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服飾の町ファッシー

被害者たちの選択とタクマの悩み

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 自宅の庭に到着すると、そこにはアークスが待っていた。タクマ達がどうやって来るか予想した上で、庭にしっかりとしたスペースを確保していた。

「おかえりなさいませ。タクマ様には言われておりませんでしたが、商業ギルドから契約書を手に入れてあります。後、領主様にも家族単位での移住者がいるかもと話を通してあります。」
「ありがとう、さすがだな。手続きは明日でも良いだろう、すぐにでも家族に会わせてやってくれ。俺は、馬車から降ろして待機させておく。」

 アークスに家族を連れてくるように指示をしたタクマは、馬車の荷台を開けて連れて来た人を外に出るように言った。

「ここは・・・。」
「ここは、パミル王国の鉱山都市トーランにある、俺の自宅だ。君たちの家族は此処で保護していた。すぐに再会出来るから待っててくれ。」
「パミル王国だと?一体どうやって・・・。」
「それは知らない方が良い。あと、今回の移動方法は口止めの契約をして貰う。保護した女性たちも同じ契約をして貰っている。細かい事は、家族達を連れてくるウチの執事に聞いてくれ。」

 今いる場所を説明し、契約の事を話したところでアークスが人質にされていた人達を連れて来た。

「あなた!」
「おとーさん!」

 家族ごとに再会を果たし、全員が涙に濡れていた。タクマは邪魔するのは野暮だと思ったので、庭の端で大人しく待っていたヴァイス達の所に移動して行った。

「アン!(父ちゃんおかえり!)」
「ミアー。(お父さんおかえりー。)」
「ピュイー。(ご主人様、お疲れさまでした。)」
「キキ!(みんな無事で良かったねー!)」
「キュイ?(タクマ兄ちゃん、疲れてる?)」
「ただいま。」

 ヴァイス達は木陰の下で伏せていたので、彼らの横に座って落ち着くまでゆっくりと待つ事にした。

 再会した家族達は抱き合い、お互いの無事を喜んでいた。中には人質にされていた妻に、派手にぶっ飛ばされている夫も居た様だが、概ね感動の再会になっていた。各家族の再会を見ていると、タクマ達の背後に人影が現れた。

「カリオか。家族と再会できたんだよな。」
「気配も消していたのに、分かるなんて自信なくすぞ。お陰で再会できたよ。・・・まあ、キツイ一発を食らったがな。」
「それぐらいはしょうがないだろうな。訳があって人質に取られたのは聞いてるが、男が家族を守れなかったんだ。」

 カリオは再会して涙する前に、ぶっ飛ばされたと苦笑いしていた。ただ、そうやってやり合えるって事は生きているからこそだ。どちらかが欠けてしまえば、そこにあるのは悲しみしか無くなってしまう。カリオを始め、ここにいる人たちは欠けることなく再会できた。それだけでも奇跡に近いと、タクマは感じていた。

「俺はこの家の警備を任された訳だが、あんたの事をどう呼んだらいい?様付けの方が良いのか?」
「いまさらだろ。タクマで良い。形としては雇い主になるが、対等に話してくれて構わないぞ。嫌な事は嫌で良いし、俺が間違っていれば言ってくれ。」

 タクマは対等の態度で接して欲しいと頼むと、ため息を付いて呆れられてしまった。

「全く、雇い主が警備の人間と対等だと?変な雇い主だな。まあ、俺もその方が気が楽だがな。」

 カリオと笑いながら話をしていると、再会した家族達が近付いてきた。

「タクマ様。私達を家族と再会させてくれてありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「ああ、再会できて良かったな。国も越えて来たんだ。これからは第二の人生だと思って自由に暮らすと良い。明日にはこの町の領主様に会って貰う。ただ、既に報告してあるからこの町で暮らしていくなら、悪い様にはならないと思う。この町ではない所で暮らしたければ、その為の援助は俺がさせて貰うから心配しなくても大丈夫だ。」
「先ほど、タクマ様がこちらの方と話している間に話し合ったのですが、全員こちらの町で住もうと決まりました。」
「そうか。だったら明日の朝に、領主様と話に行くからそのつもりで用意をしていてくれ。恐らく、アークスが当面の服などを手配していると思うから、後でアークスから服や布団を貰ってくれるか?仕事や住む場所が決まるまではこの家でゆっくりとしてくれ。」

