わたしは美味しいご飯が食べたいだけなのだっ!~調味料のない世界でサバイバル!無いなら私が作ります!聖女?勇者?ナニソレオイシイノ?~

野田 藤

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王宮裏事情解決編

57 農業開始だよ!②

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 足音は確実に私の方へと向かっている。
 ここにいることは団長さんと今訓練中の四人組以外の誰にも言ってない。だとすると……?
 嫌なイメージが私の頭の中を支配した。
 ドクドクと心音が鼓膜の奥で鳴り響くのと同時に体温と呼吸が上がる。じわりと汗も噴き出してくるのも感じた。
 ……焦るな、焦るな……!
 
 私はすぐさま建物の角に隠れて様子を伺う。足音が最大限近づき人影が現れたと同時に「ていやあああ!」と叫びながらタックルをかます。
 するとぽよーんとオノマトペでも出るんじゃないかと言う弾力で跳ね返され、尻もちを着いてしまった。相手も油断していたんだろう、同じく尻もちを着いたようだ。

「ほわあ~!? び、びっくりしたぁ~!」

 私のタックル攻撃で倒れているぽよぽよの体の人物は攻撃が効いてないのかのんびりした声で言った。

 モゴモゴしてる姿に安心し、息を吐く。

「もう、それはこっちのセリフだよ……ポール」

 私は先に起き上がると、未だに地面にへにょりと尻もちついてるポールに手を貸して起こしてあげた。
 てへへ、と照れ笑いしながら差し出された手を掴んで立ち上がり、汚れた騎士服をポンポン叩いてホコリを払っている。

「どうしてここがわかったの?」
「んっと、魔法使ったんだよぉ~」
「そ、そうなんだ……土魔法ってそんなの出来たっけ……?」
「えー? 簡単だよう、地面に魔力流して自分以外の魔力感知するだけだもん」

(そういうのを天才って言うんですよ、ポール君?)

 さすが、ヤックやダンが言うだけある。
 普通は土魔法でそんなことできないって解るくらいに私はこの世界の魔法について学んだので、ポールがどれだけ凄いことをサラッとやってのけてるのかが今ではわかる。
 この人、マジで属性が属性なら……いや、考えるのはやめよう。だってポールはポールなんだから。

「それはそうと、どうしたの? 今は訓練中でしょ?」
「うん、そうなんだけど……気になって休み貰って来ちゃったぁ!」
「え!? そんな事して大丈夫!? 怒られない!?」
「大丈夫! ぼく、騎士じゃないから本格的な訓練は必要ないもん」

 なんと!
 訓練休んでまで来るなんて!ありがとうございますポール様!きっと食べ物関係ってわかってるから来てくれたんだろうけど!!

 まだまだ肥料や材料などを揃えただけだとポールに伝えると、ポールは理解したのかすぐさま土魔法を使って見事な畑(畝付き)を作り出してしまった。

 そう、図らず……楽をしてしまったのだった。

 ちょっと罪悪感を抱きつつも種蒔は自分でするから良しとしよう。
 持ってきていたバックパックから種類豊富な大量の種と木の苗を出す。
 
 植えるのはニンニク、生姜、胡椒、唐辛子、ウコン、紫蘇。ハーブ類は適当にディル、バジル、クミン、コリアンダー(パクチー)、セージ、ルッコラ……鉢にはミント。ミントはすごい勢いで増えるから鉢栽培。こいつらマジで半端ないからな。

 あとはカモミール、オレガノ、ローズマリー、レモングラス、タイム……これは花屋さんにあったものだ。観賞用だと言われたけど私は食べます。だってそれ用だもの。

 樹木系は山椒、シナモン、ローリエ、ナツメグ、グローブ、カルダモン……かな。そして驚くなかれ、カカオやバニラもあった。
 このふたつは伽羅国のもので貴重でも何でもなく普及してないだけだった。カカオは薬に、バニラは普通に花として売られていたのでなんだか拍子抜けした。
 探さずともあるのだ、この世界には。
 ただ、それが食料だと気付かないというだけで……。
 
 そしてこれほぼ全部がカレー用に揃えたものだ。鑑定を駆使して手当り次第購入したかいがあったというものだ。
 こちらの世界は調味料の概念もなければ食料となり得るものが観賞用や薬用としての認識と知識しかない。
 宝の山なのに……もったいない話だ。
 ならば私が第一人者として食べて広めようじゃないか!
 
 畑が成功したら本格的にオールスパイス……いや、夢はでっかくカレールーを作ろう!
 そして甘味としてバニラとカカオを広めるんだ!

 私が生き生きと魔法ギルドで買った種を植えてるのを見て、ポールは「うわぁ……」とドン引きしてたけど、今より美味しいものが作れるよと言うと態度をコロッと変えて張り切って手伝ってくれた。

 バニラやミント、カカオには特に力を入れていた。
 甘味の材料だと言ったからかな?
 
