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服飾の町ファッシー

交渉?いや、命令?

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 前日、トーランから戻ったタクマは早々に寝てしまったのだが、思いの外早く目覚めてしまった。タクマが起きた事に気が付いたヴァイスはタクマに横にすっと寄り添ってきた。他の子達はまだ夢の中である。

「おはよう、ヴァイス。昨日はよく頑張ってくれたな。」
「アウン?(父ちゃん大丈夫?)」
「ああ、体調は問題ない。だがちょっと疲れたな・・・なあ、ヴァイス。ファッシーの町で孤児たちを引き取るのが終わったら、しばらくトーランでゆっくりしようか?」
「アン。(うん。お休みしている時はいっぱい遊んで欲しいなあ。)」
「そうだな。みんなで湖に行って遊んだりしようか。」

 タクマはヴァイスを撫でながらしゃべっていると、みんなも起きてきた。

「みんなお早う。突然なんだが、ファッシーでの用件が終わったら、しばらくトーランでゆっくりしようかと思うんだ。どうだろう?」
「ミアー!(子供達と遊ぶー!)」「ピュイー。(たまには休むべきです。)」
「キキ!(さんせー!)」「キュイ!(僕は兄ちゃんが行くならどこでも良いよー!)」
「マスターも少し休むべきなので賛成です。」

 みんな賛成してくれたのでお礼を言いながら、皆を撫でていた。その後は朝食を用意し皆で食べ、ゆっくりと過ごしていた。辺りも明るくなり始めた頃、門の前にカリオが来ている事に気が付いた。

「スマンな、気が付くのが少し遅くなった。」

 そう言ってカリオを家の中へ迎え入れた。

「さあ、最後の仕上げだ。もう少しすればデイモートが迎えに来るだろうしな。」
「そう言えば、あんたはデイモートの主人が誰か知らないんだよな?」
「ああ、恐らく貴族だろうと言うのは感じているがそれ以外は知らん。」
「なるほどな。だが、会ってどうするんだ?」
「領主がやっていた悪事の証拠を渡して後始末をさせる。恐らく俺がかき回してくれると期待している節があったからな。それ位はやってもらう。」
「それを素直に受けてくれるのか?」
「まあ、あいつらの首をくれてやれば了承せざるを得ないだろうな。それと、領主が人質にしていた人間がお前の家族以外にも居てな。彼女たちの家族も探して連れて来てもらう。」
「なるほど。首は取ってやったんだから、面倒事はやれと言うのか。」

 タクマは面倒な後始末をまだ会った事のない者にさせる様だ。カリオはタクマの神経の図太さに呆れていた。そうやってカリオと話をしているとようやく迎えが来たようだった。タクマ達は門の方に移動すると、そこには門の前に大きな馬車を横付けしてタクマを待つデイモートが立っていた。

「サトウ様、おはようございます。お迎えに上がりました。」
「そうか。じゃあ行こうか。」

 そう言ってタクマは馬車には乗らずにヴァイス達とカリオと共に歩き出すのだった。

「あの!何で馬車に乗らないのですか?」
「ん?馬車では皆乗れないだろう?ヴァイス達は俺の家族だ。全員が乗れないなら俺も歩くだけだ。」
「・・・わかりました。では私も歩いて案内します。おい!馬車は戻っていろ!」

 デイモートは馬車の御者に指示をしてタクマ達を案内していった。案内されたのは町はずれにある小さな家だった。そのまま中に案内されて行くと応接室へと通された。そこには20代半ばくらいの女が待っていた。

「ようこそいらっしゃいました。私はミゼル=レンド。よろしくお願いしますね。どうぞ、お座りください。」
「俺は冒険者のタクマだ。こっちは協力者のカリオ。」

 お互い名乗りを済ませた所でソファーに座ると、タクマは早速話を始めた。

「まあ、知らない人間と長々話す気はないから、こちらの要求を言っておく。領主の首をやるから後始末を頼みたい。それと、あの豚が監禁していた人質を保護していて、安全の為に俺の拠点で丁重に世話している。その家族を探してほしい。」

 タクマは単刀直入に用件を言い、人質の氏名、年齢、待っているであろう家族の名前が書かれたメモと領主たちの首をテーブルに置いた。

「うっっ!・・・デイモート。確認を。」
「はっ!・・・・・・確かに町で行方不明になっている名前が全て書かれています。」

 デイモートはメモをミゼルに渡し、無造作に置かれた首を外へと運んでいった。

「アンタらが、俺を利用して領主をどうにかしようとしていたのは予想していた。だがな、被害を被った人間の事を考えての行動したか?利用しようとした者がSランクの冒険者で、自分達にも怒りの矛先が向かうと考えなかったのか?」

 タクマは限界まで抑えた殺気をミゼルに当てながら質問する。

「・・・・。」

 ミゼルは答える事が出来ない。顔を俯かせたまま震えているだけだ。

「黙っていては分からんな。どうせ、Sランクの冒険者なら上手いこと逃げたり、運が良ければ倒してくれるとでも考えていたんだろう?・・・浅はかな事だ。」

 タクマが言った事は図星だったのだろう。彼女は恐怖に支配されながらも、キッとタクマを睨んだ。

「どうした?図星を言われて逆切れか?」
「貴方に、私の気持ちは・・・。」
「分からんね。知りたくもないし知る気もない。だが、あんたはその浅はかな考えで、領主を止める事もしなかった。俺の家族が狙われた事を知っていたのにも関わらず。」
「それは・・・。」
「まあいいさ。領主は死んで平和になったんだ。後はアンタの好きにすればいい。カリオ、証拠を渡してやれ。」
「・・・いいのか?」
「この小娘が何者で何が出来るのか知らんが、貴族なんだろ?渡しておけばいい。小娘、二度は言わないから良く聞いておけよ?この件の報告以外で俺に関わるな。良いな。それと人質家族の捜索は最優先だ、最速で調べて報告しろ。人質に関しては俺が責任を持って再会させる。」

 カリオは証拠をテーブルに置き、タクマと共に席を立った。

「ま、待って!」

 引き留めるミゼルを振り返りもせずに部屋を出ようとしたのだが、ちょうどその時にデイモートが戻って来た。デイモートは、ミゼルの様子を見て、何か言われたのだろうと思った。

「サトウ様。お嬢様に何か言ったのですか?」
「ああ、浅はかな考えで行動した事を突っ込んだだけだ。お前ら、俺が怒らないとでも思っていたのか?ふざけんなよ?・・・まあいい。小娘には言ったが、最速で被害者を集めろ。再会は俺がさせる。正直、この国の貴族は信用できんからな。」
「・・・。分かりました。最短で調べて報告して見せます。」
「そうか。」

 ミゼルの家を出たタクマ達は、一旦家へ帰る為に歩き出すのであった。
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