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王都パミル

忍び?

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 コラル侯爵邸は寝静まっている。ある程度長旅だったせいか使用人たちを含めほとんどが夢の中だ。起きている者は王都で邸宅の管理をしていた者と、警備の騎士たちだけだろう。

「さて、そろそろ良いかな?」

 タクマは久しぶりに夜間行動をするつもりだった。ヴァイス達はそのまま気配察知を使いながら、部屋で待機してもらう。暗闇にはもってこいの真黒な装備に身を包み、隠密を使った後に窓から闇夜の空へと出ていった。

「いい感じで雲が出ているから、月夜でバレる事はないな。」

 バレない程度に高度を上げてから、襲撃者たちの気配のあったポイントまで移動した。そこにはコラル侯爵の邸宅と似た規模の家があり、タクマは屋根の上へと降り立って気配を探る。気配が動いているのは恐らく警備の者達だろう。ただし、家の中の警備はしていないようだ。家の中には結構な人数が居る様だが、寝ている様で動きはない。そして、この家の所有者を調べるために鑑定を使っておく。

(マスター。4人の気配があった位置には誰も居ません。)
(そうか。面白い物を見つられたらいいな。それにしても貴族の警備ってのは甘いのか?)

 過去のトーランでの侵入を思い出し、警備の甘さが気になった。

(恐らく貴族の家に侵入するような凄腕は居ないのでしょう。それよりも早く終わらせて休みませんと明日に響きますよ。)
(そうだな。とっとと終わらせてしまうか?)

 タクマはナビにフォローしてもらいながら、警備の網を潜って窓から侵入した。無事侵入したタクマは部屋に遮音と結界を施す。

(さて、お約束の隠し金庫は何処にある?)

 部屋の怪しい所を片っ端から調べていると、本棚の一部が不自然になっているのが分かった。本をどかしてみるとそこには金庫がある。金庫を調べてみると、魔力で開く魔道具の様だった。

(たぶん、本人の魔力じゃなきゃ開かないよな。どうするか。)
(恐らくですが、許容量以上の魔力を注いでしまえば壊れて開くと思います。)

 タクマは金庫に魔力を流していく。暫く流し続けていると、金庫の扉が嫌な音を立てて開いた。そこには貴重品の類は入っておらず、沢山の書類が詰まっていた。すぐに、アイテムボックスに全て収納してから早々に部屋を脱出した。仕舞う時に軽く読んでみたのだが、この書類たちはかなり面白い情報を教えてくれた。

(軽く読んだ感じだと、相当な犯罪者のようだな。まあ、枕を高くして寝られるのは今日までだろうがな。)

 タクマは高度を上げて、寝静まっているコラル侯爵邸へと戻って行った。自分の泊まっている部屋に戻ったタクマは、ヴァイス達が起きていてくれたので感謝をしながら撫でてあげた。

コン、コン。

 突然部屋のドアをノックする音が響き、廊下から声が響いた。

「タクマ様。コラル様がお呼びです。」

 ため息を付きながら応対し、執務室へと案内された。執務室では寝ていた筈のコラル侯爵が笑顔で待っていた。言われるまま対面の椅子に座ると、コラル侯爵が口を開いた。

「外の散歩は楽しかったかな?」
「・・・。バレていましたか。まあ、概ね楽しかったですね。」

 タクマは誤魔化す様に返事をすると、コラル侯爵はまじめな顔で聞いてくる。

「唯の散歩ではないだろう?その恰好で散歩なんて説得力がないな。」
「迂闊でしたね。帰ってからすぐに着替えるべきでした。」

 タクマは観念して、自分の行動を報告していく。コラル侯爵は最後まで黙って聞いていた。

「そうか・・・。やはり襲撃者はあの家へ報告に行っていたのだな。」
「ええ、様子見ついでにこんな物もいただいてきました。」

 タクマが取り出した書類の数々をコラル侯爵が受け取って読み始めると、みるみる顔色が変わっていった。

「これは・・・アコール=セイロ侯爵の悪事の証拠ではないか。賄賂、使い込み、暗殺、それだけなら唯の犯罪者で済むが、これは・・・・。」

 黙り込んでしまったコラル侯爵は、暫く悩んだ後に突然立ち上がった。

「この証拠は預からせて貰って良いか?すぐに動かないと不味いのでな。私はこれから城へ行く。」

 外で警備をしている騎士に城へ行くと伝えた後は、自室へ戻って行ってしまった。執務室に残されてしまったタクマは、1人でいても仕方ないので自室へと戻って寝る事にした。
 タクマが寝てから二時間ほど経ったころ、気配を消して近付く存在に気づき目を覚ました。

(父ちゃん。なんか来てるよ。)

 ヴァイス達も気配に気が付き、注意を促してきた。

(分かってる。俺は寝たふりをしているから、お前たちで捕えてくれ。いいか?殺すなよ。)
(わかったー。)

 タクマ達は寝たふりをして気配を消した者を待っていると、音もなく部屋に入って来た。ヴァイス達は侵入者がタクマの近くに近寄った瞬間に飛び掛かって押さえつけてしまった。

「よう。人の部屋に入る時はノックをしないと駄目だぞ。何の用だ?」
「・・・。」

 侵入者はまさか自分が拘束されるとは思っていなかったらしく驚きで声が出ないようだった。

「なんだ。用件もなく侵入したのか?貴族の家に侵入したんだ。殺されても文句はないな。」

 自分が先ほどまでやっていた事を棚に上げて、侵入者に殺気を当てる。

「!!」
「殺気くらいで驚くなよ。言っておくが、俺は敵には容赦しない。もう一度聞く、何の用だ?」
「・・・城への呼び出しだ。王とコラル侯爵の連名での命令だった。もう放してくれないか。」
「だったら初めから普通に呼びに来ればいいだろう?」
「・・・悪かった。Sランクの冒険者と聞いて試したくなった。」

 溜息を付きながら侵入者を放すように言うと、ヴァイス達は静かに退いてやっていた。侵入者は体をほぐしながら立ち上がると、すぐに城に行くように促された。着替えをさっと済ませて準備をしていると、ヴァイス達も一緒に連れて行くようにと言われた。準備は終わっているので、タクマはヴァイス達と共に邸宅を離れ、城へと歩き出すのだった。
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