 タクマに感謝した家族達は、先に来ていた家族達に案内されて各自の部屋へと戻って行った。

「カリオ。まだ時間あるか?」
「ん?全く問題ないぞ。周りに異常はないしな。」

 タクマはカリオに時間を貰えたので、連れ立って執務室へと移動した。ヴァイス達はタクマの邪魔をしない様に庭に残るそうだ。

「んで、何の話だ?」
「俺の事はアークスから聞いているか?」
「ああ、彼は領主様から聞いたと言っていたがな。」
「そうか。だったら説明はいらないな。俺が話したいのは別の事だ。カリオは人間は好きか?」
「言っている意味が良く分らんが、すべての人間を好きだと言う奴は居ないだろう。多かれ少なかれ嫌いな奴や会わない奴は居る。」
「ただな、俺の場合極端なんだ。自分が守りたい者や好きな人間はどんな事があっても守りたいと思うんだけど、嫌いな者や喧嘩を売って来た者には容赦なく潰したりするんだ。潰す奴には心も動かない。」
「確かにそれは極端だな。だが、すべての人間をその二択では決められんだろ?」
「そうだよな・・・。」
「それに、敵だから、嫌いだから、喧嘩売られたからと言って、すべてを潰すのは違うだろ?時には逃げたり、誰かに頼る事もしないと、最後には一人になっちまう。」

 カリオはタクマの気持ちは分かるが、全ての嫌いな奴が悪い奴ではないと言った。この世界では人死にはとても多く、犯罪や獣、モンスター等多くの危険がすぐ隣にあると言った後、タクマに語り掛けるように話を続けた。

「今まで、あんたのやって来た事を否定するような事は言いたくはないが、この世界に来て力を得た事で気が大きくなっていることは無いか?力は時に暴力になる。分かっていると思うが、力は単に力でしかない。扱う者がそれを有効に使うのか、それとも俺の様に悪しき事に使ってしまうか、その違いでしかない。確かにこれまでは悪人を捌くと言う、しっかりとした理由があっただろうが、殲滅する必要はあったか?痛い目だけを遭わせて、役人に引き渡すだけでも良いと思わないか?」
「・・・。」

 タクマはカリオの自虐を含めた話を黙って聞いていた。

「恐らく、アンタは相当強い。どれだけ強いのかは見当もつかない。だがな、もしアンタの力が封じられたら?アンタを凌駕する者が現れたら?それでも敵とも戦うのか?死ぬのは確実なのに、アンタが家族と断言するヴァイス達と一緒に。自分の好きな者の為に逃げる事も必要じゃないか?誰かに頼る事も必要じゃないか?人が嫌いと言うのは薄々感じてはいるが、それでは誰も守れないし、誰も助けてくれない。」
「そうだな・・・。確かにそうだ・・・。」
「アンタはこの屋敷にいる子供の親でもあるんだ。死ねばあの子達はどうなる?また町の片隅で残飯を漁ったりするのか?違うだろ?だったら、休んでる間に考えろ。・・・俺にはこれくらいしか言えないな。・・・ちょっと熱くなっちまった。」
「いや、その通りだ。此処にいる間にしっかりと考えてみるよ。言ってくれてありがとう。」
「頼むぜ、雇い主。アンタが居なくなれば俺も困るしな!」

 最後に冗談交じりに笑うカリオに感謝しかなかった。カリオを話は終わったとばかりに執務室を出ていった。

「マスター、彼は熱い人間ですね。」
「ああ、だが奴の言う事は正しい。俺は力の使い方を考え直さないと駄目だ。」
「マスターの近くには、私やヴァイス達が居ます。彼らは守られるだけの存在ではありません。一緒に成長していきましょう。」
「そうだな。俺にはナビやヴァイス達が居る。それに新しい家族も出来た。みんなで成長して行こう。」

 そう言ってタクマはトーランに居る間に、自分の生き方を決めていく事になるのだった。
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