 まあ、この世界の人から見たら危険視されても仕方ないよね。
 だって植えてるの魔法ギルドや宮廷魔導師団でしか手に入らない、言わば危険植物だもん。

 元の世界の知識がある私に取っては全然危険とかそんな事ないんだけどね!!
 なんなら農業ガールとしてSNSでバズっていたかもしれない。

 そんなことを考えていたらあらかた植え終えた。
 ヘトヘトになってるポールは畑の隅で座っている。

「お疲れー! ポールのおかげで種まき全部終わったよ! これ、飲んで!」
「ありがとぉ! ぼくこれ大好き!」

 バックパックから梅ジュースを出して一緒に飲む。
 爽やかな風は初夏を告げていた。もうすぐ夏が来る。
 夏が来たらアイスを作ろう。生クリームたっぷりで、バニラ……はまだ育ってないから残念だけど、ミントなら出来てるからミルクミントなんてのも爽やかでいいかもしれない。
 レモングラスが育ったらジュース作れるし、きっと果実にレモンもあるだろうから、いつもの露店のおっさんから買ってレモンチェッロも作りたいな。
 その頃には仕込んでた醤油と味噌もいい感じだろう。麺つゆを作ってうどんを食べよう。
 ……夢は広がるばかりだ。

 ……うどん……うどんか……。

「あ」
「どしたの?」

 種ばかり購入したから忘れていた。

「ポール、それ飲んだらちょっと作りたい物があるから手伝ってくれる?」
「へ? うん、良いよぉ!」

 うどんを食べるなら、これがないとはじまらない。私はまたニヤニヤしていたのか、ポールが残念そうな目で私を見ていた事は気付かなかった。
 
※※※※※※※※
 

「て事で、池を作るので水脈を探します。ポールさん、よろしくお願いします」

 深々とポールに頭を下げる。
 ポールは地面に手を着くと魔力を流して水脈を探る……と思ったら直ぐに発見。

「引っ張って来たけど、これどうするの?」
「早っ!ちょ、ちょっとまって!」

 水脈を探している間に私が魔法で作ろうとしてたのに。
 慌てて私も地面に魔力を注ぐ。
 魔法はイメージ。女神様はそう言っていた。強くイメージすることで具現化する、と。
 ならば私が今作りたいもの……それは水耕栽培!これも作れるはずだ!
 
 イメージは段々畑の様に三段くらいの高低差を作って一番上の段には岩を詰んで水を滝のように流して循環させるシステム、中断は30cmの深さにしてここで水耕栽培、下段は足首までの深さから膝までの斜めになったため池と川みたいな巡回路。池と川の周りは岩で囲って苔むす感じで和風の庭にあるような風流なやつ……よし、行ける!!
 気合い十分に私は地面に手を当て魔力を注ぐ。するとボコボコと地面が波打ち、イメージした形を作ろうとうねる。

「うおおおおぉ! 唸れ私の創作意欲!イメージ!美味しいものが食べたいという食欲うううう!」

 我ながら情けない叫びだと思う。
 けど、案外上手くいった。
 大体のイメージ通りにはなった事がとても嬉しい。私も成長しているのだ、えっへん!
 細かいところはポールがフォローしてくれたのでイメージした倍の素晴らしい水耕栽培の池が出来た!
 水脈も通したのであとは水が溜まるのを待ちつつバックパックから二種類の草を大量に出して植えた。

「結局これ、なんなのぉ?」

 ポールが池と、植えている草を不思議そうに見ながら聞いてくる。

「ふふふ、これはね……ワサビ田である! あとクレソンも!」
「ワサビ? クレソン?」

 はじめて聞く単語にポールは首を傾げる。
 そう、これはライオネルに連れて行かれた秘密の野外授業で発見したクレソン、そして……偶然見つけた山葵(のようなもの)専用の畑である!
 鑑定がない時だったからあやふやだったけど葉っぱや花からして山葵確定だったから採取してバックパックに入れておいたのだ。
 鑑定を取得した今、みてみたら見事ビンゴ!山葵確定で嬉しかったなあ。これで日本食が更に近づいたなって。

 うどんをイメージした事でバックパックにしまったこと思い出したからよかった!

 やっぱりうどん食べるなら山葵ないとね!しまらないじゃん?
 山葵が出来たら山葵丼とか食べたいし。

 ステーキに山葵醤油ってのもありだし、日本人なら薬味と言ったらまず山葵でしょ!ああ、考えていたらヨダレが……私、ポールの事言えないや。

「これで一気に私の美味しいものが食べたい欲が叶うよー! ビバ!薬味!ハロー豊かな食生活!」

 池を作り終えた頃にはお昼に近かったので、ルンルンでポールと共に食堂に言ったのであった。
 
 
 
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