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112 記憶がない間に
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ひとまず、データ取り込みにはまだ時間がかかるので、その間は手持ち無沙汰だ。
朝霧だって職場でPC使ってんだから問題ないだろうと思いつつ、一応の操作確認やら動画編集のページやらの説明をしておく。
「で、宮城さんのメールアドレスは……これ! 登録しとくぞ」
「お前のは?」
「俺のいる? まあ、登録しとくか」
ちら、と時計を見たら、もう朝とはいえない時間。どっちかと言うと昼前だろうか。
「朝霧、昼どうする? つうか夜何食う?」
「何か買ってくるか? 昨日ご馳走を食ったから」
ふうん、一応お礼的に考えてくれてんのかな?
今日は俺もゆっくりするってのも、いいかもしれない。だって、朝霧がずっと家にいるんだろうし。
「お前が買いには行けねえだろ。じゃあ出前? ピザとか……大変そうだしなあ」
「大変?」
「だって、めっちゃ注文来てそうじゃねえ?」
「ピザ屋の心配か」
可笑しそうな朝霧に、ムッと唇を尖らせる。
作る側をやってるとな、そういうのも気になるんだよ! ……たぶん。
「じゃあ、放置ですませられる、ビーフシチューとかにするか! あとは適当に買い物でもしてくるわ」
「俺も行く」
「お前が来たら目立つんだって!」
「行きたい」
珍しく食い下がるな。
少し悩んで、人の少ない地元民専用スーパーならいけるかと頷いた。
その代わり、華やかなモンは売ってねえよ? ある程度材料を買って作る必要があるだろうな。
「ひとまず俺は、さっき食ったのがブランチだな! お前はどうせ昼も食うだろうけど」
「食う。でも、作らなくていい」
「ならお前、何食うんだよ」
「……米?」
視線を彷徨わせた朝霧が、炊飯器を見つめている。
確かに飯は炊いてあるけどな、それだけ食う気か。うん、食う気なんだな。
「ビーフシチューのついでに適当に作るわ。アスリートに白飯だけ食わせられねえだろ」
「悪い」
「今さらだろ」
「でも、クリスマスだ」
お前、そんなこと気にするの?!
申し訳なさそうな朝霧が可笑しくて、身体を捻って見上げ――端正な顔があんまり近くて、慌てて前を向いた。
……背中だと、あんま気にならねえんだけどな。
「ナオは食わないのか」
「普通、この時間に食ったら食わねえと思うぞ。でも、おやつは食う」
さっそく、昨日あまり味わえなかった高級チョコでも……と見回したけど、生憎手の届かない位置にある。
「朝霧、チョコ取って」
俺、こたつから出たくないし。
ぐっと身体を傾けて腕を伸ばした朝霧が、無事チョコの入った袋を引き寄せてくる。長いな、朝霧。
「……あれ? 朝霧結構食った?」
「いや? お前が食った」
「えっ?! あの後? ケーキも食ったのに……太るじゃねえか!」
「覚えてないのか」
笑う朝霧を見るに、本当のことらしい。
だって、1個しか食ってなかったはずなのに。
「うわあ~全然覚えてねえ……もったいない……」
「覚えてない時の目印はないのか」
「あるか! そもそも目印があったら、どうすんだよ」
無言でにやっと笑う朝霧に、悪い予感しかしない。
もう、コイツの前で酔わないようにしよう……。
そして、明日からちょっと夕食控えよう……運動はしない。
ふいに、朝霧がぐいっと俺の身体を引いた。
うわっ、となりつつ、なんかもう、コイツの乱暴な扱いと距離の近さに慣れてきた俺がいる。
どうせ抵抗しても無駄なので、されるに任せてほぼ横抱きみたいな体勢になった。
「……なんだよ」
決して愉快ではないとむくれた顔で見上げると、朝霧が屈み込むように顔を寄せた。
な、なんだ?!
「昨日みたいに食うか?」
「……え? は……?」
「こうだろ」
そのまま、チョコに手を伸ばした朝霧が、それを咥える。
ん、と差し出されるその、煽情的な顔といったら……
それはもう、言葉と共に俺の頭を真っ白に塗りつぶすのには、過剰すぎるくらいで。
……俺。うそ……だろ、そんなこと、した?
だって、そんなの、もう。
完全に固まって青くなったり赤くなったりしているだろう俺に、朝霧がふっと笑った。そして、咥えたチョコを摘まんで俺の口に押し込んだ。
ちょっ……そんなもん食わせんな!!
