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新たな計画

精霊

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 引っ越しの準備を殆ど終えたタクマは自室で眠っていた。

「ん?何だ?いつもの呼び出しではないのか?」

 夢でヴェルド様が現れる時はいつもの白い空間なのだが、今回は大きく違っている。タクマが立っているのは水の上だった。それも引っ越す予定の湖の中心の様だった。

「ねえ!祠を掃除してくれたのは貴方?」

 どこからともなく聞こえる声を探すが見当たらない。

「どこ見てるの?ここよ、ここ。」

 どこか幼い声がする方向へ顔を向けるが見当たらない。タクマが首を傾げていると前髪を引く感覚があった。目を向けてみると掌程の幼女が浮いていた。背中には白い羽のようなものが付いていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。髪と目の色はとてもきれいなブルーで透明感がある。

「・・・君が俺を呼んだのか?」
「そうよ!あなたが祠を綺麗にしてくれたんでしょ?その時に綺麗な魔力を吸収して目が覚めたの。」

 どうやら祠にクリアを掛けた時に、余剰な魔力を祠が吸収したために目覚める事ができたらしい。

「祠で眠っていたのか。確かに俺が綺麗にして水を捧げたけど。」
「ありがとう。お陰で目覚める事が出来たわ。あそこに祀られたのは良いのだけど、誰もお参りに来てくれないものだから眠っちゃったの。私は水の精霊だから住んでいる所が汚れてしまうと力が出ないの。祠から出れてよかったわー。」
「へー、水の精霊なのか。確かに水を現した感じではあるが。んで、俺に態々お礼を言いに来たのか?」
「お礼も言いたかったのもあったんだけど、貴方湖の畔で暮らすんでしょ?畔に建っている家からあなたの魔力を感じたもの。」

 どうやら水の精霊は家の魔力を感じてタクマの夢にまで侵入してきたようだ。

「確かに俺とその家族達があの辺に暮らす事になっているな。住んだら不味いのか?」
「そんなわけないじゃない!精霊は人が大好きなの。だけど殆どの人は精霊を見る事が出来ない。私が眠ってしまう前も、見えた人は2人しかいなかったわ。見えなくても良いから人と接していたいの。だから住んでくれるのは歓迎するわ。」

 彼女が言うには、住むのは大歓迎なのだが湖を汚してほしくないそうだ。タクマは住むに際して汚染はない様になっていると言うと、彼女は安心したようだ。

「良かった。あなたが環境を考えてくれていたみたいで。でね、あと2つお願いしたい事があるの。1つはあの祠を管理してほしいの。その代わりにあなたの家族達に危険が無い様に守るから。あの辺には私の眷属がたくさんいるから、あなた達の持ち物に憑依させて守らせるわ。もう1つは・・・、言いにくいのだけど定期的に魔力が欲しいの。」
「祠の管理は任せてくれ。別に対価が無くてもやるつもりだったし。魔力は何で必要なんだ?俺のイメージだと、精霊と言うのは周辺の魔力で生きて行く事が出来ると思ったんだが・・・。」
「確かにあなたの言う通り周辺の魔力だけで生きていけるわ。魔力が欲しい理由は、貴方の魔力がとても濃いからなの。私にとっては大好物みたいなものかしら。」
「なるほど。構わないよ。幸い、俺の魔力は有り余っているしな。」

 タクマがいくらでも魔力をあげると言うと、彼女は顔を綻ばせて喜んでいた。

「ねえ、あの家には誰も住んでいないみたいだけど、いつ引っ越してくるの?」
「準備次第だとは思うけど、数日以内にはみんなで移動すると思う。」
「分かったわ!あそこが賑やかになるのが楽しみだわ。それまでは楽しみに待っているからね。」

 タクマから話しかける暇を与えることなく精霊は帰って行った。

「ん・・・・。俺の夢は誰かと話す場所ではない筈なんだがな・・・。」

 変な時間に目が覚めてしまったタクマは首を鳴らしながらつぶやく。

「マスター。あの精霊ですが・・・。水の精霊と言っていましたが、恐らくもっと高位の精霊かもしれません。」
「どういう事だ?」
「本来精霊と言うのは、私やあの精霊の様に実体を持っていません。私はマスターの魔力によって生み出されていますから例外ですが、彼女は実体を持ち自我がありました。恐らく鑑定をすれば分かると思いますが精霊が神化したものだと思われます。」
「まじか・・・。俺の周りは神ばかりだな・・・。」
「悪い事ではありませんからあまり気にしないのが良いかの知れません。」

 慰めにはなっていないのだが、タクマは気を取り直す事にした。

「まあ、神さまと会える俺は幸せ者だと思っておこう。子供達だけではなく、住むもの全てを守護してくれると言ってくれているんだ。感謝をしないとな。」

 そう言ってタクマは時間があるので寝なおす事にしたのだった。
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