でいけるか……? もうちょっとあった方がいい?」
「何を言ってるか分からん」
お前……本当に水泳以外何もできねえやつだな?! そのスマホはどうやって買ったんだ。でも、見れば結構古い。彼女に持たされた、とか言いそうなので聞かないことにする。
「ゲームとかしねえよな? 編集もお前はしないだろうし。メーカーにこだわり……あるわけねえな。つうかお前、営業内勤だろ? PC家で使わねえの? 持ってないと不便だろ」
「昔は持ってた。仕事は会社ですませる」
持ち帰り仕事とか、ないわけ? まあ……営業内勤ってあれかな? 個人情報とかある感じ? 自宅でできる仕事が少ないのかもだけど。
「まあ……この辺りじゃねえ? 提出書類とか、PC持ってた方が便利だろ? 本当に動画見るだけなら、いらねえとは思うけど」
左からずいっと寄って覗き込む朝霧と、俺が重なる。
避けてやろうとしたものの、背中から回った腕が、マウスを握った。
……そうすると、俺の逃げ場がなくなるわけですが。
普通、俺の前を通ってマウス握らねえ?
お前が気にしないなら、俺だって気にする必要、ない……よな。
少し息を吐いて、後ろにもたれ掛かってやった。
ちょうど、右の肩口あたりだろうか。
ぴく、とした朝霧が、俺の顔を覗き込んでいる気がする。
「こんなところに、いい背もたれがあったな。……嫌なら退けろよ、狭いんだよ」
「嫌じゃない」
軽口を叩けば、相当近い位置から吹き込まれる返事。
大丈夫、背中だから……鼓動は悟られない、はず。
ふいに、背中の朝霧がごそりと大きく身じろぎした。
そして、腰に回った腕が当たり前のようにずいと俺の位置を動かして。
「おい……!!」
「もたれていいぞ」
「そういうことじゃない……!!」
さすがに、どうなんだお前……?!
完全に朝霧を座椅子とする体勢に、やはり狼狽しているのは俺だけ。
スクロールされ始めた画面を見て、必死に平常心を取り繕う。
知らねえからな、お前、これ普通の人が見たらとんでもねえと思うぞ。もう言わねえからな。
そっと力を抜いた身体が、完全に朝霧の中に沈む。
朝霧の顎が、顔の横にある。
大きく膨らんで、沈む身体で、俺の身体も持ち上がっては、沈む。
本当に、でかいな。朝霧の両腕が、余裕をもって俺の左右から出ている。
じわじわ、背中から浸食してくる温かさから逃げ出したくて、逃げられない。
「こんなにあるのか」
耳元と、背中から直接伝わる声に、思いのほかびくっと飛び上がってしまった。
朝霧が、訝し気にこちらをのぞき込む。
やめろ、そうするともう、本当に顔が触れそう。
「ナオ? 寝てるか?」
「寝てねえわ!!」
端正な顔に両手を突っ張って、思い切り引き離してやった。
くすくす笑う朝霧の振動が、きっちり背中に伝わってくる。
「どれがいい? なんでこんなに値段が違うんだ」
「スペックが違うからだよ! ストレージもな!」
「分からん。お前が選んでくれ」
「怖えわ! 高価な買い物だぞ、自分で選べよ」
もし思ったのと違っても朝霧が文句言うとは思えないけど、それでも、俺の方が勝手に責任を感じる。そもそも、俺もそこまで詳しくないし。一般人程度の知識しかないんだからな!
「どれでもいい」
「あっそ! なら、一番高いの買えば?! 絶対不足しねえだろ」
「そうか」
「待て待て待て?!」
本当に最高値から選ぼうとするから、大慌てでその手を掴んで止めた。
くそ、結局俺がある程度選ばなきゃ無理か。
朝霧に必要な内容なら、10万以内で選べると思うけど……。
渋々いくつか候補をチョイスして、時折質問しながら絞っていく。それにしたって、予算どうでもいいとか、どういうことだよ。お前、本当に金貯めてるよな……貯まってるというべきか。
物欲のないやつだ、一体歴代の彼女はこいつに何をプレゼントしたのだろうか。
プレゼント、でふと画面に目が留まった。
『クリスマス特集』……朝霧チャンネルで撮影して、すっかり終わった気分になっていた。そういや、今週だ。
「クリスマスか。お前、どうすんの?」
「どう、とは」
「出かけたりする?」
彼女がいないのは、知ってるけど。だけど、多分候補はごまんといるわけで。
ちょっと今の時期、目立ちすぎるとは思うけど。
「どこへ行きたい?」
「…………お前、それ俺と行くって言ってる?」
「違うのか」
「俺はどこも行かねえよ?! 混むし、彼女いねえし!」
「なら、家だな」
……なんか、噛みあってなくね? お前、俺と過ごす前提で話してないか?
頭に『?』をたくさん浮かべながら、そこはかとなく、朝霧がいることに弾む心を感じて腹が立つ。
ケーキ、いるよな。他、何を作ろう。せっかくだから、酒も解禁するか。
そうだ、SNS投稿用のクリスマス朝霧を撮ってやろう。サンタ帽でも被せてさ。飾りつけだって必要だよな?! クリスマスツリーとか、電飾とか。
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