衝撃に我に返って、指を舐める朝霧を睨み上げた。
「……嘘かよ」
「嘘だな」
簡単に答えた朝霧に、唸り声をあげて顔を覆った。
よかった……俺、本当に、どうしようかと。
いくら、酔ってたって。
「ナオ、なんで真に受けた」
楽しそうな朝霧の声に、ギクリと肩が震える。
「記憶ねえんだからな! 分かんねえだろ、何するか! 酔っ払いはわけわかんねえことするもんだ!」
「そうか」
笑みを含んだ朝霧の声が、『そうじゃないだろう?』と言っているような気がして。
俺は中々、顔を覆う手を下ろすことができなかった。
朝霧だって職場でPC使ってんだから問題ないだろうと思いつつ、一応の操作確認やら動画編集のページやらの説明をしておく。
「で、宮城さんのメールアドレスは……これ! 登録しとくぞ」
「お前のは?」
「俺のいる? まあ、登録しとくか」
ちら、と時計を見たら、もう朝とはいえない時間。どっちかと言うと昼前だろうか。
「朝霧、昼どうする? つうか夜何食う?」
「何か買ってくるか? 昨日ご馳走を食ったから」
ふうん、一応お礼的に考えてくれてんのかな?
今日は俺もゆっくりするってのも、いいかもしれない。だって、朝霧がずっと家にいるんだろうし。
「お前が買いには行けねえだろ。じゃあ出前? ピザとか……大変そうだしなあ」
「大変?」
「だって、めっちゃ注文来てそうじゃねえ?」
「ピザ屋の心配か」
可笑しそうな朝霧に、ムッと唇を尖らせる。
作る側をやってるとな、そういうのも気になるんだよ! ……たぶん。
「じゃあ、放置ですませられる、ビーフシチューとかにするか! あとは適当に買い物でもしてくるわ」
「俺も行く」
「お前が来たら目立つんだって!」
「行きたい」
珍しく食い下がるな。
少し悩んで、人の少ない地元民専用スーパーならいけるかと頷いた。
その代わり、華やかなモンは売ってねえよ? ある程度材料を買って作る必要があるだろうな。
「ひとまず俺は、さっき食ったのがブランチだな! お前はどうせ昼も食うだろうけど」
「食う。でも、作らなくていい」
「ならお前、何食うんだよ」
「……米?」
視線を彷徨わせた朝霧が、炊飯器を見つめている。
確かに飯は炊いてあるけどな、それだけ食う気か。うん、食う気なんだな。
「ビーフシチューのついでに適当に作るわ。アスリートに白飯だけ食わせられねえだろ」
「悪い」
「今さらだろ」
「でも、クリスマスだ」
お前、そんなこと気にするの?!
申し訳なさそうな朝霧が可笑しくて、身体を捻って見上げ――端正な顔があんまり近くて、慌てて前を向いた。
……背中だと、あんま気にならねえんだけどな。
「ナオは食わないのか」
「普通、この時間に食ったら食わねえと思うぞ。でも、おやつは食う」
さっそく、昨日あまり味わえなかった高級チョコでも……と見回したけど、生憎手の届かない位置にある。
「朝霧、チョコ取って」
俺、こたつから出たくないし。
ぐっと身体を傾けて腕を伸ばした朝霧が、無事チョコの入った袋を引き寄せてくる。長いな、朝霧。
「……あれ? 朝霧結構食った?」
「いや? お前が食った」
「えっ?! あの後? ケーキも食ったのに……太るじゃねえか!」
「覚えてないのか」
笑う朝霧を見るに、本当のことらしい。
だって、1個しか食ってなかったはずなのに。
「うわあ~全然覚えてねえ……もったいない……」
「覚えてない時の目印はないのか」
「あるか! そもそも目印があったら、どうすんだよ」
無言でにやっと笑う朝霧に、悪い予感しかしない。
もう、コイツの前で酔わないようにしよう……。
そして、明日からちょっと夕食控えよう……運動はしない。
ふいに、朝霧がぐいっと俺の身体を引いた。
うわっ、となりつつ、なんかもう、コイツの乱暴な扱いと距離の近さに慣れてきた俺がいる。
どうせ抵抗しても無駄なので、されるに任せてほぼ横抱きみたいな体勢になった。
「……なんだよ」
決して愉快ではないとむくれた顔で見上げると、朝霧が屈み込むように顔を寄せた。
な、なんだ?!
「昨日みたいに食うか?」
「……え? は……?」
「こうだろ」
そのまま、チョコに手を伸ばした朝霧が、それを咥える。
ん、と差し出されるその、煽情的な顔といったら……
それはもう、言葉と共に俺の頭を真っ白に塗りつぶすのには、過剰すぎるくらいで。
……俺。うそ……だろ、そんなこと、した?
だって、そんなの、もう。
完全に固まって青くなったり赤くなったりしているだろう俺に、朝霧がふっと笑った。そして、咥えたチョコを摘まんで俺の口に押し込んだ。
ちょっ……そんなもん食わせんな!!
衝撃に我に返って、指を舐める朝霧を睨み上げた。
「……嘘かよ」
「嘘だな」
簡単に答えた朝霧に、唸り声をあげて顔を覆った。
よかった……俺、本当に、どうしようかと。
いくら、酔ってたって。
「ナオ、なんで真に受けた」
楽しそうな朝霧の声に、ギクリと肩が震える。
「記憶ねえんだからな! 分かんねえだろ、何するか! 酔っ払いはわけわかんねえことするもんだ!」
「そうか」
笑みを含んだ朝霧の声が、『そうじゃないだろう?』と言っているような気がして。
俺は中々、顔を覆う手を下ろすことができなかった。
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