佐藤と朝霧とおうちごはん

藍 雨音(アイ アオト)

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114 ホラーゲーム

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「それ、なんだ?」
「知らねえ? 結構有名だと思うけど。えーと化け物を倒しながら脱出するゲーム?」

ちょっと端折りすぎたかもしれないけれど、まあ分かるだろ。
ゲーム初心者には少々操作が難しいけど、一応経験あるなら、なんとかなるかな。

「一人プレイだから……あれっ? これ、協力プレイできるのか」
「2人でできるなら、やる」

おー、それも面白そうじゃねえ? だって俺、これやったことあるもん。
かなり昔のゲームだったから操作とか諸々変わってそうだけど、でも、展開知ってるからな。
何を隠そう、これが俺のクリアしてないゲーム。

「いいんじゃね? 俺もクリアしたいし、協力プレイの方が難易度下がるっぽい。上げる設定もあるけど、朝霧くんが初心者だからなあ、ハードモードは無理だろ」

先輩風を吹かせながらゲームを起動し、並んで座る朝霧にも、コントローラーを渡しておく。
朝霧って割りと動じなさそうだけど、ホラー系の耐性はどうなんだろうか。俺はまあ、ひとりで旧作プレイしてたわけだし?

「そうだ、雰囲気出すか!」

音を大きめに、そして雨戸とカーテンを閉めて部屋の電気を落とす。
暗い部屋に、不気味なBGMと薄暗い画面が浮かぶ。なんかもう、これだけでゾクゾクしてくる。
スンとした顔の朝霧も、どこまでもつだろうか。

「あれ……? なんか、すげえ」
「なにが」

オープニングムービーが始まって間もなく、ついそう零した。

「いや、映像が……全然違う。映画みてえ」
「そうだな」

最近のゲームって、こんな? すっかり映画気分で見入ってしばし。
不気味な館で、映像が止まった。

「え……? え、もしかしてこのまま動くの?! すげ……」

映画のような画面そのまま操作できることに感動したのも束の間。
もしかして、ここを探索すんの……このホラー映画みたいな化け物屋敷を、自分で?
たらりと汗が流れる。俺が昔やったゲームはさ、もっとこう……ゲーム画面だったんだよ! こんな、リアル映画じゃないんだよ!

画面はどうやら上下二分割方式らしい。
下の画面で淡々とチュートリアルの説明を見ている朝霧に、チラリと視線をやった。

……全然平気そうに見える。
朝霧、ホラーも平気? それとも、無表情なだけ? これ、結構怖いと思うけど。

「ここから、どうするんだ」
「っ、え、っと、とりあえず進む?」

急に話しかけるから、ついビクっとなって誤魔化した。
慌てて俺と朝霧の操作を確認して、問題なさそうなのでゲームスタートだ。

「え、おい、ちょっと、いきなり走っていくなよ?!」

ぱーっと俺の横を走り抜けていった朝霧キャラに仰天する。
違うだろ?! こういうのって、用心しながらゆっくり進むだろ?! とりあえず待って?!

「うわあっ?!」

泡を食って追いかけた途端、朝霧の前に化け物が飛び出して、俺の心臓が止まるかと思った。

「ナオ、やったことあるんじゃないのか」

難なく仕留めた朝霧が、不思議そうな顔をする。

「ある、あるけど! 違うんだよ! あとお前、走るな!」
「なんでだ」
「怖いだろ!」
「怖いのか」

笑みを含んだ声にハッとして、言い直す。

「色々仕掛けがあるんだよ! そういうのに引っ掛かったらゲームオーバーになんの! 怖いだろ?!」
「そうか。電気、つけるか?」
「つけねえ!」

お前、全然俺の話聞いてないな? そういう怖いじゃねえって言ったんだよ!
でも……これ、正直俺ひとりでクリアできないな、と思った。

「……とりあえず、東西に必要なパーツがあるから、集めるぞ」
「ナオ、どっちに行く?」
「え……」

一緒に行かねえの? なんて危うく言いかけて、口を噤んだ。そりゃそうだよな、二人プレイなんだから、手分けするのが当たり前。
少しだけ、朝霧の方へ尻をずらして座り直した。


――で、二手に分かれたはいいものの。
遠く恐ろし気な叫び声が聞こえる。それは多分、朝霧側でバンバン出てきている化け物の声。
室内、すげえ暗い。歩くたび、不気味に軋む床板と、ふいに聞こえるうめき声。

「…………朝霧」
「なんだ」
「……俺。これ無理かも」

安全そうな室内に籠もって動けなくなっている俺を見て、朝霧が吹き出した。
腹立つ。腹立つけど、今俺、電気つけにいけないくらい怖いんだけど。あの、ちょっと助けて。
あくまでゲームで、画面の中なのに、なんでこんな怖いんだ。

ふいに何かが体に触れて、思わずコントローラーを放り出して飛び上がった。

「うわっ?! おい、ビックリするだろ!」
「怖いんだろ」

いつものように引き寄せられ、膝を立てて座った朝霧の、長い脚の間に納まった。俺の目の前に、朝霧のコントローラーがある。
朝霧の背中と足と腕が俺を囲って、絶妙なすっぽり具合。
椅子スタイル、変形バージョンだろうか。
……なんか、すげえな。これ、すんごい安心感なんだけど。

「……まあ、これだとあったかいしな」
「そうだな、俺もあったかい」

そう言って朝霧が屈むように頭を下げると、顎が俺の肩に乗る。

「よそ見してんな、やられるだろ」

ぐいと頭を押しのけ、しっかり背中を預けてコントローラーを手に取った。
身体が、ぬくぬくする。
これなら、俺もできそう。

「そっち行くから、そこで待て」
「おう……」

なんか、思ってたのと全然違うんだけど。
少々不貞腐れながらふと時計を見て、少し笑った。

「クリスマスに、何やってんだろな」
「楽しいぞ」
「まあ……確かに」

ホント、何やってんだろ。
こんなことが、何で楽しいんだろな。
やめよう、と言うつもりなどさらさらなく、俺は居心地のいい空間でくすくす笑った。
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